22日目 濃いめ

彼曰く、濃いめもいいけど薄くてもよし。


 ***


大御所に誘われて、夜の街。

右も左も、何度か足を運んだことのある場所ではあるものの、夜の店に入ったことはない。

時間帯が変わるだけで、一緒に歩く人が変わるだけでこんなに印象が変わってしまうのか。

恐ろしいものだ、都会というものは。

濃いめに作られたウーロンハイを持ち上げて、氷をカラカラと鳴らして眺める。


「あれー!全然減ってないじゃない~、ほらもっと飲んでよ~!」


茶色く染まった氷越しに、濃いめの化粧で着飾ったおばさん風の男性が、癖強めなしゃがれた声を引っ提げて乾杯してきた。



いわゆるおかまバー。

今回の飲み会の〆の店として連れまわされた先に待っていたのは、いずれも40歳以上とみられるノリのいいオバサマたち。

彼・・・、いや彼女たちは大御所さんとも付き合いが長く、よくしてもらっているらしい。

「お前らまた老けたんじゃねぇのか?化粧乗りが悪くなってるぞ」

「やだもう先生、そんなこと言わないでよ~。これでもスキンケアとか気合入れてるのよ?今日なんて5時間かかったんだから」

「確かに鼻の形は前と変わってる気がするな、曲げたのか?」

「何言ってんの、整形なんてしてないわよ!」

「いや、そんな気がする。ちょっと鼻つまませてくれ」

「バカ、そんなことしたら鼻が曲がるでしょ!」

「やっぱしてるんじゃねぇか!」

深夜テンションでハイになっているのか、半世紀以上を生きている人と、同い年くらいのママが盛り上がってる。

2軒目まででそれなりにアルコールにやられている私はそのやり取りを横目に、この後どうやって帰ろうかと考えながら愛想笑い。

(これが大人の楽しみ方か・・・)

隣の席でカラオケしている男女とキャストたちのガヤがやけに遠く聞こえて、初めての場所に緊張しかしなかった。

「「「「ウ・ル・ト・ラ・ソウッ!!!」」」」

まだまだ考え方が子供な私にはそんなたいそうな魂は宿っていない。


そもそも今日の飲み会メンバーのメンツは謎だった。

業界の大御所2人、最近他班の仕事をしに会社に来ている女性、そして私。

ほとんど接点がないし、何なら話すのが初めての人もいるくらい。

大御所の内の1人とは仕事上の付き合いがあったからよかったけど、それがなかったあら私のミニマムコミュ力では生きていられなかったかもしれない。

あわあわしながらだったけど、若い頃の苦労話やこれからの話を引き出したり、いじったりいじられたりして楽しく過ごせた。

お酒も食事もおいしかったし、いい有給を過ごせたなぁ。


なんて思っていた帰り際、

「梅、行くぞ!」

軽快な足取りでタクシーを呼び止めた別の大御所先生に腕を引かれ、ええぇっ?という間に夜の街まで連れてこられたわけで。

小さなバーとおかまバーと、さすがにお腹いっぱいで酔いより先に疲れが出てしまった。

「このお酒濃くないですか?」

「いや、いつも通りのはずですけどね~?」

大御所先生が赤らめた顔でママに聞いて、グラスとにらめっこしている。

私も自分のグラスの中身を疑ってみるけど、頭の働いていない今では意味はない。

何よりも新しい体験が新鮮過ぎて、この夜のことを思い返すので精いっぱいだった。

さすがに濃い1日すぎるので、次からはもう少し薄めでもいいかな・・・。

じーっとグラスとにらめっこしていた大御所先生が視線を寄こして、

「次は薄めにするか?」

「そうですね。ママー、ウーロン薄めで2杯」

「はいはーい」

濃すぎた1日をゆっくり飲み下していこうと思う。

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