20日目 2020年6月

彼曰く、今日は何しても天に赦される日なんだって。


宝くじを買いたい。


歩いている道すがら、

黄色と白と少し赤色が混ざった四角い箱に目を取られた人は多いと思います。

「夢をつかもう!ジャンボ宝くじ」

そんな感じの謳い文句を引っ提げて、

道行く人を誘惑している。

鏡越しの受付のおばさんが微笑んでいるように見えてしまう。

大した魅力は感じないかもしれないけれど、

何となく寄ってみたくなってしまう。

遊郭できれいな女性を目にしてしまった時のように、

ウィンドウショッピングのつもりがかわいい鞄を見つけてしまった時のように、

輝いているような錯覚に見入ってしまう。

自分の中の抑えがたい欲求を見た人は、

きっと多くいることでしょう。

そのたびに我慢してきた人も多いはず。


人間の欲求は非常に多いです。

十人十色というくらいですし、

世界中の人間がすべて同じ訳がありません。

77億人77億色、ほんとにいろんな欲求であふれています。

新しい車が欲しい。

たくさん本を買いたい。

美味しいものを気が済むまで食べたい。

買いたくてキープしていたものを思い切って買いたい。

今までとは違うところで暮らしたい。

想い続けているあの人に告白したい。

新しいことにチャレンジしたい。

ギャンブルを一回でいいから体験してみたい。

たまには運動を続けられるような準備をしたい。

ずっと行きたかったところを訪れたい。

大好きなあの人とこれからも一緒に暮らすための一歩を踏み出したい。

今後の資金作りのために投資活動を始めたい。

社会人らしく財布を新調したい。

新しいファッションに身を包みたい。

時代の流れに沿って自宅環境を整えたい。

生まれ変わりたい。

などなど・・・。


・・・最後のは常軌を逸していますけれど。

人並みの欲求に関していえば、

今日この日に行っておくべきことだそうです。

それが彼の言う「天赦日てんしゃにち」。

天が人の行いのすべてを赦す日。

なんという太っ腹な日でしょうか。

普段財布のひもをキッツキツに締めている、

私の中の倹約家魂も、

天が、神が、すべての行いを赦すというのでは、

多少なりとも緩むもの。

後から来る罪悪感が怖くて、

いつもなら二の足を踏んでしまうあんなことやこんなこと。

実行するために金が必要というなら出してしまおう。

挑戦するために時間が必要ならば割いてしまおう。

すべて神の後押しのもとに行っていると思うと、

なんだか大義を得た気分です。

加えて今日は「一粒万倍日いちりゅうまんばいび」。

1つのことが1万倍にもなるほどの吉日でもあるそうです。

奇跡のような吉日が奇跡のような重なり方。

このような日は1年の中でも数回しかなく、

2020年は何と今日が最後とのこと。

今日を逃すと半年先になるそうで。

逃がせば大きな獲物を逃すことになるということでしょう。

最近はコロナの影響でテレビやニュースから遠ざかり、

時代の流れから落とされている気がしないでもないですが、

今日という強運勢には乗っていきたいところ。

あわよくばやりたいことが叶うといいなと、

ベッドの上でスマホを眺めながら奮起しました。

一国一城を落とすほどの勢いで、

色々なことを思い浮かべます。

行けー、わが煩悩!

今なら何でも叶う気がする!

小心者で何をするにもなかなか決断できずじまい。

罪悪感を抱く未来を想像して罪悪感を感じていた自分。

そんな私でも今日だけは何でもできる気がする!


色々思い浮かべた結果、

財布を新調することにしました。

自粛期間前に伊勢丹で目をつけていたブランドのコンパクト財布。

ようやく大きすぎる安い財布とおさらばです。

さらば昭和の匂い残る薄財布。

時代はキャッシュレス化なのですよ(ドヤ顔)。

あとは服を買ったのと、

新オープンしたお店に行ったくらい。

あと少しだけゲームに課金した(小声)。

(欲しいキャラは来なかった)

そこそこ使って満足しました。

先日、国から頂いた臨時支給金。

しめて10万円をすべて使うことにはなりませんでしたが、

半分くらいはさようなら。

最後に宝くじでも買えばよかったかなと思いましたが、

ここはひとつ運気を取っておくことにします。

いくら神が許すといっても、

自分では許せないこともある。

今日したことは自分で許せることを十分しました。

これ以上は高望みでしょう。

そもそもそれほど資金もない。

次の天赦日と一粒万倍日の重なる奇跡の日のために、

残りは資金作りにでも当てようかな。

資金調達を神に頼るのは、

私の年ではまだ早い。

いつか自分の行いが報われる、

大きなことをしてやったと実感したときのために、

神への拝謁は取り置きをお願いさせていただきます。

最後にわがままを許してもらえるなら、

どうか今しばらく、こんな私を生かしておいてくださいな。


敬具。

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