2日目 タバコミュニケーション

彼曰く、温度差と同じように、考え方も違う。


「タバコミュニケーションも少なくなってきたなぁ」


たばこの煙をくゆらせながら、同僚がぼやく。


タバコミュニケーション?

なんだそれ、初めて聞いた。

どこかで聞いたような、なんか他にも同類があったような気が。


「飲みニケーション、でしょ」


そうそれ、飲みニケーション。

飲み会での交流。

酒のツマミに誰かののろけ。

ガンガン飲むならゲーム。

ゲーム(→↓)じゃないよ、ゲーム(↑→)だよ。

発音が少し違うらしい。

細かい違いは気にしないけど。


上司と部下の区別なく、互いの近況を言い合ったり。

楽しいこと、つらいこと、しみじみしたこと、気に入らないこと。

いろんな話をアテにして、好きな酒をちびちび飲む。

組織に入ったときにはだいたいあるアレ。


「煙そうだなぁ」

「意外に楽しいよ」

「慣れてないとダメでしょ、吸わない人間からすればちょっとわかんない」

「吸ってみたら?」

「そんな美味しいご飯をお裾分けするみたいに軽い感じで言う?」

「美味しいからね、事実だよ」


フゥーッと大きな塊を吐き出して、甘美な顔で余韻を楽しんでる。

まさに愛煙家という感じ。スタイルから何からタバコを吸うために造形されたような意匠。半分減った白い巻物を指に挟み、気怠げな目で遠くを見てる。

歳も入社も同じ同僚。大人な格好が夕日に映える。


タバコミュニケーションってどういうのだろう。

飲みニケーションは想像できるけど、タバコミュニケーションは分からない。

まだまだ子供な私の心、大人の感性はムズカシイ。

想像の果てにある会話には、耳も頭も追い付かない。


仕事については初めて同士、いろんな悩みや愚痴を共有してきた。

そういうとき、私はどうしても喧嘩腰になってしまう。

アレが気に入らない、これがおかしい、何もかも裏で仕込まれてるんじゃないか。

あからさまなことから、それはないだろという突拍子もないことまで、あれやこれやと並べ立て、気の済むまで吐き出してしまう。

こっちの温度は高いのに、同僚の温度は変わらない。

タバコを吸ってる今のように、飲みの席でも乱れない。

相手の話を止めることなく、間ができるまで耳を傾ける。

時に酒をのみ、肴をつまみ、目を瞑って頷いて。

こちらの熱が収まるころ、ゆっくりと低い声で語りだす。

そんなときにいつも思う。

おお、これが大人かぁ。


また白い塊を吐く。

なにかを達観したような、物事を大局的に見るような横顔。

遠くに見えるビルの向こう、オレンジに染まる空の先。

大人っぽくゆったり座り、短くなったタバコを垂らす。

私みたいな考えの人間には分からない。同じ大人でもこんなに違う。


タバコを通じた話では、どんな会話があるのだろうか。

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