勇者が王城に帰ってきた話

 

 連たちが魔窟から帰ってきた日の夕方。王城にて。八人の異世界人とビル団長が話し合っていた。

「よく帰ってきたな」

「ありがとうございます。途中危ないところもありましたが何とか無事に帰ってくることができました」

「話は聞いたよ。ウルフが出てきたんだってね。連君はもう隊長は大丈夫かい」

「はい。大丈夫です。ですがウルフは全く予想していない魔物でした」

「うんうん。いい経験になったね。君たちが強くなってくれるのは私としても嬉しいよ」

「ありがとうございます。今回の遠征でみんなレベルが上がりました」

「そうだねぇ。それに連君,君は勇者としての力に目覚めたそうじゃないか」

そういうと連以外のメンバーは驚いたように連を見る。


「はい。まだ安定はしていませんが不思議な力が湧いてきています」

「まさかこんなに早く連君が覚醒するとはね」

そこで舞子が連に聞く。

「あれって勇者の力だったんだ」

「そうらしいよ。俺もまだ信じられないけど」

「なんでいきなりそんな力がでてきたんでしょうね」

そこでビル団長がいう。

「勇者の力は何か強い気持ちがあれば覚醒するんだ。つまり連君はこの魔窟攻略の中でここらがゆさぶられたんだね」

「ねえ連,やっぱりあの対ウルフのときよね」

「そうだな。あそこでみんなを死なせたくないという思いが強くなったから」

「まさに主人公ね」

「うるさいぞ,立夏」

「そこで乳繰り合っているところ悪いんだが連絡してもいいか」

ビル団長がからかいう。

「そんなことはしていませんが,連絡ですか」

それを連が冷静に対処した。隣で立夏が何やら悔しがっているのはなぜだろうか。


「ああ。具体的には君たちのこれからについてだよ」

「そっか。これからどんどん忙しくなるんだ」

「そうだよ。君たちは私たちの希望だからね。がんばってもらわないと」

「具体的には何をすればいいんでしょうか。いきなり魔王を討伐しろとか言われても無理ですよ」

「いい質問だね,連。それに君はこの世界に魔王がいることも知っているのかな」

「え,ほんとにいるんですか。いま,口から出まかせだったつもりですが」

「嘘から出たまこと,というやつだね」

「うわ,ビルさんが日本に染まってきているわ」

舞子が突っ込みを入れた。周りからは笑いの声が漏れる。

「はっはっは。日進月歩だよ。で,魔王のことだけど,その態度から見るとまだ何も知らないという感じかな」

「はい。俺たちは今まで召喚されてから訓練と聖都から少し離れたところで戦闘や,魔窟に一回潜ったくらいしか経験がありませんから。なんならこのエルト以外の町の名前も知りませんよ」

「そうだったかい。これはいつか社会勉強もさせないとまずいかもしれないね。まあ,それは置いておいて,今は魔王の話をしてしまおうか」


「はい。俺たちが知っている魔王って怖くて強くて悪役っていうイメージなんですが」

「そうだね,連。でも私の読んでいた本の中にはかっこいい魔王もいたよ。転生したら魔王で夢想していくやつとか」

ラノベ好きの立夏が言う。連も弘樹に誘われてそういうのを読んでいたから共感するようにうなずいている。


「ふむふむ,君たちの世界にはそんな話があるのか。全く興味が尽きないよ。そしてこの世界の魔王だがね,驚かないで聞いてほしいんだが一人じゃないんだ」

「一人じゃないですか」

「あまり驚いてないね。ここは盛大に驚くところだと思うんだが」

「いえいえ。そんな設定の本もありましたから」

「そうか。そこまであるのか。説明の手間が省かれたな」


「スイマセーンガ,ワタクシソウイウノマッタクワカリーマセン」

どうやら留学生のボブはラノベはあまり読まないらしい。


「みんなが知っているっていうわけじゃないのか」

「そうなんですよ。超知っている人もいれば全く興味ない人もいるんです」

「また一つ勉強になったな。では,話を戻すぞ。魔王についてだが,悪い奴もいればいい奴もいる,ということだ」

「全員が人間の敵ではないということですか」

「ああ。どちらかというと魔物の最終進化系の称号とでもいうべきか」

「最終進化系ですか。つまり魔王は各種族のリーダーってわけですか」


「まあ,そう考えてもらって構わない。だが,魔王は種族のトップだからと言って必ずなれるものではないんだぞ。魔王になるには一定の資格と強さがいる。だからいくら種族のトップでも弱ければなれない。だが,逆に種族のトップでなくてもとてつもなく強ければなれる。そういうもんだ」

「私が知っている話にはない感じね」

「でも分かりました。そして僕たちの最終目標はその魔王の中で悪い奴を倒すということですね」

「うん。そうだね。あと,それとこの国や他の国に降りかかる魔物の脅威の取り除きだ。これも華はないが大事な仕事だぞ」


「分かりました。とりあえず当分は魔窟探索をして実力をつけていけばいいですか」

「そうしてほしい。それに今この国はかなりの危機に瀕しているんだよ」

「危機,ですか」

「ああ。今から言うことは他言無用で頼むよ。国内でも平民はおろか一部の上級貴族と騎士団長にしか教えられていない内容だからね」

「分かりました」

「それってすごい機密なのでわ。こんなにさらっと教えていいのかしら」

「ふふ,君たちを信頼しているんだよ。じゃあ言わせてもらうけどね,この国は,この王国は世界でも有数の大国だ。それは知っているよね」

「はい。単純にサイズだけを言えば帝国と一,二を争う大きさなんですよね」

「ああそうだ。そしてそれを支えるには強大な国力が,戦力が必要になる。だがね,この国にはこれと言って有名な特産品もないし,他を圧倒するような戦力もない。しかしこの強大な領地を守れてきた。それはなぜだかわかるかな」

そういうとビルさんは連たちの返答を待つ。


「国王が優秀だとかですか。もしくは国の場所がいいとか」

「それもなくないんだけどね,一番の理由はそれじゃないんだよ」

「それ以外の理由は思いつきませんが」

「そうか。じゃあ答えを言ってしまおう。それはね,この国にはこの国を守ってくれる存在がいるんだよ」

「それは,まさか魔王ですか」

「おしいかな。ぶっちゃけ魔王よりも強く誇り高い存在だよ。その名を地竜王バルハルト。絶対的な守護神だ」

「地竜王ですか。それはすごい存在ですか」

「ああ。そもそも竜王はこの世に四体しかいないんだ。火,水,風,土。それぞれを司る竜の王。それが竜王だ」

「そんなすごい竜王がこの国にはいるんですね」

「じゃあ問題というのは何ですか。全く問題がないように見えますが」

「そうだね。問題はここからなんだよ。少し難しい話になるよ。まずは風竜王についてだ。彼女は非常に気まぐれでやんちゃだった。伝説では気まぐれで国を滅ぼしたこともあるそうだ。そんな彼女だが,少し前までおとなしかった。正確には彼女の気を引くものがあったのさ。それが炎竜王ベルバルト。彼はいつも彼女の戦闘の相手をしていた。だが彼が死んだんだ。つい2年ほど前かな。死因はまだわかっていないし知ることは不可能だろう。そしてそのせいで風竜王の戦う相手がいなくなった。彼女は少し前までおとなしかったんだが気が変わったのか新しい遊び相手を探し始めてね。そして白羽の矢が立ったのが地竜王のバルハルトさ」

「そうですか。じゃあ,地竜王の守りがなくなるということですか」

「そういうことだ。それが今王国が抱えている最大の問題。その解決を任されたのが君たち,勇者さ」

「それは難題ね。連,何かいい案はある?」

「そうだね,1つ質問をしてもいいですか」

「かまわないよ」

「ベル団長の話では今炎竜王がいないんですよね。もう永遠にいなくなるんですか」

「いや,違うよ。新しい炎竜王が生まれる。その方法は分かっていないけどね」

「そうですか。なら風竜王の興味を地竜王から戻せば解決するかな」

「そっか。無理に風竜王を倒さなくてもいいのか」

「立夏,お前そんなこと考えてたのかよ。倒せるわけがないだろ」

「あの,少しいいですか」

「おう,どうした陽太」

「あの,思ったんですけど水竜王はどこに行ったんですか」

「確かにな」

「それはだな,わからん」

「え,ベルさん今なんて」

「だからわからん。水竜王は水の中に住んでいる。そしてこの千年間誰にも目撃されていない。だからわからん」

「そっか。じゃあ水竜王に協力を頼むのも無理か」

「んー,どうすればいいのかしら」

「ま,今すぐに考えなくてもいいんだ。気長に解決していこうぜ」

「そうですね,ベル団長」

「じゃあ,今日はこれで解散かな」


 こうして,連たちは改めて強くなることを誓い,新たな一歩を踏み出していくのであった。





~サイド ???~


「そろそろ参加者を選び終わったのう」

「ええ。あれが死んでからもう何年たったかしら」

「私としては新しい主人等考えたくもないのですが」

「そうか。俺は割と誰でもいいぜ。強ければ,の話だが」

「うむうむ。とりま参加者は決まったんだから万事おっけーじゃぞい」

「そうだ,この元トカゲどうするかしら。なんか強そうよ。」

「元トカゲだと。そんなやつ参加させてどうするんだよ」

「うむうむ。そいつもさんかじゃ」

「まじかよ,爺さん」

「まあ,あんたがそういうなら俺は異論ないぜ。あんた強いし」

「この脳筋め」

「うむうむ。これで参加者は決まったのう。次に決行日じゃが,これはすぐでいいよのう」

「そうね。善は急げよ」

「いやまて,遅いほうがいい。最低でも一か月だ」

「どうしてかしら」

「連絡してから準備ってやつがあるだろう」

「そういうもんかのう。ならば通達終了から2か月後じゃ」

「分かったわ。それで行きましょう。ああ,いよいよね」

「俺たちの新しい王が決まるんだ」

「つえ―やつがいいなぁ」

そういうとそこに集まっていた者たちはどこかへ去っていった。

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