第23話

 ついにこの時間がやってきた。皆さんお待ちかねの調理実習のお時間だ。

 今朝起きて学校に来ただけでも偉いんじゃないか? 誰か俺を褒めてくれ。なんて莫迦なことばかりが登校してからずっと頭の中を駆け巡っていた。しかし、本当に今日が俺の命日にならないことを祈るばかりだ。


「今日はよろしくね、雨音君」

「雨音、結局何を作るんだし」

「白身魚のソテーなんてどうですかね? 簡単だし安上がりだと個人的には思うんだけども」

「彩りが足りない」


 厳しいな。しかしこれも想定済み。ちゃんと考えて来たのだよ。まあ祐奈発案なんだけども。


「ミネストローネも一緒に作って彩りと野菜も確保ってのはどう?」

「それならいい感じだし」

「じゃあ始めるか」


 あーしさん達の料理センスが全く分からないけど、最悪一人で何とかなるし、どうにでもなるだろう。


「じゃあ適当に野菜を渡すんで1cm角くらいに切ってください」

「任せるし」

「切るだけだもんね」


 自信がありそうだし半分くらい野菜渡したけど、まあ大丈夫だよな。様子見ながら俺も対面で野菜を切るか。


「相変わらずはえーな、雨音の包丁さばき。俺はやっぱり手を出さない方が良さそうだ」

「そういわず手伝ってくれてもいいんだぞ」

「俺が手伝うと、ミネストローネの赤がトマトじゃなくて俺の血の赤になるぜ」


 一体こいつはどれだけ出血するつもりなんだろうか。まあ篠崎の料理スキルは知っているし、最初から期待してはいないけれども、自慢げに言うことじゃないだろ。

 こちらの野菜がある程度片付いてきたところで、人参が俺の使っているまな板に飛んでくる。もしやと思って前を見ると、人参を立て、押さえもせず切ろうとするあーしさんの姿が。嘘だろ、篠崎とて押さえるぞ。


「ストップ」

「今切ってるんだから邪魔するなし」

「切り方。なんで押さえてないの」

「いや、切り辛いし」


 まさかこのレベルとは。これを知ってて、頑張って、とか廣瀬が言ってたのか。あらかじめ言ってくれたら、もっと簡単なもの作るってことにできたのに。包丁を使わず簡単に作れるレシピはいくつか持ってるし。


「押さえないと危ないから。さっきみたいに人参飛ぶから」

「でも切れないじゃん」

「こうやっておおざっぱに切って、いったん転がらないように平面を作ってだな」


 飛んできた人参を使ってやって見せる。


「なるほどね」


 見て分かってくれたのか、再び切り始めるあーしさん。しかし、人参を抑える手はがっつり開かれていていつ指を切ってもおかしくない。切るって動作については小学生レベルなのかもしれない。


「ちょっと手。指切れるって」

「雨音君、莉沙には私が教えるから進めてって。このままだと時間内に終わらなくなっちゃう」


 何さんだか知らないけどありがとう。でも、結構辛辣じゃない? とはいえ、俺があーしさんの相手してたら、怒らせかねないし良かった。祐奈曰く、俺は料理教えるのは下手らしいからな。


「分かった。じゃあ任せる」


 洗い物は篠崎に丸投げして、下準備を進めていく。


 ソテーとスープの下準備が終わったところで、タイミング良くあーしさんも切り終わったようなので、切った野菜を鍋に入れていく。話し合いの結果、俺が喋りながら作る料理番組風の感じに決まったらしい。とはいえ、あとは魚焼くのと、スープ煮るのとだから喋る事もそんなにないのだが。

 すんごく気まずい空気の中、一人で喋りながら作業していく俺とそれを見ている二人。いつの間にか、廣瀬と若宮さんの班の洗い物までしている篠崎。何やってんだあいつ。

 あとは煮込むだけ、焼きあがるのを待つだけとなってしまったので、今日のレシピと簡単なレシピをルーズリーフに書いておく。あとで書かされるレポート用ではなく二人に渡すようだ。


「雨音、もうすぐできるって澪が言ってる」

「じゃあ最後に盛り付けるか」


 盛り付けはセンスがあるらしいので、あーしさんに任せた。まあ、そんなにセンスが出るような盛り付けは要求されないと思うが。


「そういえばさっきまで何書いてたの?」

「今日作ったのレシピともう少し簡単なののレシピ。一応教えるっていう話で班組んだんだし」

「真面目だねぇ」

「いや、俺今回そういう役割だから」

「なんとなく芽衣の言ってたことが分かったなー」


 一体俺は廣瀬になんて言われてるんだ?

 机には並んだ白身魚のソテーとミネストローネがきれいに盛り付けられて並んでいる。我ながらいい出来だと思う。

 けど一つ、いや二つ言わせてくれ。俺と篠崎の分少なくない? 俺に関しては昼飯代わりなんだけど。あと、なんで6人分用意されてるの? 実はこの班俺が知らないだけで6人班なの?

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