第140話 異界探索。6

「しかし、前はこんなもやなかったですよね。」

 と言うのは高田である。

 十全たちの前には異界との境界をはっきりさせるような赤紫のもやがたっていた。

「ツィマット所長なら喜々として調べそう。」

 これは小室。

「馬鹿、あの人は機械マニアであってなんでも興味をしめすゲテモノ好きじゃないよ。」

 と、小室に言い返すのは太田だ。

 ちなみにツィマットがお留守番なのは安全を確認できるまで待機、と、陛下に言われているからである。


「それで、お前たちは付いて来て良かったのか。」

「ヤーガはダーリンと一緒がイイ。」

「こら、ヤーガはまたそんなことを言う。クームたちが来たのはクン=ヤンがらみだとクームたちの力が必要になると思ったからだよ。べ、べつにお前たちが心配だからついて来たんじゃないぞ。」

 とテンプレなセリフを言うクームに暁はニヤニヤと笑い、雫はほほえましく思っている。

 ヤーガは表情があまり変わらないが、若干口元がニヤついていた。

 だが、実際問題この現象に知識がない以上、少ないながらも対応できそうな相談役がいるのは心強い。


「それじゃぁ、オレから行くからな。」

 そう言って先頭に立つのは十全である。

 指揮官として、領主として、この最初の一歩に責任を持とうと思っての行動だ。

 後ろを振り返り皆の顔を見る。

「いいか、押すなよ。」

 と告げる十全に皆神妙になる。

「いいか、絶対だぞ。絶対に押すなよ。」

 改めて念を押す十全に皆も真面目な顔でうなずいている。―――――1人を除いて。

 十全はもやのすぐそばまで行き、もう一度声を上げる。

「行くぞ~。行くからな。


「ドオオオオォォォォォォォォン。」


「ちょと暁ちゃん。」

「東雲副隊長、押したら駄目だて言われたでしょうが~。」

 この中で1人だけ平成の日本の知識を持つ暁だけが、十全の意図を理解してニヤニヤしていたのだ。

 そしてお約束のセリフを合図に思いっきり十全の背中を押したのである。


『旦那の満足感、いただきましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ♡』



「ちょっと暁ちゃん何してるのよ。」

「いえ、お約束というやつです。」

「それってよくミツル君たちと言ってるやつだよね。ふざけるのも時と場合を考えた方がいいよ。」

「それ、兄さんに言ってやってください。」

 皆が突然のことに唖然とする中、雫が暁を叱り、暁はへらへらしている。

 他の皆はどうすればいいのか、と顔を見合わせていたが、突然もやの向こうから十全の叫び声が聞こえて来た。


「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「ミツル君!」

「閣下!」

 叫びを聞いた雫と部下たちが数人血相を変えて、ミチルが入った赤紫のもやの中へと飛び込んでいった。

「あっ、それはたぶん――――」

 何となく察した暁が止める間もない勢いだった。

 ――――そしてすぐあと、もやの中からさっき飛び込んでいった者達の叫び声が聞こえて来た。


「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

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