第4話 孤独と悩み

「も、問題? 」


 胸の中で膨らんだ期待のふうせんがシューっと音を立ててしぼんだ気がした。私と仲良くしたいとか、友達になりたいとかではなかったんだ。私は、一生心を許せる友だちを作れないの? 一度下に向かった心はそう簡単には浮上しない。気づいた頃には、石蕗つわぶきさんが心配そうな顔でこちらを覗いていた。


「大丈夫? えっと、問題っていうのはねこの世に未練がある人は天界に行けないってことなんだけど……」


 なんだか、成仏できない霊のようだ。というか、そもそも必ず行かなくてはならないものなのだろうか。天から呼ばれてますよー。あ、はい行きます。とかそう簡単な話では無い気がする。


「あ、ちなみに強制ではないんだよ。行くか行かないかは自分で選べるから。その選択と未練について考えてきて欲しい。もし、困ってることがあったらなんでも相談してね! 」


 石蕗さんは、そう言うと電車に遅れちゃう、と教室を飛び出して行った。強制じゃないのか、そこに少しだけ安心感を覚えるが、別に行くのが嫌な訳では無い。周りに弱音でも吐き出せるような友人がいないと人間は、少なくとも私は、どこか別の所へ逃げたくなってしまう。

 誰もいなくなった教室。学校特有の木と汗が混ざったような香り。まるで、私の心みたいだ。私という空間には、家族以外だれもいない。


「行ってみるか」


 自然とこぼれた言葉。正直不安が無いわけではないが、このままこの世界にだらだら居座り続けることが嫌だった。


「私の未練って、なんだろうね」


 自分で答えを分かっていながら、独り言を呟いた。私は、友達が欲しかった。唯一無二の、お互いに本音をぶつけあい泣いたり笑ったりする友達が。こんなに簡単に天界に行ってもいいと思える自分の状況が寂しい。一人くらい、あの子がいるからこの世界から離れたくないって言ったり。湊月みつきちゃん行かないで、とか言われたりしたかったな。


 わざとらしくガチャガチャと音を立てながら荷物をまとめる。物音で自分の孤独を紛らわすように。


「ただいま」


 あの後は、一度にたくさんの情報を詰め込みすぎたせいか恐ろしく頭がぼーっとしていて何を考えていたかも覚えていない。あと少しで、父と母が帰ってくる時間だと思うと自然と頬が緩んだ。決して、両親の愛が足りていないわけではない。二人から、愛され二人を愛している私はきっと幸せ者なのだろう。それなのに、さらに友情を望む私は強欲なのだろうか。

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