第一話 あしたなんてのぞまない
第一話 あしたなんてのぞまない( 一 )
一
ふと気づけば
まったく覚えのない場所である。その奇怪さに仔どもは
きっかけは一体何だっただろう。
仔どもはふら、と歩を進めながら、そのはじまりについて考える。
きっと、痛くなくなるには、
後悔なんて
いや、もしかしたら少しもしないのかな、厄介者がひとり減って
どちらにせよ、仔どもは誰にも構われなくなって久しかったからだ。
はじめに切ったのは腕だった。そうしたらただ痛いだけでうまく死ぬことが出来なかったので、次は腹に刀を突き刺した。痛くていたくてたまらなかったけれどこっちのほうは成功したようで、ああ、がんばったかいがあったと思う。でも身体中がずきずきと痛くて、それがすこし辛かった。慣れていたはずだけれど、やっぱり痛いのは嫌いだ。
なのに死ぬためにつけた傷ははじめからなかったかのように消えていた。その代わりみたいに現れた傷が、大げさではないわりにゆっくりと仔どもを
あれ、でももう死んでいたんだっけ。
どうだったんだっけ、とふわふわ漂う思考を集めて、結局まあいいか、と仔どもは諦めた。
あの場所からいなくなれたのなら、これくらいは許されていい。
拍子抜けした気がした。随分あっさりと、死んでしまえた。仔どもはいろいろなことに制限を受けていたから、死ぬとことすら自由ではないのではないかと不安だったのだ。
でももうその
仔どもは捨て仔だった。少なくともそう、仔どもは思っていた。家族と同じ屋敷では暮らしていたのだけれど、仔どもだけは二人の兄よりも
誰もが自由に屋敷を行き来するなかで、仔どもが存在を
部屋からほとんど出ずに暮らしていた幾ばくかの年月、やがて仔どもに
いつしか仔どもは小部屋さえも追われて、
その錠の閉まる音を聞いたとき、仔どもははっきりと悟ったのだ。自分がどれほど、周囲にとっての不純物であったのか。
要らないんだね。自分をそのように納得することは案外と容易で、反面それはとてもとても哀しいことのようで、あやふやな自身の立ち位置をころりと影へと転がすことになんの
消えてしまえばいい、と思ったのだ。
挙句の果ての
持ってきたものは、ずうっとむかし、一度だけ会いにきてくれた母が渡してくれた風鈴だけ。
贈り物のゆえは今も分からないままだ。そのまま一度もまみえることなく、彼女は息をうしなったから。
一度だけでも優しくされた、風鈴はその象徴みたいなものだった。それで想われていた、なんて自分勝手はしないけれど、それでもこの風鈴を仔どもはとても大切にしていた。
だから死ぬときにはしっかりと抱いていた。それで共にゆけるなんて、信じていたわけではなかったのに。それでもやっぱり嬉しくなって、暮れゆく空に向かってカランと揺らした。
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