第133話「『キング』アーサーの敗戦」
二隻目を狙った頃には、こっちがガレオン船を奪取しようとしているのが敵にバレてしまっていた。
必死に抵抗、上に飛ぶと速度が減じる弓矢やクロスボウの矢はいいのだが、攻撃魔法がきつい。
「あの船は、上級魔術師が乗ってます」
「わかった、撤退だ」
カアラの指摘で、俺はすぐ諦めた。
よりにもよって風系の上級魔術師だ。
激しい爆風に「キャー」と吹き飛ばされていく、リアの手を握ると俺たちは空域を離脱した。
このまま戦果なしに戻るのは寂しい。
「カアラ、行き掛けの駄賃だ。あそこの旧型でいいから奪うぞ」
「了解です!」
無事に、もう一隻のキャラック船を奪取したところで、タイムオーバーとなった。
カスティリアの艦隊に突き破られて敗走を始めているブリタニアン海軍を見れば、これ以上この戦域にいるのは危険だ。
今度は矛先がこっちに向かってくる。
「先生たちは、このまま拿捕した二隻を曳航して、スケベニンゲンの港に戻ってください」
「タケル殿はどこに行くんです」
「ブリタニアン海軍の撤退を手伝ってきます、もっと抵抗して敵を引きつけてもらわないと、こっちの艦隊を追いかけられたら堪ったものじゃないですからね」
「そうですか、では港で会いましょう。タケル殿のご武運をお祈りします」
俺がまた行くと聞いて、リアが立ち上がった。
「わたくしも是非一緒に」
「いや、リアはもういい。ここで味方の治療に当っておいてくれ」
すでに神聖魔法力もあらかた使いきっているようだし、危険なので止めておいた。
敵味方が入り乱れる混戦の中では、できるだけ少数の方が動きやすい。俺は勇者なのだから、万が一敵と直接戦闘になっても、なんとでも立ち回れる。
俺は、カアラに背中から抱えられて飛ぶと、撤退を始めているブリタニアン海軍の旗艦へと向かった。
二十隻あった
「アーサー助太刀に来たぞ!」
「すまない王将……」
苦渋の表情の英雄王がそこに居た。激戦で失ったのだろう、かぶっていた提督帽はどこかに消えていた。
潮風に濡れた黒髪をかきあげて、アーサーは自ら檄を飛ばし、満身創痍のスクーナー艦隊を巧みに操って、味方が撤退する時間を稼いでいる。
敵艦は『キング』アーサーが乗っていると知っているのか、ブリタニアンの旗艦を狙って、矢を射掛けながら近づいてくるが、足の速さでは
しかし、君主自らが旗艦を危険にさらしてでも、足の遅い味方の撤退する時間を稼いでいるのは壮絶だ。なんという男気だろうかと、俺は感動した。
俺も甲板の上から、敵の弓兵を狙撃してやったが、船楼の高さが違いすぎるので狙いにくかった。
「カアラ、ここで最後だ。メテオ・ストライクをぶちかましてやれ。タイミングは任せる」
「御意……」
カアラは、スッと息を吸って、精神を集中させると、じっとカスティリア艦隊の動きを見て、ひしめき合っている敵の艦隊に向けてガッと両手を掲げる。
「カアラ・デモニア・デモニクスが伏して願わん、星辰のはるか彼方に輝く暁の冥王、時空の狭間より地上へと顕現せしめ、すべてに滅びをもたらさんことを!」
空が暗くなり、天空に広がる星空から飛来する多数の隕石に、ブリタニアン海軍の旗艦を狙って囲んだ敵の艦隊は瞬く間に沈没していく。
久しぶりに見たが、さすがに最上級魔法メテオ・ストライク。戦況を一変させるだけの力がある。
火花を上げて飛来する隕石を跳ね除ける軍艦がいくつかある。
おそらく、強力な
敵の主力を叩けなかったのは残念だが、これで多少は痛み分けに持ち込めたはず。無敵艦隊の戦力を削ることにはなっただろう。
敵に向かって、シレジエ・ブリタニアン連合軍の力を見せつけてやることもできた。
「カアラ見事だった、褒めてやるぞ」
俺は、疲れた様子でガクッと膝をつくように倒れこんだカアラの身体を抱きかかえると、黒ローブのフードを外して淡い金髪を撫でてやる。
肌がもともと青いのでわかりにくいが、丈夫なカアラだって疲弊するのだ。
何かで回復できればいいのだが、魔族であるカアラには、アーサマ教会のポーションの類は使えない。せいぜい身体を楽にして、自然回復させてやるしかないのだ。
今日は本当に、酷使してしまった。荒い息を吐いている、カアラを労ってやった。
「国父様、ありがとうございます。でもこれで、アタシの魔素は空です」
「それでいい、本当によくやった。いまはゆっくり休め」
大活躍したカアラは、予備に持っていた魔宝石も、完全に使いきってしまったらしい。
まあいいさ、今日の戦闘はこれで終わりだ。
「私からも礼を言う、ブリタニアン海軍を救ってくれてありがとう」
一国の君主であるアーサーが、人間に忌み嫌われている魔族であるカアラに、飾らない言葉で礼を言って頭を下げてみせたのだ。
本当に気持ちのよい男で、これが『キング』アーサーなのかと思う。独立心が旺盛で、小さい島を割ってバラバラに暮らしていたブリタニアンの民が、この若い君主の旗のもとに一つに結束した理由がよく分かる。
「アーサー、これで撤退の時間は稼げるか」
「ああ、敵も沈没した船から兵士を引き上げるのに必死なようだし、終わったな。しかし、私としたことが、無様な敗北を晒したものだ」
アーサーも、さすがに気が抜けたのか、甲板の上で座り込んだ。それでも、「ええい」と、悔しげに甲板に拳を叩きつける。
もはや言葉もなく、王が床を殴った音が響く中で、ブリタニアン海軍の兵士たちは、皆一様に深く疲弊して沈み込んでいる。
たった数時間の戦闘が、ものすごく長く感じた。
アーサーの嘆きは重い。ブリタニアン海軍が出した被害は、国が傾きかねないほどに甚大なものだ。
「アーサー、戦は時の運だ」
「いや、私の作戦が敵に読まれていたのだ。意気揚々と新型快速船を繰り出したまで良かったが、敵も大きく足速いキャラック船の改良型を用意しているとは思わなかった。言い訳にもならないが……」
始まったときに、勝敗が決している戦争もある。
今回の大海戦は、まさにそんな感じだった。新型同士の設計思想で、ブリタニアン海軍は負けていたし、戦力も足りなかった。もっと言えば、元からの国力の差だ。それでも圧倒的な敵を前に、最後までよく戦った。
「払った犠牲は無駄ではないだろう」
「ああ、これで無敵艦隊にも、多少は痛手を与えられただろうからな。私たちブリタニアンは、私たちの生きる海を守る。そのための尊い犠牲だ」
「アーサー、俺も新しく艦隊を作ろうと思うんだが」
「へっ?」
俺が、そういうとアーサーは疲れた顔を上げて不思議そうな顔をした。
「カスティリアの新型軍艦を奪取してやったから、それを元に新しい艦隊を作る。なんなら新型の設計図をくれてやっても良いぞ」
「驚いたな、あの戦いの中でそんなことをやっていたのか」
「そうだ、今回は負けだが、これで終わったわけではないのだろう」
「その通りだ、シレジエの勇者。これで終わったわけではない!」
アーサーは、疲れた身体をよろめかせるようにして立ち上がらせると、吠えた。
顔に貼り付いた髪の毛、青ざめた顔は疲れきっているように見えるが、それでも『キング』アーサーの黒曜石のような瞳は、輝きを失っていない。
「態勢を立てなおして、また戦うんだ。そこで教えて欲しいんだが、ブリタニアン海軍は海賊を服属させて戦力を増やしたんだろう」
「ああっ、そうだな。北海の海域には、まつろわぬ海賊が多くいる。それこそ退治すれば船を奪うこともできるし、交渉しだいでは傭兵として雇うこともできる」
「そのやり方をちょっとレクチャーしてくれないかな」
「ハハハッ、これは愉快だ。そうか陸の勇者が、私の真似をするか」
アーサーは、俺のところまで歩いてくると手を差し伸べて、俺の手をギュッと掴んだ。
いきなりだったので、ちょっとビックリした。
「キング……」
「私だって一代でブリタニアン海軍をここまで育てたのだ。私にできて、シレジエの勇者殿にできぬわけがない。シレジエの新しい艦隊、作るがいいぞ。そして、今一度共に戦い、今度こそ無敵艦隊を打ち破ってやろうではないか」
「そうだな、共に戦おうアーサー王」
「トランシュバニア公国のスケベニンゲンだったな、そちらに船を向ける。大事な同盟国の王将軍閣下をこのまま港まで送ってやろう。それまで、たっぷりと海の戦い方ってやつを教えてやるさ」
すっかり元気を取り戻したらしい、『キング』は自ら部下を叱咤激励して、北東へと進路をとった。
元気になったのは良いのだが、スケベニンゲンって港の名前、やっぱりいつ聞いても微妙だなあと俺は思った。
※※※
『キング』アーサーに、スケベニンゲンの港まで送ってもらう。
港には、コッグ船の二隻と共に、拿捕した最新鋭のガレオン船とキャラック船がある。
カスティリアの乗組員は、港で開放してやった。
本当は、そのまま水夫として雇いたかったのだが、さすがに断られてしまった。
こんな遠方の港から、カスティリアに帰るのは大変だろうが、そこまで面倒は見られないので勝手にすればいい。
死んだ兵士は埋葬して、装備はありがたくいただいた。
戦後処理も終わると、俺は新型軍艦を見て嬉しくなる。縦に長いガレオン船は、船の形状が安定している上に大きさも十分だ。
この軍艦ならば、大砲がたくさん乗るだろう。
大砲を使った海戦の経験も積むことができたし、今回の大海戦。カスティリア海軍にも、ブリタニアン海軍にも多大な被害があったが、シレジエ海軍にとっては軍艦二隻儲けた美味しい戦争だった。
まあ、失う船がもともとないってこともあったんだけど。
失うものがないから強いって、先生が言ってたのは本当だな。
キャラック船はそのまま補修して使い、ガレオン船は一旦解体して、徹底的に船の構造を調べるのに使おうという段取りになる。
新造船の材料は、今頃シェリーが買い漁って準備してくれているだろう。ガレオン船を手に入れたと聞いたら喜ぶに違いない。
「それにしても金のかかることばかり」
「タケル殿、新造船はもう諦めましたけど、予算の方も少し心配してくださいね」
先生には無理を通してもらった。すでに材料の確保に金がかかっているし、これから本格的に新造船を作るとなれば、どれだけ金がかかるかわからない。
他にもいろいろ支出が多いから、国家予算に余裕があるわけではないのだ。
キャラック船が一隻にコッグ船が二隻。このまま港に置いてあっても、利益を生むわけではない。
補修と大砲の積み込みが終わったら、できた艦隊を使って、交易か海賊退治かで金でも稼ぐのがいいかもしれない。
かといって、大海戦に敗戦してしまったこともあって。
セイレーン海の大部分がカスティリア艦隊に抑えられているわけで、出来ることは限られてきているけど。
このスケベニンゲンからできる交易と言うと、ここからブリタニアン同君連合の港で羊毛と毛織物を交易するか、北海のスウェー半島の港と木材と食料を交易するかぐらい。
あまり大きく儲かりそうもない交易航路ばかり、やらないよりマシって感じだ。公国の特産品であるガラス製品を売り込む相手が居れば良いのだが、ブリタニアン同君連合以外は、周りは敵だらけなのが痛い。
「海の支出は、海の収入でなんとかしないといけないかなあ」
「交易するのに、港を公国に借りてるってのも悲しいですけど」
先生はやっぱり、地方貴族に抑えられているナントの港を、早くシレジエ王軍の物としたいのだろうな。
でも、国内に騒乱を巻き起こすにはまだ早いと思う。
「まあ、小さいことからコツコツとですよ」
「そんなことを言ってる間に、向こうから攻めて来そうな感じもします」
シレジエ王国の敵は、カスティリア海軍だけではない。拳奴皇ダイソンの新ゲルマニア帝国、シレジエ王国内部の潜在的な敵である南部の地方貴族。
一つにまとまってこられないだけ、マシとはいえるけどこりゃ前途は多難だった。
ひとつひとつ、上手く片付けていければいいんだけどな。
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