第127話「軍事演習」

 俺はシレジエの王城近くの義勇兵団の野営地キャンプに来ていた。

 すでに演習が始まっており、兵士たちが行進する音とざわめき、山に向かって試射する大砲の音が断続的に響いている。


 俺が通りかかると、兵士たちが敬礼してきたので返礼する。

 久しぶりに、引き締まる戦塵の空気だな。


 俺が本陣に歩いて行くと、そこで義勇兵団長であるルイーズが待っていた。

 彼女の後ろに括った燃えるような赤髪の尻尾が、砲撃の爆風でさらりと揺れた。


「……この風、肌触りこそ戦場よ」

「いや、今回は演習なんだが我があるじ


 こういうときのお約束のセリフだからね。そういうことを、ルイーズに言ってもわかってもらえないだろうけど。

 魔の山をバックに、実戦さながらの軍事演習が開催されているこのキャンプには、現在千人の義勇兵が詰めている。あとは、この近衛騎士団が五百騎だ。それと、王都の城兵三百人が首都を守る全兵力と言える。


 平時の戦力なら、まあこんなもんだろう。

 現在のシレジエ義勇兵団の常備戦力は、義勇兵が三千五百に砲兵千五百の計五千人だが、普段は一箇所に集まることはない。


 義勇兵の多くは、シレジエ王国の各地に散らばって、街や村の防衛をしつつ住民に鉄砲や大砲の扱いを教える仕事をやっている。兵站の問題もあるので、やたら常備軍を増やすわけにはいかないが、市民や村人もいざというときは戦えるようになっていて欲しい。

 なにせ、この世界は未だに少なくない数のモンスターがはびこっている。冒険者という職業が成り立っている危険な世界なのだ。


 本来ならば兵器は、人間同士の戦争の道具ではなく、自衛のための道具なのだ。

 だからと言って、国防の備えを忘れるわけにはいかないので、こうしてたまに戦争に備えた実地訓練もやっているわけだが。


「忙しいところ、呼び立てて申し訳ない。主に、ちょっと相談したいこともあって」

「いや、わりと暇なんだけどね」


 百人単位に分かれて、各隊の隊長が競い合う演習を見ながら、俺が与えた『オリハルコンの鎧』に身を包んだルイーズが腕を組んでいる。時折、傍らに居るシュザンヌやクローディアに指示を出すと、早馬になって走って行く。

 普段は俺の護衛をやってる二人も、最近は俺が単独行をやっていたので、ルイーズが義勇兵団に新しく騎兵隊を結成する仕事を手伝っているらしい。


 なんだか久しぶりに会ったというのに、ルイーズとは仕事の話しかしてない。

 結婚してからというもの、どうもルイーズと疎遠になりがちだ。


 彼女は、いまだに騎士の誓いを守り、俺を主君と仰いでくれているのだが実際のところどう思っているのだろう。

 俺がハーレムを作って調子よくやってることを……まあ、ルイーズの場合なんとも思ってないんだろうけど、それも少し寂しい。


「……でだ、主はどちらが大隊長に向いてると思う」

「えっ……」


 そのキリッとして精悍でありながら、年上の女性としても活き活きとして魅力的な茜色の双眸を見ていたらつい、聞き逃してしまった。

 ルイーズはわざとらしく、ため息をつく。


「疲れているのはわかるが、これも王将軍の務めだぞ」

「いや、疲れてたわけじゃなくてね」


 ルイーズが説明し直してくれる。

 いま、ルイーズは義勇兵団を統括する団長の役目だが、所詮は騎士隊しか指揮経験がなく、まったく使えないことはないが火縄銃の扱いも得意ではない。


 そこで、ルイーズは名目上のトップではあるけど、最近になって編成し直してる騎兵隊の指導に専念したいそうだ。

 そこで、まず大所帯になった義勇兵の隊長を統括する大隊長を決めて、先は軍団規模を指揮できる将軍に育てて行こうと言っているのだ。


 義勇兵団が大きくなっていく過程で、どうしても必要になってくる人事だ。

 言っちゃ悪いけど、こういうときサラちゃん兵長が居てくれたら良かったのかもしれない。彼女は、情実人事に走りがちの悪癖はあったが、行動力と決断力が半端無かった。


 あのライル先生の秘蔵っ子は、今思うと軍令官としてきちんとやれていたのだ。

 シレジエ会戦でも呼んでもいないのに、首都の防衛隊長を買って出て、敵将の首を取ったと聞くし、どんだけチートなんだよって話だ。


 いまは俺たちの出発地点でもあった、故郷のロスゴー村で代官兼防衛隊長として大活躍していることだろう。

 俺がサラちゃん兵長のことを考えているとわかったのか、ルイーズは慌てて言う。


「言っとくが我が主、サラはダメだぞ。何かあったら世話になったロッド家に申し訳が立たんだろう」

「わかってるよ、まだ子供だしね」


 そう言いながら、子供もいずれは大きくなるからな。

 ライル先生の薫陶のたまものが、財務官になったシェリーであり、サラちゃん兵長だったわけで先の活躍が楽しみではある。


「それでだ、砲兵隊の大隊長はジーニー・ラストに決まってるんだが、問題は銃士隊の方だな」

「ああ、ジーニーって魔の山防衛の時の砲兵長か」


 あまり目立たないが、オナ村出身でくすんだ赤髪の若い女性だ。寡黙らしく喋ってるところをあまり見たことがないけど、一緒に協力して上級魔術師を倒した縁でオルトレットと仲が良いのは知ってる。

 宿敵である上級魔術師殺害は、我軍では大金星だからな。ライル先生にとって、高評価のポイントなのだ。


「問題は銃士隊の方だが、大隊長に据える候補が、一番隊隊長のマルス・オナ、二十一歳と、二番隊隊長のアラン・モルタル、二十四歳だな……」


 手元の人事資料と演習の様子を見比べながら、ルイーズは話を続ける。

 こういう団長のまともな実務を、ルイーズがしてるのは初めて見るような気がする。こういうまともな事務もできたんだな、いや元々近衛騎士団出身のエリートだから、当たり前なんだが俺はルイーズの冒険者時代しか知らないから。


「おい、聞いてるか話」

「ああ、ごめん続けてくれ」


 今日は、ルイーズのことばかり見てる。久しぶりだからな。


「見ての通り、アランのほうが年上で隊長として有能だ。兵士が勝手にやってることだが、隊長にしたい人ランキングというのがあって一位なんだよな。一方で、マルスは隊長にしたくない人ランキングで一位になってしまっている」


「それって、ステマじゃないのか」

「ステマ?」


 ステルスマーケティングをルイーズに説明しても、絶対にわかってもらえないだろう。

 この場合は、巧妙な世論誘導ってやつだな。


「その隊長にしたい人ランキングって、おそらくアランが主導してやってるんだろ。あらゆる要素で、大隊長に向いているのは有能なアランだが、それは書類の上だけだ」

「我が主は、あのへっぽこ隊長のほうがふさわしいと?」


 オナ村の村長の息子マルスとは義勇兵団結成からの付き合いだから、アイツのことはよく知っている。茶髪のチンピラ兄ちゃんにしか見えないが……、いや実際にも声がデカイだけがとりえの三下なんだが、不思議な人望があるのだ。

 先のシレジエ大戦でも、アランは王都シレジエの防衛という花形で美味しい仕事に付いたが、最前線のオラクル大洞穴で一万を超える大軍に囲まれて、寡兵をまとめて厳しい籠城戦を戦い抜いたのはマルスの方だった。


「マルス隊長は、籠城戦でも邪魔にしかなってなかったって、騎士仲間に愚痴られたんだけどな」

「外からはそう見えるだけで、アイツの存在は大きい。見ろ、マルスの指揮している一番隊と、アランの指揮している二番隊は、互角の戦いをしているだろう」


「うんまあ、だが互角だからって」

「アランは事前にガタイのいい兵士だけを入念に集めて戦っている。参謀タイプとしては有能なんだろう。だが、経験不足の弱卒が、一番奮起するのはマルスの旗本に居る時だ。だから、互角の戦いができている」


 巧みな指揮をして整然と包囲戦を仕掛けようとしている智将アランに比べて、愚将マルスはコケたりしながら周りの兵士に支えられるようにして、「進めー」とか「引けー」とか、自慢の大声でアホなことしか言えてない。

 だからマルス隊の兵士たちは、指揮の不足を補おうと必死に自分たちで考えて個々が声を掛け合って奮戦している。


 そもそも士気だけはやたらあるが、実戦経験が不足している義勇兵に細かい指揮を出し過ぎると、その持ち味を殺してしまう。

 だからアラン隊は整然として強いのに、動きが悪いのだ。


 俺も指揮官として、長いことやってきた経験から見れば、マルスの指揮が正解だと思う。

 もちろん事前の作戦や準備は大事だが、それは参謀の仕事だ。小知に長けたアランの適正はそっちにある。


 戦場での将軍の仕事とは、極論言ってしまえば「進め」と「引け」のみ。このタイミングを誤らなければ名将になれる。自分で考えられないなら、もっと頭のいい奴の言いなりになればいい、神輿の頭はむしろ空っぽで軽い方がいいのである。

 なんだか言ってて、王将軍の俺もアホって言ってるような感じで心苦しいのだが、任せることが出来るのも才能だろう。


「なるほど、マルスのほうがバカだが器が大きいってことだな。主に言われて、つっかえていたものが取れたような気がする。うん、大隊長はマルスにしよう」

「ルイーズも、大体わかってたから、マルスとアランどっちを大隊長にしようかなんて話を持ってきたんだろう」


「えっ、私は普通にアランの方を大隊長にしようかと思ってたんだが、なんかこのまえアランに口説かれたから、ムカついてぶっ叩いてしまってな……」

「えっ、ルイーズを口説いてきたのか!」


 それはまた、アランも意外に大器だな。

 小賢しいだけの色男かと思えば、俺でも恐れ多くて出来ない大胆をやってのける、よく考えたらステルスマーケティングかますとか、アランもチートだよな。


 アランは現場の隊長というより、政治家として有能なのかもしれない。

 生まれる時代が早すぎた、シビリアン・コントロールの時代だったらアランは大隊長どころじゃすまなかったんだろうが。


「でまあ、ぶっ叩いてしまった手前、ほら大隊長とかになると、私の直接下につくからやりにくいなあと」

「そんな理由だったのか、まあルイーズの好みから大きく外れてるもんな」


 ルイーズも見た目よりは沸点低い方ではないのに、ぶっ叩かれるって何やったんだよアラン。

 『万剣』のルイーズを知らんわけじゃないだろ、本気で怒らせたら、冗談抜きで瞬殺されるぞ。


「別にアランでなくても……。私は男と付き合うとかはもう良い」

「それはちょっともったいない気がするけど」


 ルイーズは、深くため息をつくと、ズシンと椅子に座った。簡素な木の椅子が、鎧の重みでミシッと音を立てる。

 俺も慌てて、横に座る。


「我が主も、父上みたいなことを言うんだな」

「なんだ、親父さんに結婚しろとでも言われたのか」


 もしかすると、ルイーズのとこも姫騎士のとこと一緒のような事情なんじゃないかなと思う。

 たしか、ルイーズの家はシレジエの武家の名門で、カールソン流って剣術の宗家だったんだよな。


「そろそろほとぼりも冷めた頃かと思って実家に顔をだしてやったら、いい人はいないのか、血を絶やさないでくれとか、まあーうるさく言われて困ってしまった」

「ルイーズも大変なんだな」


 たしか、王都から追放されるときに、勘当同然になったと聞いたけど。

 父親と仲直りできたみたいでよかったんだが、そうなったらそうなったで結婚の話か、どこもそんなんだな。

 女騎士に、結婚させようとするブームでも起こってるんじゃないだろうか。


「だいたい、門閥の都合なんて私の知ったこっちゃないんだ。高弟だの門人だの腐るほど居るんだから養子でも取ればいいだけだろう」

「まあ、そういう考え方もあるけど」


 そういうことじゃなくて、父親として娘を心配してるんじゃないかな。

 ルイーズと一緒で、ルイーズの父親もどうせ不器用なんだろう。結局、父娘ってのは似てないようで似てるもんだからなあ。


「とにかく私は、主の騎士として生きていくことに決めたんだ。それにもうこの歳で、結婚するには遅すぎるし」

「いやいや、ルイーズまだ若いんじゃ」


 ルイーズいま何歳だっけ、二十五か、二十六か。

 俺の基準だと若いんだが、十五歳で成年になるこの世界標準だと、そうでもないのだろうか。みんな生き急いでるからな。


「世辞はいいさ。とにかく私は、いまで十分に満足しているから、もう色恋には興味が無い」

「それは残念だな」


 一瞬とち狂って、ルイーズを口説こうかなとか思ってしまったが、それこそ七人も妻が居る身でふざけるなと言われてしまうだろう。

 押したら行けるんじゃないかとか思ってしまう。押しちゃダメだろうって話だ。


 最近、調子に乗りすぎてるから自戒しないと。

 ルイーズは、考えこんでいる俺の顔色を窺うと、頬をゆるめた。


「残念か、そう言われているうちが花なのだろう」

「ルイーズは、まだ咲き始めた蕾なんじゃないか」


 俺の好みからすれば、もうちょっと上でも行けるというか。

 まだルイーズでも硬さが残るので、これから円熟が期待出来る感じだよね。


 俺の嗜好を言わせてもらえれば、年上が好きなのだが。

 なんで嫁が、あんなに若いんだろ。一番上でも、ライル先生の二十三歳だし。オラクルは、三百歳とか言っても、見た目が上とはとても見えない。


 そういうところも含めて、縁というのはままならぬものなのだろう。

 好みのタイプと、付き合うタイプがぜんぜん違うとか、ありがちな話だものね。


「蕾か、そこまで言われるとなんだかバカにされてる気がするんだが、私も本当に何もないから言い返せない」


 ルイーズは、ふっと自嘲めいた微笑みを浮かべた。


「まあ、これから花開いて行くかも知れないから、焦らなくていいよ」

「大結婚式を挙げて、嫁がたくさんできた我が主に言われると、逆に焦ってしまいそうだぞ」


 そういって、ルイーズは笑い声をあげて椅子から立ち上がった。

 冗談も言うんだな。


「軍事演習、終わったみたいだな」


 俺も立ち上がる、百人隊同士の模擬戦闘は、どうやら順当にマルス隊が一位、アラン隊が二位という結果に終わったようだ。

 この結果を以って人事を決定するという流れでいいのかもしれない。


 きっと仕えている俺が頼りないから、色恋してる隙がないと思うのだろう。早く、ルイーズが恋愛出来るぐらい平和な世界になるといいんだけど。

 馬を駆ってこちらに来たシュザンヌたちに、督励の声を飛ばしている凛々しいルイーズの横顔を見て、俺はそんなことを思っていた。


     ※※※


 義勇兵団の野営地キャンプから王城への帰り道、ふっと気配を感じた。

 闇から現れて確認しようとするカアラを「味方だ」と押しとどめて、道をそれて藪の中に入る。


「ネネカか」

「はい」


 いつの間にか、紫の長い髪をなびかせてネネカたちがやってきて、俺の前に跪いた。

 密偵部隊スカウトも、一般兵士と同じように銃を持って革鎧を着て、演習には参加していた。

 だが、彼女たちの行動目標は違う。


「アラン・モルタル、やはり今回も多少の扇動はありましたが、逸脱行動ではありません。むしろ、王将軍閣下のお役に立つ人材かと思います」

「そうか、ご苦労だった」


 ネネカたちは一般の義勇兵に悟られぬように入り込んで、情報を集める内偵の訓練を行っていたのだ。

 義勇兵団も大所帯になってきた、内部に敵のスパイが入り込む危険性は十分にあるし、そのための備えを怠るつもりはない。


 アランが、ステルスマーケティングをしているとわかっていたのも、俺が鋭いわけではなくてネネカたちが調べて注意してくれていたからである。

 有能だからこそ、その行動が怪しくて目立つということもある。もしかしたら、敵が送り込んだスパイなんて展開もあるかと思ったが、考えすぎだったようだ。


「それよりも、イエ山脈鉱山から納入された武器の数の齟齬でしたが。やはり、南部の地方貴族軍に銃や大砲が流出しています」

「技術流出はなかったんだな」


 ネネカたちが調べてきてくれた資料を受け取る。製造と各地への納入との数が合わない分、目算で銃が二百に、大砲が四門が南部の地方貴族に渡ったことになる。

 この程度ならしょうがない。それより問題は製造技術だ。


「兵器製造の経験を積んだ鍛冶屋などを囲い込む動きはありません。あくまで現物を少しずつちょろまかして買い込んだようです」

「そうか、よく調べてくれた。それなら最悪ではない」


 地方貴族軍は、シレジエ会戦で近代兵器の威力を目の当たりにしている。

 手元に欲しいと思うのは当たり前のことだ。


 問題は、それが現物を買い込むか、技術者を奪おうとするかどっちかになるかだった。

 現物ならコントロール出来る範囲なら問題ない。怖いのは技術流出で、それをされると歯止めが効かなくなる。


 先の会戦で、地方貴族の首魁の一人であるピピン侯爵を見知ったが、フランスパンを顎の先につけたような面白い面相であったが、ブリューニュのような無能ではなかった。

 むしろ、あれは抜け目のない策士だ。名門貴族だから無能と決めつけるのは、危うい考えだろう。


「内にこそ注意せよとの、王将軍閣下のご指示あってこそです」

「殊勝だな、今後もよろしく頼む」


 いい位置に跪いていたので、思わずネネカの紫色の髪を撫でてしまった。ネネカも、ルイーズと同じ年頃のお姉さんなので、失礼かと思ったが気持ちよさそうにしてるから良いか。

 どうも、奴隷少女を使役するのに慣れているせいか、俺は褒め方が尊大になりすぎてるのかもしれない。


 王将軍なんて呼ばれて、調子に乗ってると、あとでしっぺ返しが来そうで怖い。

 もっと謙虚にならないとな。


「お褒めいただき光栄です。なお一層励みましょう」

「これは少ないが、受け取っておいてくれ」


 俺が腰の革袋を渡すと、ネネカは中身も見ずに懐にしまいこんだ。

 密偵部隊は、一般兵士とは違うから、活動費は俺のポケットマネーから出てるのだ。一番大切な部署だから、子飼いにしておくに越したことはない。


「南部の地方貴族への調査も進めますか」

「刺激しないように、くれぐれも用心して頼む。まだ事を構えるには早い」


 近代兵器の秘密裏な横流し。

 ただ、地方貴族は武装を強化したいだけなのか、明確な反乱の前兆なのか。


 ルイーズ、やっぱりこの風は、戦場から吹いているんだよ。

 徐々に近づいてくる、新たな戦争の足音に、俺の心は震えていた。


「あの、王将軍閣下。黄昏れてるところ誠に申し訳ございませんが」

「ネネカ……まだ居たのか」


 密偵部隊なんだから、空気読もうよ。

 ここは、音もなく消えて欲しい。


「便利な隠形の黒ローブを持ってらっしゃると聞いたのですが」

「うーん、俺のは大事な一張羅だから上げられないけど。カアラ!」


 確かに、あれがあれば密偵には便利だろうな。


「はい国父様。隠形のローブは、レアアイテムですけど作れないこともないですよ。とりあえず、私のお古でしたら一着どうぞ」

「こんなとこで脱ぐな!」


 黒ローブ脱ぐと、いつでもどこでも下着姿なんだよこいつ。

 まあ、どっちにしろ影に控えてるからいいか。


「じゃあ、一着。もしできたらさらに渡すから」

「ありがとうございます!」


 ネネカは、さっそく身につけてはしゃいでいた。

 カアラの中古だけど良いのかと思って、よく考えたら俺もカアラの中古を着て、はしゃいでたわけだ。


 こうやって他人が同じことやってるのを冷静に見ると、いろいろと微妙な気分になるのだった。

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