66.もうすぐ終わってしまうけれど
新年と騒いでいた時期も終わり、2月も近づいてきた。学校も一応再開しているが、ほとんどの人間は来ているだけという状態になっている。
そんな中、遥香は忙しそうに駆け回っていた。
「大変だな」
「こればっかりは蓮也くんにも任せられませんから」
「告白の返事はな」
「さすがに同じ文句を言い続けるのは面倒ですがね。しかし、最近は軽い気持ちで告白というよりは、本気で私を蓮也くんから奪おうって気持ちが伝わる人の方が多いので。少し嬉しいです」
「そっか。渡さないけど」
くすりと笑みを浮かべて、それから手に持つ手紙やスマホに目を落とした。
さすがに告白の場にまで蓮也が居合わせるのは申し訳ないので、ここ数日は別行動が続いている。どうせ家に帰れば一緒なので問題は無いが、こうなればただのぼっちだ。
「にしても……」
ちらりと遥香の鞄を見れば、中には大量の手紙がある。今どき手紙で呼び出しなんてと思うが、それで遥香は応じてくれるので合理的ではあるだろう。
とりあえず遥香が返事を終えるまで待っていようと椅子に腰をかけ、少し暖かくなってきて、もうすぐ高校生活が終わることを嫌でも感じさせられる。
未練があるわけではないが、些か寂しさはあるものだ。
ぼんやりとそんなことを考えていると、背後から何度か聞いた声に名前を呼ばれた。
「結城くん」
「あ、ああ。南か」
南彼方。結局3年生でも委員長を務めて、名前を覚えられることはなかったらしい。さすがにもうしわけないので、蓮也は最近は南と呼ぶことにしている。
「暇そうだね〜」
「まあ、だいぶ暇ではあるけど」
「学校、どうだった?」
「楽しかったぞ」
「ほんとに〜?」
笑いながらもその質問は本当に気にしていたことのようで、安堵の表情も混じっているように見えた。
「去年ね、結城くんが月宮さんと仲良くしてくれてよかったーって、そんなこと思ってたんだ」
「なんで」
「ほら、あの人あんまり人前で素を見せないっていうか。でも結城くんの前じゃコロコロ表情変わってて。それに、結城くんも楽しそうだったから」
「俺も?」
「言っていいのかわからないけど、1年からずっと暗かったから。だから、結城くんが楽しそうにしてるのは見てても嬉しかったんだ」
「そうなのか。よく見てんな……」
「委員長ですから」
蓮也の方はといえば、自分のことでいっぱいになって、周りなんて全く見えていなかった。遥香との関係も、成り行きがなければなかった話だろう。
それでも、今があるのは間違いなく遥香のおかげだ。そして、どうやら彼方の話を聞く限りそれは遥香にとっても同じらしい。
「ふたりは多分これからも一緒だろうけど、一応もうすぐお別れだからね。だから、ありがとう」
「……こっちこそ。お疲れ様、委員長」
「まだあとちょっとあるんだけどね」
「……えらく楽しそうじゃありませんか。私が駆け回っている間に」
いつの間にか戻ってきていた遥香は少し、いやかなり不機嫌だった。
「ご、ごめんね? お疲れ様」
「はい。ありがとうございます、委員長」
「お疲れ」
「はぁ。どうも」
「えぇ……」
明らかな態度の差に少し戸惑う。
そして、そんな蓮也を見て、遥香は可笑しそうに笑う。
「なーんてね」
「……ずるいな、お前も」
「いいなぁ……」
「えっ? 委員長?」
「ふたりとも羨ましいよ。なんていうのかな、周りから見ても運命を感じるっていうか」
「運命……」
「委員長って、意外とロマンチストなんですね」
「えっ、そう?」
「運命とか、考えたこともありませんでしたよ。ね、蓮也くん」
「てか普通考えないもんだろ」
「そうですよね」
恥ずかしそうにしている彼方を、思いのほか遥香がいじる。若干涙目になってきたところで、気が済んだのか笑いながら彼方の頭を撫でている。
多少目のやり場に困るやりとりを目を逸らしながら見聞きしていると、いつの間にか話は終わったらしく遥香は蓮也の隣に戻ってくる。
「じゃあ、帰りましょうか」
「だな。またな、南」
「うん、またね」
遥香と彼方はそれなりに仲がいいらしく、遥香も機嫌が良さそうに手を振っている。
「……あと少しでお別れですね」
「まあ、二度と会えなくなるわけじゃないんだからさ。そんなに難しく考えなくてもいいんじゃないか?」
「……そうですね。あと少しは隣人としてよろしくお願いしますね?」
「……ん?」
「ふふっ、帰りますよ」
『隣人として』という部分が引っかかったが、実際隣人であることは変わりないのであまり深く考えないことにしておいた。
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