33.バレンタイン制作班
二月十三日、明日はバレンタインデーです。実はこの日に本命チョコレートを渡して、好きですという予定がなかった訳では無いのですが、蓮也くんが私に告白してくれたのでもう意味ありません。
なのですが……私はバレンタインデーなんて行事に参加したことがありません。なので、恋愛の先輩である悠月ちゃんにまた頼らせてもらうことにします。悠月ちゃんのお家にお邪魔させてもらって、チョコ作りです。
「それで、どんなのにしたいの?ㅤてかなに、チョコにすんの?」
「ハート型のチョコにして、それで……」
「なんか遥香のキャラじゃなくない?」
「でも、調べたらそういうのがたくさんでしたよ?」
「なんか違う。少なくとも遥香が結城に渡すのとは違う。どうしてもそれがいいなら止めないけど」
「うーん……難しいですね」
「……ちょい、スマホの履歴見してみ?」
「はい?ㅤ構いませんけど……」
悠月ちゃんにスマホを見せてみると、だんだん悠月ちゃんは引き攣ったような笑みを浮かべて、そのあと乾いた笑みを浮かべます。
「はは、あんた馬鹿?」
「そ、そんなに変なことしようとしてたんですか私……」
「バレンタインのプレゼントは私とかやろうとしてたの?」
「はい」
「ないから。普通にないから」
「は、初めてなんですよ!?」
「むしろ初めてでその発想に至る方があたしには理解できない」
どうやら、私の検索方法が悪かったのかほとんど間違った知識だったそうです。ネットというものはやはり恐ろしいですね。ちなみに、プレゼントは私ですとかいうのをやると食べられるそうです。痛そうですので悠月ちゃんが止めてくれて良かったですね。
「まあ、そんなに変に意識することないって。普通にすればいいの、普通に」
「普通……?」
「少なくとも、あたしは普通のトリュフチョコにするけど?ㅤ翔斗にも遥香にも」
「なるほど……うーん……」
「やっぱり結城には別のあげたい?」
「はい。気持ちを込めたいです」
「……はぁ。おっけ、もうハート型でいこう。ただ、結城ならチョコレートよりなんかいい感じのあるんじゃない?ㅤあいつあんまりチョコ好きじゃないっぽいし」
「そうなんですよね……」
先日蓮也くんにチョコレートが好きか聞いてみたら、あまり得意ではないと。なので別のものにしようと思っていたのをすっかり忘れてハート型チョコレートなんてものを作ろうとしていました。
そういえば、さっき悠月ちゃんは私と八神くんにはトリュフチョコにすると言っていましたが、蓮也くんには何を渡すのかを知りません。
「悠月ちゃんはどうするんですか?」
「あたしはクッキーでも作ろうかなって」
「なるほど」
「まあ、どうするかは遥香が決めればいいけど」
「チョコケーキにしましょうかね」
「……手間のかかるものを」
「あ、別に悠月ちゃんは手伝わなくても大丈夫ですよ?」
「いいって。手伝うから」
呆れたようなため息をつきつつも、悠月ちゃんはわを手伝ってくれるそうです。
それから、私たちはトリュフチョコとチョコケーキ、クッキー、あと私が悠月ちゃんと八神くんにあげるチョコタルトを作りました。主に私が時間のかかる方なのでしたが。
「あんたって、手間を恐れないよね」
「そりゃあ、まあ。私の大好きな……といっても八神くんは私の中でどういう立ち位置なのかわかりませんが、それでも三人は特別なので」
「……そういうことさらっといえんの、あんたらやっぱり似てるわ」
「蓮也くんもこんなことを?」
「まあね」
「大好きと?」
「いや、そこまでは言われてないから。やめて、その目やめて怖い」
「えっ、目?」
悠月ちゃんの顔がだんだん引き攣っていきます。私は変なことをしたつもりはないんですが……?
「まあいいや。遥香の場合は渡せるかどうかが大事だよね」
「た、多分大丈夫……だと思う……」
「ちゃんと渡せ」
「……悠月ちゃんは凄いですね」
「ん?ㅤああ、まあ翔斗とはもう何年も一緒にいるからね。こんなの今更だし」
「そうなんですか……」
考えてみれば、私と蓮也くんは出会ってからまだ一年も経っていません。不思議な話ですが、年月なんて関係なく蓮也くんが好きで好きでたまらないのですが。
「まあ、そのうち慣れるよ。人前であんだけイチャつけるんだから」
「い、イチャついてなんか……!」
「イチャついてんだよ」
有無を言わさぬ笑みでそう言われたので、私たちはイチャついてることにしておきます。イチャついてないのに。というかイチャつくってなんですか。
時間を確認するためにスマホを見ると、蓮也くんからメッセージが入っていました。四時間前です。
「……ごめんなさい蓮也くん、気付かなくて……」
「どしたの?」
「蓮也くんから四時間前にメッセージが……いつ帰ってくるのかって……」
「仕方ないでしょ。あいつはそんなんじゃ怒らないし」
「怒らないのはわかってるんですが、申し訳なくて……」
「まあ、なら早く帰ってやんなよ。待ってるから、多分」
「……そうですね。今日はありがとうございました」
「ん。またおいでー」
「今度はうちにも来てくださいね?」
「それはあんたのとこか、それとも結城のとこかどっち?」
「うちです」
「どっちだよ」
「どっちでしょうね。どっちに来ても大丈夫だと思いますよ」
悠月ちゃんの家を出て、若干早足で駅へと向かいます。帰りは節約のために歩こうと思っていたのですが、なんとなく蓮也くんが心配になってきたので早く帰る方を優先することにしました。別に子ども扱いしてるわけではありません。ただ私が早く蓮也くんに会いたいだけなような気もします。
ただ、ケーキを揺らさないようにそっと歩くのも忘れてはいけないのが難しいところです。
自室の冷蔵庫にケーキを入れて、すぐに蓮也くんの部屋へ急ぎます。
「ただいま帰りましたー……ん?ㅤ暑い?」
部屋がものすごく暑くなっていました。外気の差というのもあるのでしょうが、それだけではないレベルでした。なにより、鍵が開いていたのに蓮也くんの返事がないことが気になります。
リビングへ行くと蓮也くんが寝て……いえ、溶けていました。
「だ、大丈夫ですか?」
「……暑い……」
「でしょうね!」
慌ててストーブを止めて、窓を少し開けて換気をします。蓮也くんはというと、汗だくで服までびちゃびちゃになっています。
「なんでこんなことになってるんですか?」
「いや……普通に転た寝してたら……」
「もう、心配しましたよ?」
「それは……ごめん」
「タオル取ってきますね。服、脱げますか?」
「脱げないって言ったら?」
「……脱がせてあげますけど」
「じゃあ脱げない」
「私がタオルを取って戻ってくるまでに脱いでてくださいね」
蓮也くんは意外と甘えん坊なので少し困ってしまいます。これが甘えになるのかはわかりませんが。
タオルを取って戻ると、蓮也くんはちゃんと服を脱いでくれていました。
「背中は拭きます」
「なんか、ごめんな?」
「いえいえ。にしても、ここまで暑くなるまで寝てたんですか?」
「いや、起きたんだけどちょっと不安なことがあってな……」
「不安なこと?」
「……明日」
「明日がどうかしましたか?」
「……いや、なんでもないです。ごめんなさい」
「は、はい?」
よくわかりませんでしたが、とりあえず体を拭くことに専念しました。その後も蓮也くんの様子がおかしかったのですが、私には知る由もないのでどうしようもないのです。
「それでは、また明日」
「おう」
蓮也くんへのプレゼントに手紙を書きます。とはいっても、頑張ることなんてなくて、私の蓮也くんへの思うままの気持ちを書くだけなので苦労はしません。
「……喜んでくれるかな」
誰に伝えるわけでもなく、私はそう空へと呟くのでした。
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