第15話  朝

朝、天井を打つ雨の音で目が覚めた。


「……んん………」


凝り固まった体を伸ばす。いつもと違うところで寝ていたのがたたったのか少し痛い。


「……しゅうとくん……おはよう…」

「…ん?……」


すぐそばから萌笑の眠そうな声が聞こえた。




………すぐそばから萌笑の眠そうな声が聞こえた?




両腕の中を覗くとそこには萌笑がいた。


「……しゅうと、くん……」


幸せそうに表情を崩して、俺の体に縋りつく。やわらかい感覚が押し付けられている。




俺は萌笑を抱きしめて、いつの間にか意識はもういちど暗転した。



………………


………



「……しゅ、柊人君!しゅうとくん!」


身体をぺちぺちと叩かれる感触で目を覚ました。


抱きしめていた萌笑の体をさらに強く抱きしめる。


「…ひゃぅ………しゅ、しゅうと、くん……」


手の中から力の抜けきった声が聞こえる。目をうっすらと開けると、顔を真っ赤にして焦ったように俺のことを起こそうとする萌笑の姿があった。


「………ああ、萌笑。おはよう」

「お、おはようございますっ!」


抱きしめている感覚がなんだか幸せで離せそうにもない。


「……しゅ、しゅうとくん……その……てが……」

「……手が?………」


まだ冷め切ってないぼんやりとする頭を使って考える。


…………ま、いいか。


「………萌笑……」


両腕の中のやわらかい感触をもっと堪能するために全身を使って抱きしめる。


「……はうぁ………」

「……萌笑、大好きだよ………」

「は、はい………」


ぼふ、と萌笑が顔を赤くする。


やっぱりかわいくて、手をはなすことはできなかった。



………………


………



やばい…………やばい。


「……ご、ごめん…」

「だ、だいじょうぶです」


朝、寝ぼけたままに萌笑を堪能しまくっていた。萌笑はいまだに顔が真っ赤で落ち着く様子もない。


それもそうだろう。そっち系の会話を夜中に繰り広げた挙句に、その次の朝には抱き着かれていたのだから。


「………で、でもなんで?」

「わ、私が………」


萌笑が恥ずかしそうに視線をそらしながら小さくつぶやく。


「……よ、夜中……寂しくて…しゅ、柊人君の布団……に…」

「も、もえが?」


こく、と小さくうなずいた。


萌笑が、夜中に寂しくなって俺の布団に入ってきたのか……いや、まあ嬉しいんだけど………


俺は慌てて、頭に浮かんだ「夜這い」という言葉を吹き飛ばす。


「……と、とりあえず朝ごはんの用意しようか」

「う、うん」


二人で、キッチンに立つ。


「……なんかこうしてると夫婦みたいだな」

「………ふ、ふーふ………はぁぅ……」


ボソッと俺がつぶやいた言葉に萌笑が顔を真っ赤にする。


俺も言った後で恥ずかしくなってしまった。


「あー。すまん。作ろう」

「わ、わかった……」


基本的に萌笑のほうが料理が上手なのでメインは任せて、俺はサラダと食卓の用意を手伝おうと思う。


台拭きをもって食卓を綺麗に拭く。キッチンのほうに戻ろうと後ろを振り向くと、エプロン姿の萌笑が目に入った。


………かわいいな。


やっぱり若奥さんみたいな感じがして、なんだかずっと見ていたくなる。


俺のために朝ご飯を用意してくれる若奥さんだ。めちゃくちゃうれしい。


「……萌笑、今日のメニューは何?」

「そうだね……トマトと玉ねぎを入れたスクランブルエッグと……スープかな」

「おお、それを聞いただけでうまそうだな」

「そうだといいな。楽しみにしててね」


テーブルの上にコップや箸を並べていく。萌笑が卵を焼き始めたのを見てパンをトースターに入れた。


萌笑が料理をする音が響く。


俺は萌笑が料理する姿を眺めていた。


───チーン!!


トースターから音がする。


「パン焼けたぞー」

「はーい!今スクランブルエッグできるから座って待ってて」

「分かった」


トーストを皿に乗せて食卓に乗せる。


「何飲む?」

「うーん……牛乳かな」

「おっけー」


俺も牛乳を飲むつもりだったので二人分のコップに牛乳を注ぐ。


「はい、出来上がり!」


萌笑がスクランブルエッグの入った皿を持ってきて、椅子に座った。


「じゃ、食べるか」

「うん!」


ふたりで挨拶をして食べ始める。


一口目に牛乳を飲んでスクランブルエッグを自分の更に取り分ける。


それをスプーンですくって口に運んだ。萌笑の目が感想を求めるようにこっちを見ている。


「……うまい!」

「よかったぁ……」

「…ほんとおいしいよ。やっぱ萌笑はすごいな」

「ありがと。うれしい…」


萌笑が少してれたように笑う。




幸せな朝ごはんだった。




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