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あれから一ヶ月経ってようやく気持ちの整理がついてきた。だからこうしてきょうはカーテンを少しだけあけることに成功した。雨だ。梅雨だからかもしれないけれどここ最近ずっと耳鳴りみたいな雨音が続いていた。
思い出がこころの中に咲き続けたとしても、やっぱりそこにあなたがいないのならどんなにきれいでも咲いていても意味がないと思う。
ジンくんのお別れ会は行ったけれど、嘘だったらいいなって思っていてあんまり覚えていない。
メンバー三人、ひどい顔をしていた。なんて顔してるのって、わたしはそれだけ思った。顔だけ知っているけれど話したことのないみんなの啜り泣く声。
来なければよかった。そこに行ったって、ジンくんと目が合うことはないし、見つけてくれて微笑んでくれることもない。そんなのこちらの勘違いだと笑ってくれてよかったけど、そう思えるのがわたしの幸せだった。この際もう見つけてくれなくてよかったから、ただ、歌って動いていて欲しかった。
貯金は十万円あった。次のツアーで使うべき資金だった。これから空虚なわたしの人生を始めなくてはいけない。なにをすればいいんだろう。こんなことになるんだったら「真面目に」勉強するべきだったのかもしれない。もっと「いい大学」に入ればよかったのかもしれない。でも、それだったらもっと後悔する生き方になっていた気がする。だってわたしはジンくんに出会って「生きる」ということを知ったから、もしかするとここにいないということもあり得たのかもしれない。
忘れるということを無理にしないことにした。涙はいつか乾くのかもしれない。部屋はそのままにしておいた。
大学三年生のいまから就職活動に向けて勉強し始めた。いまのわたしがどんな会社を狙えるのか。やりたいことはなんなのかさっぱりわからなかった。昔から目標と言えるものなどなにひとつなかった。
ジンくんが死んで、何人かのファンのひとが後を追ったと何人かのブログで見た。だけどわたしは死ぬ気にはなれなかった。ジンくんの抱えていたものの重さを知らないわたしが、ジンくんと同じ方法の死に方を選んでいいはずがない。
とりあえず、しばらくたくさん眠ることにした。そうやってこころの疲労を癒していく。でもなんでこんなにぽっかり穴が空いているんだろう。これもひとつの愛なのかな。それならばこの痛みは愛しい。わたしの中に停滞しつづけるこのジンくんが与えてくれた愛をどう扱っていけば、いいんだろう。この先。
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