第6話
「エメロード嬢!ひさしぶりだね。また一段と綺麗になったね。」
アクアさんと話していると、ふいに声をかけられた。
「・・・ランティス様。」
声のした方を見ると、目立つ姿がそこにはあった。
私の婚約者のランティス・パインフィールドだ。
彼はこの高等魔術学院の生徒会長をしている。
優れた容姿と侯爵家のご子息ということもあり、数多の女性の視線を欲しいままにしている。
私はチラリッとアクアさんの方に視線をうつした。
乙女ゲームのシナリオでは、ランティス様ルートがメインルートなのだ。
アクアさんがランティス様に興味を持ったかどうかが気になったのだ。
しかし、アクアさんはにこにこと笑っているだけで、ランティス様に特別な感情を持っているようには思えなかった。
「おや、エメロード嬢、隣にいる女性を紹介していただけないかい?」
アクアさんはランティス様に興味を持っていないように見えるが、ランティス様は違うようだ。
アクアさんに向けて興味を剥き出しにした視線を向けている。
正直ちょっとムッとした。
一応ランティス様は私の婚約者なのだ。
それなのに他の女性を気にするというのはあまり褒められた行為ではない。
しかし、ランティス様は侯爵家のご子息なので、格下の伯爵家の令嬢である私が強く意見できるはずもない。
「アクア・リッチフィールド嬢ですわ。」
だから、私はランティス様にアクア嬢を紹介せざるを得ない。
「アクアか・・・とても良い名前だね。可憐な君によく似合っているよ。」
にっこりと笑ってランティス様が告げる。
婚約者の前で堂々と他の女性を口説くだなんて、恥も外聞もないのかしら。
それにここは高等魔術学院だ。ランティス様はひじょうにモテるし、目立つ。
そんなランティス様が女性徒と話しているだけでも目立っていたのに、まさか女性を口説き出すだなんて。
周りの視線が集まってきているのを感じる。
これって、ひじょーに不味い状態なような気がする。
アクアさん男爵令嬢だし。
逃げたいけど、アクアさん置いて逃げられないし。
「ありがとうございます。でも、私、この名前あまり好きじゃありませんの。」
おおう。
アクアさんにっこり笑ってランティス様に反論している。
すごいなぁ、アクアさん。
格上のランティス様にくってかかるだなんて。
「あ、そうなのかい。それは失礼なことを。申し訳ない。」
しかも、ランティス様謝ってるし。
婚約者の私に対しても謝るなんてしたことないのに。
アクアさんは偉大だ。
「それと、私。男の人には興味ありませんの。」
にっこり笑いながらアクアさんはランティス様に告げた。
あ、あれ?
なんか乙女ゲームと全然ちがくない?
アクアさんは、ランティス様に男の人が好きではないと言い切った。
そうして、私の腕をつかむと、
「行きましょう。」
「えっ?えっ?」
私の腕を引いてアクアさんはランティス様の前を通りすぎる。
私は思わずアクアさんとランティス様に交互に見やる。
心情的には驚きすぎてどうしていいかわからない状態だ。
まさか、アクアさんがこうもキッパリとランティス様を避けるとは思わなかった。
それは私たちを遠巻きに見ていた高等魔術学院の生徒たちも同じようで、みんな口と目をあんぐりと開けてアクアさんのことを見つめていた。
良くも悪くも入学早々私たちは悪目立ちをしたことは言うまでもない。
この一件で私たちの名前は学院中に知れわたることとなった。
「アクアさん。あのお方はランティス様といって、パインフィールド侯爵家のご子息です。無下にしていいお方ではありませんよ。」
「あら。でも、エメロードちゃんは嫌がっているように見えたわ。私、ああいう人って苦手なのよ。」
「ええっとぉ。それは、ランティス様は私の婚約者なので、それなのにも関わらずアクアさんに粉をかけようとしたのがなんというか・・・私のプライドが・・・。」
ランティス様を嫌がっていたわけではなくて、婚約者が他の女性・・・この場合はアクアさんを口説いていたのが気にくわなかったんです。
と、アクアさんに素直に告げる。
なんだか、このアクアさんは乙女ゲームのヒロインとは違ってさっぱりとした性格をしているように見える。
なので、私も包み隠さず自分の思ったことを伝えた方がいいと思ったのだ。
「あら。エメロードちゃんの婚約者だったの!?知らなかったわ。ごめんなさいね。でも、それなら最悪ね。自分の婚約者の目の前で私を口説こうとするなんて。結婚したら浮気をされるだけよ。」
「え、ええ。」
アクアさんはランティス様が私の婚約者だと知って、激おこ状態になった。
アクアさんの中で、ランティス様の株が急降下したようである。
貴族の結婚というものは、家同士の繋がりを強めるためのもので、当人の意思がどうであろうと関係ない。
そのため、貴族社会では浮気や愛人を囲うことは日常茶飯事なのだ。
まあ、うちの両親はすっごく仲がいいけど。
多くの貴族家庭では家庭内が冷えきっていることも多いと聞く。
だから、浮気は覚悟の上だったりする。
気分はよくはないけれども。
「ですが、ランティス様はひじょうにモテるお方です。そのお方が私のような伯爵家の娘と婚約を結んだのです。浮気は仕方のないことですわ。」
そう言って私は少しだけ寂しそうに微笑んだ。
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