異世界で希少魔法師になりました!
雅楽代 彩
第1話 プロローグ
ぴぃん、と緊張が張り詰める空間。誰もが息を呑んでその時間を待つ。そよそよと髪を攫う風の音さえも煩く感じる程に、そこは音がない空間だった。
「緊張する…」
小声で私にそう囁く友人…深瀬萌依に、震え声で返答しつつ、私は時計をじっと見詰めた。
「あと3分…」
もう既に周辺には発表を待つ人が集まっており、発表準備をする係員の人たちもぽつぽつと姿を見せ始めている。
「あと2分…」
係の人がボードに掛けられたシートに手をかける。10時ちょうどに剥がされるであろうそれの下の文字で、今日からの私の命運が決まるのだ。
「あと…1分」
息が詰まる。心臓の音が何よりもバクバクと煩い。目の前が今にも真っ白になってしまいそうで、私は必死に呼吸を整えた。
「10時になりました!合格発表を開示致します!」
ばさっ、と音をたててボードからシートが外される。ボードにずらっと並んだ受験番号を必死に目で流しつつ、自分の番号を探していく。
「やった!あった!」
あちこちでそんな歓喜の声が響き、泣き出す人、その場に崩れ落ちる人、絶望の表情でその場を立ち去る人などが辺りを埋め尽くす。ない。見つからない。
「茉耶…あった?」
萌依が控えめに私の名を呼び、私は首を振る。見つからないの。そう小声で言うと、萌依は私の受験票を覗き込んだ後、ボードを真っ直ぐに指さした。
「あれじゃない?」
私の立ち位置からはほぼ真上、太陽の光に反射してちらちらと文字が見え隠れする辺りに、私の受験番号は煌めいていた。
「あ…あった!!!」
思わずそう叫んでしまい、咄嗟に口を押える。でも周りじゅうがそんな状態なのだ、誰も自分一人のことなど気にとめていなかった。萌依も私に笑顔を向ける。
「私も、あったよ。これで2人で、高校通えるね!」
「うん!」
2人で顔を見合わせて笑う。こんな笑顔になったのは久しぶりだ。これからも萌依と、他の友達と、同じ学校で過ごせるという喜びが図らずも気持ちを昂らせる。
「合格した方はこちらで書類を受け取ってから帰宅するようお願い致します」
突如スピーカーから放送が流れ出し、私達は辺りをきょろきょろと見渡す。奥のテーブルにいた女の人とふと目が合うと、その人がほわりと微笑んで私たちに向かって手招きをした。
「合格おめでとうございます。出身学校とお名前を教えてください。」
「ありがとうございます!南桃中学出身、葉月茉耶です!」
「同じく、南桃中学出身、深瀬萌依です。」
私達が笑顔で答えると、女の人も笑顔を浮かべた。
「これから始まる学校生活には大変なことも多いとは思いますが、応援しています。」
そう言って渡された封筒はずしりと重く、これからの学校生活への更なる期待を煽った。
「萌依!一緒に頑張ろうね!」
「うん、もちろん。」
こうして、私達の物語は幕を開けた。
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