第13話 古の十二家
それは歴史の授業でのことだった。
歴史は、ミュスカが得意とする科目で、彼女の適切な助言もあって、いつしかローズも歴史の授業を好むようになっていた。
「我が国の建国神話については、みなさんご存知のこととは思いますが、竜の秘宝についてはご存じでしょうか?」
「竜の秘宝? てか、建国神話?」
授業を聞きながら、そんなことを呟いたイツキを、ローズは可哀想な者を見る目で見た。
「気になることがあるのなら、後で復習をするのですから、今は先生のお話に耳をかたむけましょう」
穏やかにイツキを諭す。
イツキとしても、別に先生が気持ちよく語っているところに無粋な質問をするつもりはないので、ローズの言葉にうなずいて、おとなしく授業を受けた。
「我が国には、古くから続く
指名されたミュスカは、水を得た魚のように活き活きと答える。
「はい! ジャニュアリー、フェブラリー、マーチ、エイプリル、メイ、ジューン、ジュライ、オーガスト、セプテンバー、オクトーバー、ノーベンバー、ディッセンバーの十二の称号です。この内ジャニュアリーは王家の称号として固定されています」
「よろしい、完璧な答えでした」
褒められて、ミュスカはニコニコだ。
先生としても、間違える者に答えさせて授業を中断してしまうのが嫌なのだろう、だいたいは、知識のありそうな者に答えさせる場合が多い。
「この
「すてき、ロマンだわ」
先生の話に、ミュスカがすかさず反応する。
うっとりとしたその様子だけを見ると、まるで恋する相手から睦言を囁かれている乙女のようだが、実際は歴史のロマンを考えているのだ。
もしかすると、ミュスカはちょっと残念な少女なのかもしれない。
「現在では、それぞれの家が何を封印していたのかについては、はっきりとしていませんが、一の封印である王家のジャニュアリーの宝だけは判明しています。それが王冠に輝く雪の結晶のような形の金剛石です」
「おお」
教室のあちらこちらからどよめきのような声が上がった。
王冠に飾られた宝石については、さすがに貴族たちは皆知っている。
歴代の王の肖像画に描かれているからだ。
しかしそれが封印されし竜の宝であったとは、知らない者がほとんどであった。
「このように、古い記録というものは、人々に意識されているものは残り、人々の意識から消えてしまうと記録もされなくなり失伝してしまうことがあります。歴史を正しく伝えるには、記録を残すこと、そしてそれを常に研究し、更新し続けることが大切なのです」
歴史の授業としてはこれまでであったが、この内容は、いたくミュスカの心に深く入り込んだ。
「わたくし、
ミュスカは、ほうとため息をついた。
授業の合間の休憩時間のことである。
今はアイネも合流して、お茶を飲みながら気ままな会話を楽しんでいるところだった。
イツキはこれをチャンスと捉えた。
イツキの覚えている乙女ゲームの設定によると、学園には十二の秘宝があり、その秘宝の謎を追っていくことで、最後の秘宝である、楽園の扉に辿り着くのだ。
その一つ目の秘宝は、ゲーム中でも王冠の金剛石だった。
「その、建国神話というのは?」
とは言え、イツキは十二の秘宝については知っていても、十二家の話までは知らない。
いや、メインキャラクターが全員が十二ヶ月の名前を持っていたということは知っているが、それが何を意味するのかは知らなかった。
単にゲームだから特徴的な名前にしたんだろうなと思ったぐらいだ。
とりあえず、知らないことを話のきっかけにはしにくいので、イツキは素直に
「ごめんなさいね。貴方は子どもの頃から我が家で仕事を習っていたから、貴族としての勉強が疎かになってしまっていたのね」
ローズが申し訳なさそうな顔で、イツキに謝る。
「いえ、前も言いましたが、それは羨ましがられることではあっても辛いことではないので」
イツキはブルブルと首を振って、ローズに胸を張って言った。
実際分厚い歴史書を幼い頃から勉強するなど、イツキには耐えられなかっただろうと思うのだ。そう考えれば、ローズが気にすることは何もない。
それよりも、この話題をなんとしても楽園の扉探索につなげるのだと、イツキは真剣なまなざしをローズに返した。
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