第48話 あの時、こうしていれば
# 48
あの時、こうしていれば。
あの時、ああしていなければ。
今はもっとマシだったのかもしれない。
それとも結局、何も変わらないままだっただろうか? 僕がアメリカにいようが、日本にいようが、そんなことお構い無しに世界は進んでいく。
いつかはもっと有益なことを話せるようになるのだろうか? いつかはもっと写実的に語ることができるのだろうか? そして、いつかは語り終えることができるのだろうか? このどうしようもなく無価値で、どうしようもなく愛おしい僕の物語を。
僕は知りたいし、知りたくない。誰かの考えや仕草、思い出、主張、その意味なんて。僕は知りたいし、知りたくない。失ったものは何か、これから失って行くものは何か、そんな馬鹿げた、非生産的なことなんて。
数年後、彼女は完全に消えた。死んでしまったのかもしれないし、どこかで案外楽しくやっているのかもしれない。ラジオをいくら回しても、もう歌は聞こえない。僕は思う。彼女がもし百歳まで生きたとしたら、二十二年間は笑っていてほしいと。一日にしたら三百十七分間だ。五時間と少し。もしかしたら、それはとても難しいことなのかもしれない。
白い紙の上で映写機を回す。
どこにもない海を探して。
そっちはどう? と君は尋ねる。
いつだって僕は問いかけに窮する。
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