魔王学園の反逆者~人類初の魔王候補、眷属少女と王座を目指して成り上がる~/久慈マサムネ

『魔王学園の反逆者・IN・転生魔王のジュリエット』    

 

 気が付くと、ヨーロッパ辺りの古い建物に囲まれていた。

「リゼル先輩……これって」

「ええ……何だかイタリアのヴェネツィアみたいだわ」

 みやびが思い出したように話に食いついてくる。

「あ! アタシも行ったことあるよ! 道がきゅーっと細くてぐちゃぐちゃーってカンジで、迷子になっちゃった!」

「ほえぇ……そうなんですか。れいなも迷子になりそうで、こわいですです」

 れいなが心細そうに、俺の袖をつかんできた。 

 さっきまで俺たちは魔王学園の控え室パレスにいた。そこで、古い魔導書に書かれた儀式を再現していたのだ。

 リゼル先輩の家にあった魔導書で、どのような効果があるのか分からない。しかし、書庫の奥に封印してあったもので、かなりの力を秘めているもののようだ。もしかしたら、魔王大戦を勝ち上がるのに役に立つかも知れない。

 そんなわけで、リゼル先輩、雅、れいなと一緒に再現してみたのだが……。

「ってことは、転移の魔法だった……ってことですか?」

 リゼル先輩は長い黒髪をかき上げると、青い瞳を細めて辺りを見回す。

「いいえ。似てはいるけど、ヴェネツィアではないわ」

 そうなのか。

 この俺、盛岡雄斗もりおかゆうとはごく普通の庶民であり、一高校生に過ぎない。海外旅行なんかに縁はない。テレビの紀行もので見たような気はするけど、いまいち差が分からない。

「じゃあ、ここはどこなんでしょうか?」

 と、訊いてみるが、先輩も難しい顔で唸っている。

 そこへ――、

「……な、何ですか!? あ、あなた達は!?」

 銀色の髪をした、妖精のように美しい少女だった。

 端正な顔を赤く染め、俺たちを睨み付けている。

「神聖な学院で、何という淫らな格好をしているのですか!?」

 そう言われても仕方がない。

 魔導書に書かれた儀式を実践するのに、俺以外のリゼル先輩、雅、れいなはビキニを着ているのだ。出来るだけ肌の露出が多い方がいいとの記述があったためだが……全裸でなくて本当に良かった。

 とはいえプールや海ならともかく、こんな街中にいたら異様に映るのも無理はない。

「なぜ返事をしないのですか!? 見ない顔ですが、どこの国の生徒です!? ブレイズ? ルミナス? それともホライズン!?」

「え、えっと……?」

 答えようのない質問を畳みかけられ、戸惑った。

 俺たちを睨んでいる美少女の服も、少し変わっていた。

 少しクラシカルな凝ったデザインで、見ようによってはアイドルのステージ衣装のようでもある。しかし、学院というからには制服なのだろうか?

 リゼル先輩がその少女を見つめ、返事をした。

「私たちは魔術の実験をしていて、ここに飛ばされてきたの。私たちはここの生徒ではないわ」

「魔術の……ということは、このグランマギア魔法魔術学院ではない、他の学院ということですか?」

「私たちは銀星学園……通称、魔王学園の生徒よ」

「!?」

 その美少女は、制服のポケットから青い剣を抜いた。

「魔王学園!? プロスペロウの一味ですか!?」

 なにそれ!?

 いきなり剣を突き付けられるなんて、どう考えても穏やかじゃない。

 まさか、この娘も魔王候補の一人……?

「おい、イリス。何の騒ぎだ?」

 もう一人増えた。今度は男、それも見るからにガラが悪そうだ。あ、あとこの娘イリスっていうんだ。

「ハルトくん……じゃないっ! は、ハルト・シンドー!!」

 この赤毛の目つきの悪い男は、ハルトという名前らしい。こちらは随分と日本風の名前だな。

「この者たちは学院の生徒ではありません。しかも魔王学園とやらの生徒のようです」

「なに?」

 顔をしかめると、ハルトもポケットから剣を抜いた。こちらは幅広の赤い剣。ってゆーか、あのポケットどうなってるんだ。猫型ロボットにもらったのか?

 などと思っていると、れいなも何もない空間から長剣を抜き、俺の前に立ちふさがる。

 つまり、あの服もれいなと同じように別の空間につながっているのかも知れない。すなわち魔法。

「先輩、あいつらも魔族じゃないんですか?」

「いえ……でも魔法の素質はあるみたい」

「ちょっと待て。テメーら今魔族がどうとか言ったか?」

 何やら不穏な雰囲気だ。ここは適当にごまかして立ち去った方がいい。

 俺は先輩に目でそう語りかけると、先輩もうなずいた。しかし――、

「あーアタシたち魔族だよ?」

 みやびぃいいいいいいいいいいいいいい!!

 あっけらかんと、雅は答えた。答えてしまった。

 ハルトは凶悪な笑顔を浮かべると、剣を肩に担いだ。

「そーかよ。手がかりが向こうから飛び込んで来てくれるとはな。しかも魔族? 人型の魔族ってどーいうことだよ?」

「先輩……なんか、面倒なことになってませんか?」

「そうね。最悪の事態も想定しておいて」

 そう俺にそっと告げると、リゼル先輩はハルトとイリスを見つめた。

「あなたたちは魔族に怨みでもあるのかしら?」

「ったりめーだろ? 北方魔族はこの大陸を侵略し、世界を滅ぼそうとしている。魔族は人類の敵だ」

 雅が隣に来て、こそっと囁く。

「ねえユート、なんだかババーンってカンジの話になってきたね」

「ああ……壮大というか何というか」

 イリスという少女も、剣を構えて凄む。

「『魔王の魂ロメオ』について、教えてもらうわよ! プロスペロウ!!」

 リゼル先輩は困ったように眉を寄せて、腕を組んだ。

「何を言っているのか分からないけど、あなたたちも同類じゃないの?」

「……何ですって?」

 先輩の瞳が青く光った。

「あなた方の中に……何か巨大で邪悪なものを感じるわ。まさに魔そのものが」

 ハルトとイリスの目つきが険呑なものへと変わった。

「こいつはいよいよ……ただで帰すワケにはいかねーな」

「ええ、事と次第によっては……この場で倒します」

 リゼル先輩は二人から目を離さずに、俺を呼んだ。

「ユート」

「はいっ」

 俺は先輩に一歩近付く。

「さっきの儀式で魔力を使い果たしているでしょ? 少し補給しなさい」

「わ、分かりました……失礼します」

 と言って、俺はリゼル先輩の後ろに立ち、手を前に回すと大きなおっぱいを握った。

「んっ♥」

 先輩の顎が上がり、艶のある吐息が漏れる。

 手の平にずしりとした先輩の胸の重さが感じられる。そして柔らかく、喩えようのない気持ちよさも。

 おっぱいの先から俺の手の平へと、先輩の魔力が流れ込んでくる。

「なっ!?」

「ひゃ!?」

 ハルトとイリスは驚きの表情を見せた。

「て、テメーら、何を……」

「ふ、不埒な……」

 うろたえる二人に、雅は得意そうに胸を張った。

「へっへーん♪ 『愛魔献上ヒーリング・ラバーズ』だよ! 魔力をユートに分けてあげるんだ!」

 その解説を聞いて、二人はいっそう険しい顔をした。

「性魔術や邪淫魔法ってやつだな……闇魔法の一種か」

「汚らわしい……もうプロスペロウで確定ですね」

 さっきからこの二人言ってるプロスペロウって何なんだろう?

 疑問ではあるが、とても訊ける雰囲気じゃない。

 ハルトとイリスは剣を構えた。

 俺は先輩のおっぱいから手を放し、二人を睨み付ける。この二人の実力がどれほどのものか、まったく見当が付かない。

 俺は体の中で、高レベルの魔法式を組み立ててゆく。

 それを察知したのか、二人が動いた。

 同時に駆け出す。

 そして、


 ――つまずいた。


「え?」

 同時に踏み出した二人の足が偶然からみ倒れる。

「きゃぁっ!?」

「うおっ!!」

 絡み合って石畳の上を転がった。

「……」

 俺たちは半ば呆然として、その姿を見つめた。

「ち、畜生! 何で突然」

「こんな時に、『転生婚礼ネクロマンス』が発動するなんて!?」

 ネクロマンス?

 何だそれ?

 いや、それよりも……、

「うっわー、なんだかすっごいねー……」

「え、えっちえっち、ですです」

 二人は絡み合って倒れているのだが、その倒れ方がどう考えてもおかしい。

 ハルトが後ろからイリスを抱きしめるような格好だ。しかも、左手は制服の胸元の隙間にもぐり込み、おっぱいを揉んでいる。右手は太ももを抱え上げるようにして、股を開かせている。おかげでスカートは全開。パンツは全開はおろか、手がパンツの中に収まっている。

「ハ、ハルトくん……♥」

「イ、イリス、気をしっかり持て! 魔王の半身の言いなりになるな!!」

「で、でも……あんっ、そんなに手を動かされたら……」

「く、くそっ! 何が引っかかってんだ!? 抜けねえ!」

 そんな有様を、リゼル先輩はじっとりした目で見おろしていた。

「……この人たち、どこまで本気なのかしら?」

 雅も腕を組むと、首を傾げた。

「これから戦おうってのに、いきなりえちえちなこと始めるなんてねー。信じられないくらいにえっちなのかな?」

 ハルトは噛み付くように吼える。

「これからやり合おうってときに、おっぱい揉む奴らに言われたかねえ!!」

 確かに。

「……とにかく、彼らも取り込み中のようだし、行きましょうか?」

「ですね」

「ちょっと待て! テメーらぁあああああ!!」

 そうハルトが叫んだ瞬間、俺たちの視界が切り替わった。

 まるで、TVのチャンネルを変えたように。

「あれ?」

 もとの場所。魔王学園の控え室パレスだった。

 思わず、みんなと顔を見合わせる。

「俺……夢でも見てたのかな?」

「そうね……私もヴェネツィア風の町で、妙な二人と出会う夢を見たわ」

 どうやら、全員同じ経験をしていたらしい。

 この儀式魔法は、異世界への転移魔法だったのかも知れない。

 向こうの世界で、全く異なる魔法の知識を手に入れられるかも知れない。

 そんな可能性を考えながらも、この魔導書は一旦封印することにした。

 二つの世界が一つにでもなったら、魔王もえっちも二倍になりそうだったからである。

 考えただけで、恐ろしかった。

 でも、少し楽しそうかも……と、密かに思った。

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