第4話 農園経営ゲーム・カントリーファーム
木製の小屋の扉の外に出ると、目の前には小麦畑が広がっている。
ゆらゆらと左右に揺れる小麦を見ていると、優しい風が吹いている気がしてくる。
風なんて吹くはずないのに。
小麦畑は一面黄金色で綺麗。
よく実っている。
さあ、収穫だ。
小麦に触れると『収穫できます』とダイアログが出た。
行動選択肢から『収穫』を選択。
すると空中に白い手が現れた。
本物と見間違うほどに精巧なグラフィックの畑や景色に比べると、ひと目で作りものだと分かる大雑把な見た目の手だ。
その手が小麦畑を通過し、小麦はどんどん消えていく。
あっという間に小麦畑は何も生えていないただの畑になった。
私は行動選択肢から、今度は『植える』を選択した。
栽培できる穀物、野菜、果物の一覧が空中に現れる。
うーん…次は何を植えよう…。
少し考えて、リンゴの木を植えることにした。
リンゴを選択すると、空中に苗木がパッと現れて、自動的に土に向かって飛んでいく。
ドスドスプスプスと苗木は土に刺さっていく。
すぐに先ほどまで小麦が実っていた畑はリンゴ畑になった。
うーん…趣きが無い。
選択肢を選ぶだけでどんどん進んでいく。
自分で作物を土に植えたり収穫できたら楽しいのに。
せっかくのVRゲームなんだから。
そんなことを考えながら隣の野菜畑に向かった。
ここはVRゲーム『カントリーファーム』。
作物を育てて収穫し、NPCに売って、その売り上げで農具を買ったり土地を広げていける農園経営ゲームだ。
私は野菜畑に入り、大きく丸く実っている赤いトマトを見つめた。
顔を近づけてジッと見入る。
本物にしか見えない。
数ある農園経営ゲームの中でも、このカントリーファームは、グラフィックのリアルさで群を抜いている。
先ほど私がチラリと思った、自分の手で植えたり収穫したりできるゲームもあるにはあるし、実際プレイもしてみた。
でも結局、最も現実に近いものを見せてくれるこのゲームを選んだ。
作物だけじゃない。
遠くに見える緑の山。
地面の茶色い土。
常に良いお天気の青い空。
浮かんでいる白い雲。
野原に生えている雑草や野の花。
どれもこれも本物に見える。
まるで地球に帰ってきた気分。
ゲーム内を散策しているだけでリフレッシュになる。
でもそろそろ寝なきゃ。
明日も仕事だし。
私はチャッチャとトマトを収穫し、新しい野菜を植え、ゲームの電源を切った。
扉の中に入ると、真っ白な部屋が広がっている。
真っ白な部屋。
真っ白な机。
真っ白な容器の中には、真っ白なスポンジ状の材質。
そこから緑色の野菜が生えている。
私の仕事は食料生産者。
この人類の新しい住みかとなる土地―と言うか、星は、私達地球人―と言うか、元・地球人達にとって、奇跡的な程に都合の良い場所だった。
気候は過ごしやすく、ろ過は必要だけど水に近い物もあり、地面の手入れさえすれば植物も育ち、植物が育つということは酸素も自然が生産してくれる。
赤紫色ならぬ、桃紫色の空も、これはこれで美しい。
ただ1つだけ難を挙げるとすれば―
植物はまあまあ育つくせに、食用の穀物、野菜、果物がイマイチ育ちにくいのが珠に傷。
でも、他にこの星以上に良い星を探す時間は無かった。
なので、皆が安心してこっちに引っ越して来れるように、私達のような研究者、生産者が、現在テラフォーミング真っ最中という訳だ。
コールドスリープした人間を乗せた船は、すでに地球を出発している。
まだこちらの準備は終わってなかったが、時間が残されてなかったのだ。
頑張らなくては。
わざと目を粗く生成し、栄養剤を染み込ませた白いスポンジが土の代わりだ。
このスポンジは人類の叡智が詰まった命の源。
そこから生える大きく丸く実っている赤いトマトを見つめた。
顔を近づけてジッと見入る。
よくできている。
おいしそうだ。
きっと栄養も満点だろう。
でも
うーん…趣きが無い。
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