第85話◇お出迎え2
「レイン様~! どこですの~!」
というフローレンスの泣き声が聞こえてきたあたりで、俺は合流を提案。
二人は渋々ながら了承してくれた。
俺を見つけた途端、フローレンスは表情を輝かせ、再び玄関に。
エレノアを警戒してか、腕を絡ませるのはやめたようだ。
次にやってきたのは、チビたちだ。フェリスの引率でやってきた彼女たちは、屋敷の大きさに目を輝かせる。
「これがゆうしゃくんのお家なの!?」
ウサ耳のキャロが興奮気味に言う。
「まぁ、一応そうなるかな」
「これは……探検だね」
「いいけど、俺はここを離れられないんだ。誰かついていってくれる人を探して――」
「我に任せるといい、ヒモのレインよ」
十代前半くらいの少女だ。白い長髪に赤い瞳。そして狐耳を生やしている。
ちょうど、人間化したミカと同じくらいの背丈。
前に一度だけ見たことがある。
霊獣白狐が狐の亜人に変化した姿である。
「あぁ、白狐さま。それじゃあ頼むよ」
「うむ」
白狐が頷くのを確認してから、キャロを見て頭を撫でる。
「探検隊の隊長殿も、ものを壊したりしないようにな」
「はーい、わかってるよー」
何人かの子供達が探検に向かった。
視線を巡らせると、黒髪メイドのフェリスがエレノアたちに挨拶していた。
それが済むのを見計らって、声を掛ける。
「フェリス、いつも悪いな」
「いいえ、誰かのお世話をするのは好きですから。ただ……」
フェリスが物憂げな表情になる。
「どうした?」
「最近、勇者さまのお世話をあまり出来ていないのが、少々寂しく……」
「いやいや、毎日逢ってるじゃないか」
「そうは仰っしゃりますが、わたしを置いてどこかへ行かれてしまうことも多く……。わたし、仮にも勇者さま付きのメイドですのに……」
フェリスが頬に手を当て、寂しそうに言う。
その姿を見ていると、胸がちくちくと痛んだ。
「そ、そうかもしれないな。今日はどこか行ったりしないから、一緒に楽しもう」
俺がそう言うと、フェリスは綻ぶように微笑した。
「うふふ、では、お言葉に甘えさせていただきますね?」
俺とフェリスが話していると、視界の端でフローレンスとエレノアがこそこそ話し合っているのが見えた。
「あのメイド、レジーの姉だったかしら……。手配したのはエレノア、貴女なのでしょう?」
「えぇ、まぁ。優秀ですし、良い人ですよ」
「レイン様との距離が近すぎるのではなくて?」
「フェリスなら大丈夫でしょう。貴女のところの執事こそ心配です」
「はぁ? セバスちゃんがわたくしを差し置いてレイン様を誘惑するとでも?」
パーティー会場となる食堂の方から「セリーヌです」という声が聞こえてきた。
主に付けられたあだ名はなんとしてでも訂正する執念を感じた。
さすがのフローレンスも驚いている。
次にやってきたのは、結構な大人数だった。
「ゆうしゃくーん」
魔王の娘、ミュリだ。
キャロたちと同年代の、魔人の童女。紫色の髪を靡かせ、可憐なドレス姿でとてとてと駆け寄ってくる。
俺は彼女のドレスがしわにならないように気をつけながら、飛び込んできたミュリを抱き上げた。
「あぁ、ミュリ。来てくれてありがとう」
「うん。ゆうしゃくんも、さそってくれてありがとうっ!」
輝く笑顔を見せたミュリをそっと下ろす。
彼女は探検に向かわなかった子供達と和気あいあいと話し始めた。
「ミュリさま、だから急に走んないでくださいって……」
赤髪の龍人メイド、アズラが困った顔をしながら追いかけてくる。
「あはは、今日も大変だなアズラ」
「勇者さま……じゃなくて、今はレインでいっか。レインの方からもそれとなく注意してやってくれよ」
「うぅん、ミュリは充分良い子だし、これくらいはって思っちゃうんだよなぁ」
「レインの前ではそうかもな! いやミュリ様は最近お勉強も頑張ってるし、元気なのはいいことだけどな。メイドの裏を掻く知恵もどんどん増してるんだよ」
アズラは複雑そうな顔で頭をがりがり掻いている。
「れ、れいんさま。本日はお招きいただき、ほんと、誠に、とても感謝してます」
アズラに少し遅れて、ミュリ付きのメイドのもう片方がやってくる。
同じくメイド服を着た、黒髪の魔人だ。
姉と対になるような、左右非対称の角。
王族警護を任された特別なメイドであり、フェリスの妹であり、『七人組』の一人。
戦いを好まない性格ながら、その魔法の才からか彼女はこう呼ばれている――『殲滅兵器レジー』と。
今日も猫背気味で俯きがちなのは変わらないが、声は弾んでいた。
「こちらこそ、来てくれてありがとう」
「え? 『レジーを待ってたよ?』」
『もう突っ込まないわ』
「れ、れいんさまったら……色んな人に声を掛けたけど実はわたしだけがいればいいんですよねわかってますよわたしとれいんさまは通じ合ってますもんね……ふふふ」
『やっぱ突っ込ませてくれる? この子ちょっと病んできてない?』
確かに聞き間違いが幻聴レベルに強引ではあるが、それも個性といえば個性なのだと……思う。多様性だ。
俺はそう思うことにしていた。
「大丈夫っすよ聖剣さま。レイン関連以外ではまともなんで」
「思ったんだけどなんでアズラはれいんさまを呼び捨てなの?」
「いででででッ! 本人に許可もらってんだよ! このパーティーはプライベートなんだから構わないだろっ!」
「そうだね……れいんさまは優しいしアズラは頼りになるから仲良くなるのはいいというかわたしもダメとは言わないけどね? 大親友として一つだけ確認させてほしいんだけどアズラにとってれいんさまって『友達』なんだよね?」
「そうだっつってんだろ! ってかそろそろ腕千切れそうなんだが!?」
「龍人なら生えてくるでしょ?」
「本物の竜でも生えてこねぇわ! 何を勘違いしてんだお前!」
二人のメイドが息の合った会話を繰り広げているところに、ミュリの兄である魔人の青年――フリップがやってくる。
彼と一緒の馬車で着たのか、ツインテールの魔法学院生ジュラルも一緒だった。
どちらも、俺が魔法学院に体験入学した際に出来た、数少ない同年代の友人である。
「フリップ! ジュラル! 来てくれたんだな」
フリップが微笑む。
「あぁ、お誘いありがとう。父上も来たがっていたのだが、最近忙しそうでね」
魔王としても、魔界から『神』クラスがやってくる脅威は無視できない。
この国だけでなく、この世界のためにやるべきことがあるのだろう。
そんな中、俺達には自由な時間を可能な限り作ろうとしてくれているのだから、王としてだけでなく一人の魔人として尊敬できる人物なのは間違いない。
「わっ、綺麗な人いっぱい……みんな、素の魔力もすっごいし……。あたし……かなり場違いじゃ……」
ジュラルは緊張した様子だ。
才能のある者は、必要な際に大量の魔力を生み出すことが出来る。
そして、そうでなくとも体内で魔力を循環させているものだ。
じゃないと、咄嗟に魔法を使うことができない。
この、魔力を体内に巡らせ留めておく技術は、魔法使いにとってとても重要。
『七人組』がいるこの場において、この技術の大天才にして努力家達ばかりが揃っていることになる。
ジュラルが圧倒されるのも当然といえた。
「どうしてだ? 今日は俺の親しい人を呼んだんだよ。ジュラルは友達だろ? 場違いなんかじゃないさ」
魔力で付き合う者を選んだことはない。
そもそもこの国に来るまで、人付き合いなんてろくに経験したことがないのだが……。
「あ、う、うん……。あはは、ありがとね、レインくん」
彼女が頬を僅かに染め、はにかむように笑う。
「ジュラルさんは友達なんですね~? ではわたしはどうでしょう~?」
ジュラルの背後に立ち、彼女の両肩にそっと手を添えるようにして、新たな招待客が現れる。
「ひゃあっ。る、ルート先生……! お、驚かせないでください」
「ふふふ、ジュラルさんったら~。何をそんなに驚くことがあるのですか? 何か、先生にバレたらまずいことでも?」
橙に近い茶色の長い髪をした魔人の女性だ。目許は線のように細められ、彼女から見て左側の横髪には緑のリボンが巻かれている。常に掛けている眼鏡の色も縁も緑だった。
魔法学院の講師で、『七人組』の一人で、『結界術』を得意とする彼女は――『聖結界のルート』と呼ばれている。
ルートは穏やかで優しい性格なのだが、ジュラルは彼女の登場に顔を青くしていた。
「ないです、ないです、ほんとに」
ジュラルが縮こまっている。ルートはにこやかに微笑んでいた。
だんだんと招待客が集まってくる。
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