第6話 鏡の前の悩める男の件
「おっさん、お互いちょっと冷静になって話そうや」
俺は床に正座して、おっさんにも指で床を指して座るように促した。
「あ、ちょっと私、痔なので冷たい床はチョット………」
あー、ホントに話が進まない。
「隣の部屋に椅子が有りますのでそこでお茶でも飲みながら………」
………という事で隣の部屋に移動した。
間取りは隣と一緒みたいだけど、手術台とか無い代わりにテーブルとか手洗い場とかが有った。
ポットやらお茶の道具も置いてある。
あれでお茶を煎れてくれるのかな?
あと、隅っこには自動販売機も置いてある。
ここは病院の休憩室?
………だとしても、おっさんとの関係性がわからん。
まぁこれからおっさんに聞いたら良いか。
おっさんは急須にポットからお湯を入れて湯飲みにお茶を注ぐ。
ずずず───………
おっさんはそれを持って俺の正面に座ると、お茶を啜った。
「………………おっさん、俺のお茶は?」
「………え、飲みますか?」
「………え、飲みますか?じゃないよ。普通は飲もうが飲むまいが入れるもんでしょ」
「でも変身解かないとお茶飲めないですよ」
俺は自分の口元を触ってみた。
…………硬い。
…………なんか違和感あるぞ?
なんか息苦しいと思ってたんだ。
口元が何かで覆われている。
────あのベルト触ったときに、病衣がなんかちょっと変な服に変わったのはわかってたけど、まさか!?
俺は立ち上がって手洗い場の鏡の前に向かった。
────そこで俺は初めて自分の姿を確認したんだ。
────あ、戦隊モノの青い人だ。
なんか変身ベルトはチョット違和感あるけど、子供の頃に日曜日よく見た青い人だ!
鏡の前にいかにも戦隊モノって感じの、青いマスクの俺が立っていた。
──────これが……わ・た・し?
~ココヨリ母へノ手紙~
拝啓 母さん
あ、なんか俺はまだこんな状況でも心に余裕があるようです。
男なのにピンクにさせられなかっただけ良かった!とか、良かった探しも出来そうです。
鏡に映った変わり果てた自分の姿を見ても余裕で受け入れられました。
あんなコテコテの関西人の親父を受け入れる母さんの大きな心………俺にも遺伝したかもしれないです。
追伸
口が塞がってるのでお茶が飲めないのが今の悩みです
~手紙ココマデ~
そんな事を考えていると、おっさんが鏡の前で立ち尽くす俺の後ろに来た。
「真ん中と横のボタン三秒長押しで元に戻るよ」
おっさんに言われて真ん中と横のボタンを長押しした。
一瞬光ったと思ったら、鏡にはあの青い格好から病衣に早変わりした俺の姿が。
あの腰に巻かれたベルトだけは違和感があったが、普通の格好にもなれるみたいだ。
追伸の追伸
母さん…………俺、お茶が飲めそうです。
……………………良かった。
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