第9話 告白。

「メルヤ。あなたは以前から私の特別でした。あなたがエリックのことを追いかけ始めてから、私はやっとその想いが好きという感情であることに気がついたのです」

「へ?」


 何やら魔術師団宿舎の個室へ案内され、風の魔術を応用した防音魔術というものをかけた後、ライノ先輩は突然そう言った。

 これは、告白……。 ライノ先輩が?


「あなたがまったく私の想いに気がついていないようだとエリックに指摘されて、伝えることにしました」

「ライノ先輩の想い……?エリック様が?」


 エリック様も知ってるってこと?!

 でもどうやったらライノ先輩が私を好きに?単にいじめたい対象じゃないの?

 疑問しか浮かばない私に、先輩は言葉を続ける。


「あなたを見るとどうしても何か言いたくなるのです。最初は気に入らないからだと思っていたのですが、あなたがエリックに一目ぼれしたと聞いて気持ちが変わりました。あなたはまったく気がついてなかったでしょうけど」


 全然わかりませんでした。

 それは確かに最近ちょっと優しいと思いましたけど。


「メルヤ。あなたがスヴィーが好きなエリックを諦めないように、私もあなたを諦めません。ただ気持ちは先に伝えておこうと思いました。そうしたら意識してくれるでしょう?」


 ライノ先輩が目を細め、少し笑った気がする。その笑みが妖艶で思わず見惚れたら、おでこにふわりと感触がした。


「ライノ先輩!?」

「単に自分の気持ちに正直になりたいだけなのです。好きなので、頑張りますから」

「それって!」


 前にスヴィーに話した台詞をアレンジ入りで繰り返され、私は頬を赤くする。


「まあ覚悟していてください。私はあなたのように甘くありませんよ。手に入れたいものは手段を選ばないですから」


 ライノ先輩の言葉と表情は、とても刺激的で私はくらくらを眩暈を覚えた。



「……やっぱりそうだったのね」


 ライノ先輩に話はおしまいですといわれて解放された私は呆然として歩いていた。

 何か魅了の魔術にかかったのではないか、やっぱりライノ先輩は「魔王」だったのではないかと思うくらい、何か思考がまとまらない。

 魅了の魔術は、学校でも習わないものなんだけど、魔術師団に入団した時に、説明されたものだ。魔物が使う魔術だということだけど、ライノ先輩なら使えそうだ。

 いやいや、そんな魔術に負けていられない。

 えっと負けるとか、関係ない。

 ライノ先輩が私を好き?……いや、ありえないでしょう。あんなにいつも小言みたいな嫌味なようなことばっかり言っていた先輩が……。

 

「メルヤ?どうしたの?どうしてこんなところでしゃがんでるの?」

「スヴィー!」


 こういう時は相談するしかない。

 私は声をかけてきたスヴィーに抱きついた。


「やっぱり思った通りなのね」

 

 意を決して相談した私の話を聞いて、スヴィーはうんうんと頷く。


「え?思ったとおり」

「だって、そうでしょう。あのライノ先輩がちょっと緊張していたみたいだし」

「緊張!」


 確かにそんな感じだった。


「それで、メルヤはどうするの?付き合うの?」

「付き合うって、なんで?私が好きなのはエリック様だよ」

「……本当?」

「本当だよ!」

「どうかしら。私はメルヤはライノ先輩がのほうが好きだと思うけど」

「なんでそんなこと言うの?やっぱりスヴィーはエリック様のことが」

「メルヤ!見損なったわ。私はエリック隊長のことは好きじゃ……好きだったとしても、そのためにメルヤをライノ先輩とくっつけようとか思わない。酷いわ」

「スヴィー。ごめん。私は別にそんなつもりはなくて」

「メルヤ。こうなったら、エリック隊長とデートね。前に私に言ったでしょう?気持ちを確かめるためにデートしたらって。メルヤもそうしたらいいのよ」

「え、だって、スヴィー」

「これは絶対事項だから。服はあのライノ先輩に買って貰ったものを着てね。本当にエリック隊長がすきなのか、見極めたらいいのよ。私は違うと思うけど」

「スヴィー……」

「私にも同じ事を言ったでしょう。メルヤ。さてと早速エリック隊長に話してくるから」


 返事もする暇もなく、スヴィーは軽い足取りでいなくなってしまった。

 確かに私はスヴィーにそう言ったけど……。

 エリック様とデート。あんなにスヴィーが羨ましかったのに、今はただ複雑な心境なだけだった。

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