消えた王女
後日、王宮から連絡が入ったので、セバスに白ポーションを納めてもらった。
その数なんと200本。
それぞれの勇者が100本ずつ欲しがったことになるのだけど、そんなに持ってどうする気なのだろう。
まあ、私の作ったポーションは劣化することもないから、どれだけ持っていても困りはしないだろうけど……。
勇者たちの要望も叶えたし、さあ
善人たちが庇護を受けている国の国王には、王子と王女が一人ずついる。
王子の名前はマクギリアス・ミドガルド・フロイゼン、王女の名前はロザリア・ミドガルド・フロイゼン。
マクギリアスは成人しているのだけれど、とても武芸に秀でた人物だそうで、王国騎士団団長として東の国境沿いに建てられた砦で、亜人の監視をしているそうだ。
亜人というのはエルフやドワーフにホビット、リザードマンなどの総称で、善人たちが拠点にしている人間の国から東に進んだところに亜人の国家があるらしい。
セバスの情報によれば、昔から人間と亜人の仲は良好とは言えず、しょっちゅう争っているのだとか。
ちなみに魔王城は魔界にあり、そこに行くには人間の国から遠く西に進んだ先にある
祠って、本来は神を祀るためのものだったりするから、魔界という呼び名も後付けのような気がするけど、今は関係ない話だ。
さて、問題なのは王女の方だった。
今年で16歳になるロザリアには、婚約者がいない。
通常であれば、12歳になるまでに侯爵や伯爵といった上位貴族の子息と婚約を結ぶそうなのだが、ロザリアは誰とも婚約を結ぼうとしなかった。
彼女が婚約を結ばなかった理由は、幼い頃に顔の左半分に大きな火傷を負ってしまった為らしい。
それまではとても利発な子で、笑顔の絶えない美しい少女だったそうだが、火傷を負ってからは部屋にこもって人前に姿を見せるのを嫌うようになったという。
どうしても人前に出ないといけないときは、火傷の痕を髪で隠していたそうだ。
国王も何とかしてやりたいと数年かけて手を尽くしたが、どれも効果はなく、諦めかけていたらしい。
私の白ポーションの噂を耳にしたのは、そんな時だ。
私とセバスを城へ呼び、白ポーションの効果を目の当たりにした国王は、私たちが帰ってすぐに、献上した白ポーションをロザリアに試したところ、あっという間に元の美しい肌へ戻ったそうだ。
めでたしめでたし、かと思いきや、話はここで終わらなかった。
国王がロザリアの完治祝いを兼ねたお披露目会を開こうという日の前日になって、ロザリアが消えた。
当然、王宮内は大騒ぎというわけだ。
自室の大鏡には、国王が捜索隊を組むように近衛騎士に命じている様子が映し出されている。
ただ、事を大きくしたくないのか、極秘裏に動くように伝えているようだ。
まあ、いきなり王女がいなくなったなんて知れたら、国中が大騒ぎになってしまうでしょうし。
「で、首尾はどうかしら?」
「ロザリア様がいると思われる場所の目星はついております」
セバスはテーブルに地図を並べると、一点を指さした。
「さすがセバスね、仕事が早いわ」
「もったいないお言葉です」
そう言ってセバスは謙遜するけれど、王子や亜人、祠のこともそうだし、今回の王女の件だって全部セバスが調べ上げている。
私も一度会った人物なら、鏡を通して行動を把握することができるけど、全ての人間を監視するのは面倒なので、セバスがいてくれて本当に助かっている。
「助けられそうかしら?」
「恐らくは……ですが、お嬢様にもご助力いただければと」
「セバス一人だと厳しい?」
「ロザリア様の安全を第一に考えると、それが最善と考えます」
「そう」
ロザリアの部屋の扉には鍵が掛かっていて、開いていたのは窓だけ。
ただし、ロザリアの部屋は3階にある。
人が簡単に入り込める場所ではないが、その程度の高さならセバスも侵入可能だ。
セバスが助力を請うということは、それなりの実力者がいると見ていいだろう。
「いいわ。最近は白ポーションを作ったり、魔石の改造ばかりで部屋にこもりがちだったし。ちょうどいい運動になりそうね」
セバスやアンに指示を出すだけというのも悪くないけれど、たまには私自身が出るのも悪くない。
「犯人は亜人と通じている者です」
「亜人とね……。でも、なんでロザリア様を?」
「ロザリア様を人質にして、砦の放棄を要求するものかと」
「マクギリアス様から睨まれているのがよほど嫌なようね」
亜人たちが砦を押さえることができれば、人間の国に侵攻する足がかりになるはずだ。
そうなれば、勇者たちも魔王討伐どころではなくなってしまうかもしれない。
それは私の望むストーリーではないのだ。
「時間をかけるのは下策、か」
明るい日中は人目も付きやすいから犯人の動きも制限されるでしょうけど、あまり長引けばロザリアが亜人たちに引き渡されてしまう可能性がある。
「では、決行は今夜に?」
「ええ」
「承知しました。アンにもそのように伝えます」
「お願いね」
セバスは一礼し、その場を去っていった。
さあ、さくっと終わらせてしまいましょうか。
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