第16話:戦闘前時


「正確に言えば、ここの地下施設。闇市にございます」

「金はないぞ」

「闇市に金銭は必要ありません。必要なのは、ドール。そして……いや、まあ何をするかは百聞は一見にしかず」

 

 ガンッ!


 ガンッ!


 骨董屋から地下施設に向かう為、薄暗く狭い道を店主の背を追いかけるようにして進む。

 

 ある程度進むと、激しい金属音が聞こえてきた。


「“ウィナー、フレグス!”」


 男の声のアナウンスが、地下施設の闘技場のような開けた室内に響く。

「何だよ。これは……!」

「ドールの地下闘技場です」

「地上にだってそんなもんねぇよ。とにかく、メルをこんな危険なもんに出すわけにゃあいかねぇ」

 

 店主から聞いた話この地下施設は、ドールの闘技場である。

 改造されたドール同士を戦わせて、勝った方にこの世に二つと無いそれこそメカニズムハートなんかが手に入れることができる。

 そして、メルは「やる」と言った。

 俺は、少し後悔し、嬉しくもあった。

 骨董屋に入る前、メルにこの旅の目的を聞かれたとき「俺のため」と言わなければ、メルはやるとは言わなかったのではないか。そんな後悔の中、メル自身の判断であることを理解した。メルの考えが聞けて嬉しかった。


 30分後、メルが闘技場の下へ降りた。

 俺は、店主とともに円形の闘技場の観戦席に座ってメルを見ている。


「これなら、もういっそのこと金で解決の方が良かったな……」


 メルが相手するのは、メカニズムドール製造番号Hー9011グラディアス。ガタイのいい男性型のドールだ。

 俺は、メルの戦闘能力が多少なりともあることを知っている。

 と言うか、間近で見ている。だから、負けないだろうとは信じている。

 だが、やはり心配だ。

 もし負けてしまったら。

 壊れてしまったら。

 そんな不安で頭がパンクしそうだ。 

             

「そろそろ始まりますよ」

 相手のドール、グラディアスの武器はミニガン。

 それに対して、メルの武器はと言うと、前に使った鉄心から借りた剣によく似た剣だ。


「さて、どうなりますかな?」

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