nameless hero~少年権の冒険譚~

牛☆大権現

研究所、襲撃

「もし、お前の両親に会えたらどうする? 」


「俺の、本当の名前を知りたいです」


 少年は、即答した。

 名を失った彼は、真の名を取り戻すべく、果てない旅に挑む。

 是は、そのプロローグだ。


怨寺おんじ博士、"雷人らいじん"が現れました 」


ようやく来おったか! 待ちくたびれたぞ」


 とある人里離れた森の中、研究室の最奥。

 そこの主、怨寺博士は歓喜の笑みを浮かべる。


「現在、通常兵器部隊出撃。

 並びに戦力分析準備に入っております」


「よろしい、我々は奴等より弱い。

 情報を集め、対策をたてる事だけが、人間の勝機じゃ」


 モニターに、二人の少年が映る。

 少年の周りを取り囲むのは、銃器を持った屈強な兵士達。

 けれども、彼らに怯えの色は見られない。


「命令じゃ、人間社会の為に死んでくれ」


 博士は、兵士達に不可解な命令を下す。

 その命令を受けた兵士達は、二人の少年に銃弾を撃ち込む。


 だが、それらは当たらない。

 身じろぎもしていない少年二人に、数十の弾が当たらない。


「弾の軌道出ました、確認されますか? 」


「見せてくれ

……ふむ、これは想定通りじゃな」


 博士が確認した、別のモニターに映る弾丸の軌道。

 それによると、少年二人に当たる直前、不自然に軌道が曲がっていた。


「雷人どもは、常に高い磁力を周囲に発生させておる。

それ故に、弾丸は軌道を曲げるのじゃったな」


 博士が解説している間に、状況が動く。

モニターの中で、少年2人が消えた。

かと思えば、最も近くにいた兵士__と言っても、200mは距離があったが__の頭に触っている。


パリッと乾いた音と同時に、兵士2名が泡を吹いて倒れる。


「速度計測完了。

 ……秒速300m!? 」


「ほう、亜音速とはな。

 こちらの想定を優に超えておるな」


 博士は、感心したような声を漏らす。


「ある論文によれば、クラゲに電流を流すと、泳ぐ速度が3倍になったとある。

 だがわしら人間と奴等では、30倍はあるようじゃ」


 助手が、意を決して進言を行う。


「博士、研究所のデータを持ってお逃げください。

 私が博士の振りをすれば、時間稼ぎにはなるはずです」


「怖じ気付いたか、我が後継者ともあろうものが。

 本格交戦の前から、負ける事を想定してどうする? 」


 博士は、血が流れるほど、強く拳を握る。


「確かに雷人どもは、ワシらの想定を超えて強い。

 だが、その高い性能故に、傲慢に力押しを好む性質がある」


 博士は、助手の首根っこを掴み、移動を開始する。


「その慢心こそが唯一の隙、初戦で仕留めねば勝利はないと思え」


 博士が向かった先にあるのは、手術室のような場所。

 その中から、地に響く呻き声が聞こえる__(続く)

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