第190話 領地視察⑦

「あんただけやたら若いな? そのくせ作ってるもんはなかなかの出来だ。どうだ? 俺の武器を作らせてやろうか?」


 そう言ってヴェイがセラの肩に手をかけようとした瞬間。

 セラを中心に極大の魔力波が周囲に吹き荒れた。


『触らないで』

「なっ……てめぇ……」


 直撃を浴びたヴェイが思わず剣に手をかける。

 その様子を見てなお、セラはこう言い捨てた。


『武器も人を選ぶ、お前には使いこなせない』


 一瞬の沈黙。

 次の瞬間、今度はヴェイの方から魔力波が吹き乱れた。


「殺すっ!」

「待て! ヴェイ!」


 ベリウスの制止も聞かず、ついにヴェイが剣を抜いた。


 ──だが


「これ以上勝手な真似をされると、貴方を怪我なく帰すことが出来なくなります」

「なにっ⁉」


 ヴェイを止めたのはアイルだった。

 剣を振りかぶったヴェイに対し、一瞬で距離を詰めたアイルの剣の切っ先がヴェイの喉元に向けられている。


「てめぇ……」

「そこまでだ!」


 遅れて追いついてきたベリウスとガルムがヴェイを押さえつける。


「くそがっ!」


 二人がかりの拘束を無理やり振りほどくヴェイ。

 アイルは冷静に睨みつけるだけだ。


「ちっ……」


 それだけ言って剣を納めたヴェイは、大人しく引き下がっていった。


「ふぅ……」


 それを見てようやく息をついたアイルも剣を納める。

 アイルは内心驚いていた。

 自分があれほどまでに早く対応できたことに。

 そして目の前の強敵に全く臆すること無く立ち向かえたことに。


『お嬢様も盟約を結ばれているのです。自覚がなくとも自然と力は身についております』

「なるほど……」

『ですが、それをどう使いこなすかはお嬢様次第。先程の判断、動き、見事でございました』


 ロバートが耳打ちする。

 アイルが自分が思う以上に動けた背景には、ランドがベリモラスの【ネクロマンス】に成功したこともある。

 だがそれ以上に、アイルの内面の成長が大きな鍵になっていた。

 以前のアイルならば力があったとしてもあの状況で真っ先に動くことなどできなかっただろうから。


「部下がとんだご無礼を……」


 冷や汗をかいたベリウスが平謝りする。


『いえ、ですが止められて良かったですな』

「本当に……感謝しております」

『ええ、もし万が一のことがあればミッドガルド商会と戦争になるところでございました。あなた方が』

「なっ……」


 ベリウスが改めてセラのほうを見る。


「まさかあの方が……」


 冷や汗が止まらなくなったベリウス。

 ヴェイを含めもはや立ち尽くすことしかできなくなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る