第180話 神竜殺し②

「抵抗しないにしても、なぁ……」


 改めて神竜を見上げる。

 見上げてなお全貌が見えない巨体。

 そして触れずともわかる強靭な肉体。


「相手は神に連なるもの。であればこちらも、その名を冠した道具に頼るまでよ」


 ミルムがそう言って耳に手をかけた。

 そういうことか。


「確かに俺達には神器があったな」

「ええ」


 ミルムの耳飾りは黒魔術の循環を助ける、と言っていたが……原理はわからないがミルム曰く出力が二、三倍にもなるという話だった。

 そして俺は……。


「使いこなせるのか? これ」


 剣身のない柄だけの剣。

 フェイドから受け取った神剣もあるが……。


「それじゃあ届かないわね」


 物理的な距離、という意味もあるが、神竜を殺すには至らない、ということだ。

 この剣は竜を殺すことにも神を殺すことにも向いているわけではないからな。

 その点、魔法剣なら倒したい相手に合わせてこちらが剣身を用意する分、届きやすいだろう。


「やるしかないか……」

「貴方の持っている魔力と、私の魔力を合わせて剣に叩き込む。それでやりましょう」

「合わせるって……できるのか?」

「出来なければここに来た意味がなくなるだけよ」


 そう言ってミルムが魔力の循環を開始する。

 ミルムの周囲には黒い何かが浮かんでは消え、徐々にその力を高めていた。


「すごい……」

「宵闇の適性がなければ近づくだけで死ぬわね、これは」

「恐ろしいな……」


 俺も見様見真似で宵闇の魔力を循環させ、セラの作った剣に力を込めていく。


「合わせるのは私がやる。貴方はただその力を剣に込めることに集中しなさい」

「わかっ……ぐっ!?」


 ミルムが俺の持つ剣に手を合わせた途端、信じられない量の魔力が流れ込んできた。


「耐えて」

「……あぁ」


 意識を持っていかれそうなほどの魔力の奔流。

 なんとかそれを剣に流し込んでいく。


「ほう……考えたな、人間」


 神竜が感心するということは、いけるか?


「だが、それでは我は殺せぬな……」

「だめなのか……」


 一体どうすればと思っていたらミルムがこんなことを言い出す。


「後のことは、頼むわよ」

「え……?」


 重なった手から力が抜けるのを感じる。

 横にいたはずのミルムの身体が傾いていき……。


「おい! ミルム?! ……っ!?」


 ミルムを支えなければと片手を伸ばそうとした瞬間、それまでと比較にならないほどの魔力波が俺を襲う。


「くっ……これは……」


 そこでようやくミルムの意図を理解した。

 出し切ったのだ。

 ミルムが魔力切れを起こすほどに。

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