第178話 神域ダンジョン【久遠】③

「久しぶりにこんなに強くなれた実感が湧いたわ。貴方ばかり強くなるからちょうどよかったわね」

「いや……ミルムは別格だろ……」

「いつまでもそうとは限らないわよ」


そう微笑んだミルムの表情から余裕が見て取れる。

また差をつけられてしまった気もするが仕方ないだろう。というか神竜のダンジョンって三つあったよな……? 他の二つが同じルールとは思えないとなると、次は俺もこのくらいの苦労を背負う覚悟を決めないといけないのか……。

ミルムの髪飾りを見る限り一日や二日では済まない時間を過ごしたことがわかる。

なんなら年単位で動いていた可能性すらあるのだ。

今回はたまたま少し待っているだけで俺まで強くなれたわけだが、次はそうはいかないだろう。


「さて、いよいよ本番よ」

「ああ、そうだな」


目の前の扉の先に、歴史を作った神竜がいる。


「予想ではもう動けないとされているけれど、私も実際に見たわけじゃない。何が起きても良いように準備しておきましょう」

「ああ」

「ちなみに、神竜がもし当時と同じくらい力を持っていたとしたら……同じ空間にいるだけで寿命という概念のない私まで生命を削られることになる相手よ。お互いに動かず、何もしていなくてもそうなるわ」

「そんなに……?」

「ええ。生き物としての格が違いすぎる。流石にそこまでの力は残っていないにしても、あからさまに敵対するようなら勝つことは諦めてすぐ逃げるわ」

「そりゃそうだな」


実在していたことすら驚愕に値する生きる伝説なのだ。

立ち向かおうとは思わない。

そしてこのダンジョンの性質を考えるなら、そうなったときは俺が殿だな。


「もしものときは時間を稼ぐから、頼むぞ」

「ええ。すぐ呼び戻してあげるわ」


俺はこの空間を出て引き返そうとすれば寿命を吸い取られるように一瞬で死ぬだろう。

来た道を戻れるのはミルムたちだけだ。

だが逆にダンジョンに戻りさえすれば俺の体感時間としては一瞬で呼び出してもらえるだろう。ほんの数秒耐えることができれば勝ちだ。


「まあそうならないことを祈りましょう」

「そうなったらなんでここまで来たのかもわからなくなるしな……」


ミルムたちが強くなるためだけに来たということになってしまうからな……。

そんなことを言い合いながら扉に手をかける。


「行くぞ」

「ええ」


扉の向こうは元いた白い空間と同じような場所だったが、正面の景色は全く見えない。

巨大な竜が視界を遮るようにしてそびえ立っているからだ。

その大きさゆえに、一目に視界に全貌を捉えきることすら出来ないほどだった。

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