第166話 王都ギルド③

「これ、ここに来る前に拾ってきたやつじゃなくて?」

「ああ。そういえばそうだ」


 依頼書に書いてある内容はファイアリザ―ド十五体の納品。

 王都に来るまでの道中で街道に出そうなファイアリザードの群れを見つけたから討伐したんだ。商隊なんかとぶつかると危ないからな。


「なに? だが数をよく見ろ。こんな数とてもではないが対応できるはずが……」

「ほら、これでいいか?」

「なっ……」


 カウンターにファイアリザードを積み上げていく。


「数は多いほうが良いように見えるけど、何体までいいんだ?」

「えっ、えっと……五十までは買い取ると……」

「じゃあ全部出すか」


 ちょうど五十近くになっていたはずだ。

 焦りの表情を浮かべるギルドマスターは無視してどんどんカウンターに積み上げていった。


「す、すぐに鑑定士を呼べ! 偽物ならただではおかんぞ」


 その様子を見ていたミルムが口撃を開始する。


「あら、ギルドマスターがこの程度のありふれた魔物の鑑定すらできないのね、王都って」

「ぐっ……貴様ぁ……」

「レベルの低い依頼しかないようだし、マスターもレベルが低いし、建ってる場所だけね、いいところは」


 何も言えず歯噛みするギルドマスター。


「時間がかかるようならこれは持ち帰るわ。良いわよね?」

「まあ良いけど」


 そう言って宵闇の棺にファイアリザードをしまおうとするミルム。

 それを見て慌てたのはギルドマスターだった。


「ま、待て。これはある貴族の方がコレクションのために依頼したものだぞ。状態も良いそれを持ち帰られては……」

「別に私はどちらでも良いのだけど?」

「ぐっ……」

「引き上げましょうか」

「待て……わかった。私が……悪かった」

「そう。なら早く持っていきなさい」

「ふん……」


 心底悔しそうな表情を浮かべながらギルドマスターが引き上げていった。

 何しに来たんだろうな……。


「えっと……少々お待ち下さい! すぐに準備いたします……それから、できれば他の依頼についてもお手伝いいただけないかと……」

「良いわよ。いくつか片付けてあげるから出しなさい」

「ありがとうございます!」


 どうやら俺たちのことをよく思わないのはギルドマスターの個人的な事情だけのようだ。

 受付嬢やスタッフがバタバタと納品手続きや他の依頼の準備に走り回り始めていた。


 結局王都ギルドがしばらく抱えていたという納品依頼をいくつか俺とミルムの手持ちで片付け、ギルドマスター以外の王都ギルドメンバーから大いに感謝されてギルドを後にすることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る