第158話 王都の情勢
「いやあ、悪かったねえ。呼び立ててしまって」
「いや……それは良いんだけど……」
「まあ私が呼び出したということがそのまま、どういう事態を招いているかを示してしまうねえ……」
セシルム辺境伯が苦笑いしながら話を続ける。
王都の一角、貴族たちの屋敷が立ち並ぶ地域にセシルム卿も屋敷を持っていたようだ。
ここなら内密な話ができる。顔つきの変わったセシルム卿を見て俺も姿勢を正した。
「今回の件、魔術協会は思った以上にうまくやっているようだよ」
「というと?」
「ことはすでに国の中枢部にまで広まっていてねえ。流石に私ではすぐには動かせる状況じゃないのだよ」
「国の中枢部……?」
「魔術協会と最も繋がりが深いのは、軍部でね……」
セシルム卿が力なくそう言う。
軍部……。王都騎士団のその上というわけか。
そしてこの国においては法の下に取り締まる役割も、騎士団や軍部の管轄だ。
つまり……。
「ミレオロに付いていった例の二人は、まんまと逃げ切ったというわけね」
「このままだと、そうなってしまうねえ……」
クエラとメイル。
本来であれば王都騎士団は冒険者ギルドと並んで中心となって捜索に当たらなければならない立場のはずが、軍部の意向により身動きが取れなくなったと。
「ということはギルドに……いや待てよ?」
「気付いてしまったね……冒険者ギルド、とりわけ王都のギルドに関しては……」
「一番軍部とずぶずぶだった……」
頭を抱える。
なるほど。道理でセシルム卿が俺たちを呼び出すわけだ……。状況が思っている以上にひどかった。
「で、私たちを呼んでどうするつもりなのかしら?」
「ああ。簡潔に言えば……もはや力押しでいくしかないからねえ。魔術協会につくのが良いと考えるか、それとも君たちにつくのが良いと考えるかだ」
「それ……勝ち目あるのか?」
魔術協会はそれこそ国の中枢部に直接影響を与えるほどの大組織だ。
一方こちらは……。
「なに。馬鹿にしたもんじゃないだろう。君は立派な領主だし、後ろ盾は辺境伯である私だ。そして君の背後にはあのミッドガルド商会が控える。更に管轄地域における冒険者ギルドの覚えもめでたいSランクパーティー。申し分ない条件だと思わないかね?」
こう並べ立てるとたしかにとんでもないメンバーに囲まれた感はある。
「そして何よりも、君たち自身の価値だ」
「俺たち自身……?」
「なるほど……ミレオロにつくよりも私たちに付いたほうが良いことを、この王都で知らしめるというわけ」
「そういうことさ」
セシルム卿の顔はすっかり悪巧みをする子どものようになっていた。
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