第91話

「あなた、思っているよりこの貴族に評価されたようよ」

「どういう……ああ……」


 そこでようやく気づく。


 今回の話し合いの目的はセシルム辺境伯が俺たちとつながりを持つためだったということだ。

 思えば爵位も……娘もそうか。流石にこちらはどこまで本気かわからないまでも、屋敷よりも直接的かつ大々的に繋がりをアピールするものということになるからな。


「そういうことだ。これからもよろしく頼むよ。ランドくん、ミルムくん」


 ニヤリと笑って握手を求めてくるセシルム卿。

 してやられたと言えばそうだがまあ、俺としても国の五大貴族といっていい辺境伯家とのつながりがもてたのは悪い話ではない。

 そういえばフェイドたちも何人か繋がりを作っていたよなぁ、貴族と。流石に辺境伯ほどの大物を相手にしているのは見たことはなかったが。


「ああ、よろしく」


 差し出された手を受け入れた。


「ところで」

「ん?」


 握手をしながらセシルム卿が声をかけてくる。

 その表情はどこかこれまでのものと違って、親しみを込めたものになっていた。


「ここからは一人の男としての興味だ。君たちの強さを見せてほしいんだが、どうかな?」

「強さ……?」


 どういう意味だ?

 戸惑っているとセシルム卿がこう続けた。


「まあまずは一人、紹介させてもらえるかな?」


 返事を待たず扉に向けて声をかけるセシルム卿。


「入っておいで」

「はっ! 失礼いたします!」


 女性の声だ。

 ほどなくして声の主が部屋にはいってきた。


「セシルム家第二騎士団、アイル。ただいま参上しました」

「うむ。紹介しよう。我が騎士団の誇る精鋭の一人、アイルだ」


 強い……。セシルム卿の言葉通り、相当な実力者のようだった。

 全身鎧ではあるが容姿はかなり整っていることがうかがえる。兜からきれいな金髪と金の瞳が見え隠れしていた。

 何故かこちらを睨みつけられたけど……。


「アイル。こちらが話していたランドくんとミルムくんだ」


 ビシッとしたお辞儀をしてそれっきり動かなくなる。


「君たちにぜひ、我が騎士団員への稽古を頼みたいのだが、どうかな? 報酬はそうだな……秘蔵のワインと、ミルムくんが気に入ったと思われるお菓子で」


 悪戯げに笑うセシルム卿。

 最後の一言でミルムはすっかりやる気だ。もう目が金色に輝いているくらいには……。


 このわずかな時間で俺たちを誘導するためにはミルムが肝であること、そして何を提供すれば自分の要望が通るかをしっかり把握してくるところが流石と思わせる。

 セシルム卿本人はいたずらをした子供のような憎めない笑みで笑っていた。

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