第62話元パーティー視点
「くそっ!? なんだってんだ!? おい! おい!? お前が言ったからこんな……」
「ぐ……が……」
「フェイドさん! 動かさないで! ヒール! ……ヒールっ!」
「が……ぁ……」
竜の墓場のほど近くに位置する森の中に、四人の冒険者がいた。
正確にはもう、三人と、一つの遺体という姿だった。
遺体が動いているように見えるのは、その地に溜まっていた桁違いの瘴気が、その者を生前と別の生物へと変化させているからだ。
「もう……だめ……」
「でも! くっ……ヒール!」
「がぐぁ……」
だが聖女のクエラは諦められない。
もう二度と、目の前で仲間を失いたくはない。あのとき、どれだけ後悔したかわからない。あのとき、本当は自分にもできることがあったのではないかといまだに頭をよぎる。
だってあのとき見捨てた仲間は、あの状況から這い上がってきたのだから……。自分にもなにかできるんじゃないかと、そう責め立てる声が頭から離れないのだ。
「くそっ!」
ガンっと近くの岩を殴りつけるフェイド。
この手しかないと、そう思っていた。だからこそ、他の可能性を無視してこの手に賭けた。
いや、賭けだということすら、認識できたのは今になってのことだった。
それまではこの作戦は完璧なもので、失敗の可能性など考える必要のないものととらえていたのだ。
蓋を開けてみればもはや、最悪を超える展開が待ち受けていた。
「なんでランドが……」
認めたくはない。
認めたくはないが、自分たちが目覚めさせたドラゴンゾンビを目にした瞬間、それだけで死を悟った。
全身が恐怖に震えた。
そして、その圧倒的なプレッシャーを前に、尻餅をついて逃げ惑うことしかできなかったのが、このパーティーの現状だった。
だというのに、だ。
「なんでランドは、あんな化け物に……」
逃げ出した自分と、立ち向かったランド。
実力の問題ではなかった。
その精神性において、自分は負けたのだと、大きな、大きすぎる差を突きつけられていた。
「どうするの……フェイド」
メイルが尋ねる。
ロイグがあの攻撃の直撃を受けてから、一応ランドたちには見つからないように魔法を発動していた。
おかげでこちらを見られることはなかったものの、ランドがあの装置を持ち帰っている
もう言い逃れはできない状況に追い込まれていることを十分に自覚していた。
「どうするもこうするもねえだろ!? 手土産にするはずだったドラゴンゾンビはもういない! いや! あんなもん、もしランドが死んでたって、俺たちが勝てるわけ……」
「フェイドさん……」
口に出してしまった。
その瞬間、フェイドの中の何かが決壊した。
「ランドになんて……勝とうとしたのが全部……」
「フェイドさん……?」
「お前らも気付いてたんだろうっ!? ランドが実は強いことを! 俺が卑怯な手を使って! あいつが活躍できないように……それでっ!」
「フェイドさん! 落ち着いてください!」
「ずっとそうだ! 馬鹿にしてたんだろう!嘲笑ってたんじゃないのか!?」
フェイドの暴走は止まらない。
「くそっ! 何もかも……何もかも終わりだ!」
「フェイドさん!?」
フェイドは剣を抜いて、ロイグの亡骸を見下ろす。
「お前が余計なことをしなければ!」
「ダメです!」
「うるさい!」
──ザシュ
「そんな……」
フェイドの剣は、ロイグの首をスパンと刎ねていた。
「フェイド……」
メイルが呟く。
もはや、パーティーは取り返しのつかないところに来ていた。
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