第46話

 ──ゴゴゴゴ


「来たか……!」


 観察していた竜の骸に動きがあった。

 いや正確には竜の墓場全体に関わる大きな変化をもたらしている。

 周囲の森を巻き込んで辺り一帯の大地を揺らしていた。


「よしっ! やるわよ」


 ミルムが立ち上がってドラゴンの骸を睨みつけたあと、すぐに振り返ってこちらへ呼びかけてくる。


「ちゃんと覚えた?」


 ミルムがいうのはスキル【黒の霧】と【夜の王】。特に【黒の霧】についての使用方法だ。


 ユニークスキルだけあり扱いが難しい。

 一つのスキルでできることが多いため感覚で使いこなせないのだ。一つ一つ教えてもらえてよかったと思う。


「なんとか霧化は覚えたかな」

「上出来ね」


 今回の攻防の優先順位は死なないことと、ドラゴンゾンビを街へ到達させないこと。

 それに合わせてユニークスキルの使い方のレクチャーを受けていた。


 中でも最も使い勝手が良い防御スキルとして、【黒の霧】を利用した【霧化】を取得できたのが大きな収穫だろう。

 自身の身体を文字通り霧のように霧散させ、一定時間物理攻撃を無効化するというこの間までの俺から考えればチートもいいところなスキルだった。


 これで能力の一部でしかないんだから……恐ろしいな、ユニークスキル。


「三十分。なるべく気を引いて、死なない立ち回りをすること」

「わかった……!」


 身を引き締める。

 ドラゴンゾンビ、それも過去類を見ない最大級の相手。対してこちらは二人だけなわけだ。

 正面から倒す必要はないとはいえ、街に進んでしまえばそれは事実上負けを意味する。

 三十分という時間は、これから生まれる化け物にとっては街一つを滅ぼすのに十分過ぎる時間だ。


「来るわ!」


 ミルムが叫んですぐ変化は起きた。

 竜の骸が紫の光に包まれ、巨大な魔力が辺りに渦巻き始める。

 そして──


「グルァアアアアアアアアアアアアアアアア」


 ビリビリと周囲の景色ごと震わす咆哮が竜の墓場に轟いた。


「くっ……」


 咆哮だけで周囲の木々を地面ごと揺らすほどの強大な存在。

 咆哮で震えていたはずの身体だが、その震えは咆哮がおさまってからも止まることがない。


「これが……ドラゴンゾンビ……!」


 ミルムの見立て通り、自身の残った骨を依代とした見るからに凶悪な見た目をしたモンスターが姿を現していた。

 もちろん骨はパーツごとにすべて揃っているわけではない。その足りない部分を魔力と瘴気によって無理やり補った結果、灰色や濁った紫のただれた肉体がむき出しの骨と絡み合い、異形の魔物を生み出していた。


「くっ……!」


 見た目の恐ろしさも相まってか、身体が言うことを聞かなくなっていた。

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