第24話

「へぇ……私の眠りを妨げた上に、あろうことか使い魔まで勝手に消した馬鹿の顔を見にこようと思ったのだけど、アンタね……?」

「なっ!?」


 声はなぜか真後ろから聞こえていた。

 慌てて振り返る俺を嘲笑うように離れていく。


「あはは。いい反応。とりあえず使い魔一匹分は、これでチャラでいいわ」

「は……ぐっ……?!」


 痛みは薄い。


「そうか、これが痛覚耐性ってやつ……か……」


 あって良かった。

 なんせ右腕が肩からごっそり持っていかれているのだから……。


『キュウオオオオオオオオオオン』

「あら、遊びたいのかしら?」


 飛び込んでいったレイ。

 ミノタウロス五体を完封したほどの速度だというのに、あろうことかレイの頭をひと撫でして……。


「おすわり」

『キュウォガアアアアアア」


 地面に思い切り平伏せさせられていた。


『グモォオオオオオオオオオ』

「今日はモテモテね」


 続けて追いかけたエースに対処する動きは、極々最小限のものでしかなかった。


「はい。寝てて?」


 選んだ攻撃はデコピン。


『グモォガァアアアアア』


 ただそれだけでエースは吹き飛ばされていた。


「強すぎる……」

「ありがとう」

「っ!? ぐはっ……!」


 気づけば俺も吹き飛ばされていた。

 距離が離れてようやく声の主の姿が見えた。


 まず目立つのは白髪、金の瞳、そして背中に生えた黒い羽根。

 黒と赤を基調とした服装、周囲を飛ぶコウモリ、尖った牙のような歯。


「ヴァンパイア……」


 漂うオーラからしてもう、圧倒的すぎる。

 レイとエースもすぐに動けそうにないことは分かっていた。


「さて、遊びは終わりにしましょうか」

「なっ!?」


 周囲に風が舞い上がり空気が震えるほどの圧力を放つヴァンパイア。

 その台詞からこれまでが本気でなかったことはわかるんだが、それにしてもまるでこれまでと違う。


 食らえば死ぬ。

 なら、賭けるしかない。


「白炎!」


 手をかざし唱えると、瞬く間にヴァンパイアは白い炎に包まれていく。

 それどころか周囲一帯が激しい光と熱に包まれ、あたり一面を一瞬にして火の海に包み込んでいた。


「すごい威力だな……」

「へえ……懐かしいわね」


 だが、炎の中に見える影はまるでダメージを負った様子がなかった。


「俺が保つかわからないけど……やるしかないか」


 もう一つのエクストラスキル【雷光】。

 こちらも効果はわからないが賢者の魔法だ、きっと威力は桁違いだろう。


「終わりかしら?」

「安心してくれ。まだあるぞ!」


 手をかざす。


「雷光!」


 唱えた途端、空にどす黒い雲が巻き起こる。

 周囲の天候すら変える極大の魔法……。賢者の名に恥じない凄まじい魔法だ。



 ──ドゴォォオン



 空から落ちた雷は、まるで質量を持つかのような激しい音とともにヴァンパイアに降り注いだ。

 周囲の白い炎を巻き込み、大きな爆発を起こした。

 余波だけで俺は吹き飛ばされていた。

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