第202話 立食会の参加者達

 シェリルは再び立食会に参加していた。

 イナベが失脚を免れて野心をたぎらせた日から数日後に開催されたものだ。

 今回もヴィオラと一緒だが、その同伴者としてではなく、イナベからの個別の招待客としての扱いを受けていた。


 イナベがシェリルとヴィオラに向けて上機嫌に、そしてどこか意味深に笑っている。


「いや、またこの場で出会えて何よりだ。

 先日は世話に成った。

 実に助かった」


 シェリルも愛想良くどこか意味深に微笑ほほえむ。


「よく分かりませんが、私達の助力でイナベ様のお役に立てたのでしたら何よりです」


 ヴィオラも不敵に笑う。


「特に何かした覚えはないのだけれど、そこまで言ってもらえるのなら、見返りを期待したいところね」


勿論もちろんだ。

 手筈てはずは整えてある。

 その内容については後で話そう」


 シェリルはイナベが裏取引でアキラから旧世界製の情報端末を多数手に入れたことを知っていた。

 その仲介に関わったからだ。

 イナベはその裏取引で態々わざわざシェリルを通してヴィオラに依頼を出していた。

 イナベがシェリルに、シェリルがヴィオラに、ヴィオラがアキラに、そしてアキラがイナベに。

 仲介に仲介を重ねて成立した取り引きだと知っていた。

 イナベの話は基本的にその件の礼だと考えていた。


(……それだけの単純な話ではなさそうだけど、好意的な誤解なら解く必要はないわ。

 このままの態度でいきましょう)


 ヴィオラはイナベとの裏取引を進める一方で、ウダジマにも適度に情報を流していた。

 2人が対立していることを知っており、その勝者に自分の情報のおかげだと売り込む予定だった。

 ウダジマがイナベの隠蔽を見破れたのもヴィオラが流した情報が鍵となっていた。


 無能と取り引きをしても仕方がない。

 この程度で失脚する地位だけの無能ならば、別の取引先を確保する餌となってもらう。

 ヴィオラはそう考えており、ウダジマが統企連総合遺物鑑定局まで持ち出して賭けに出た時点で、イナベの失脚を予想していた。

 だがその予想はヴィオラの知らない要因で覆された。


(……スラム街での抗争の時もそうだったけど、私の計画にアキラを絡めると結果が狂うのはどうしてなのかしらね。

 まあ、イナベはそれも含めて私の仕業だと思っているようだから、ここはそれらしい態度を取っておきましょう。

 手筈てはずとやらも、あの態度を見る限り、ウダジマにも情報を流した報復ではなさそうだから大丈夫でしょう)


 イナベはあの失脚騒ぎを保険が効いた結果だと考えていた。


 イナベが担当区画の価値を引き上げるために外部から遺物を持ち込んだのは事実なのだ。

 その情報をつかまれた時点で、ウダジマが統企連総合遺物鑑定局など持ち出さずに別の経路から証拠を出して論理的に追及していれば、イナベが失脚していた可能性は十分にあった。


 だが結果として失脚したのはウダジマだった。

 しかも自滅という形でだ。

 その後イナベの勢力は対抗馬の失脚により勢いを増していた。


 ヴィオラがシェリルの顔を立てて自分に有益な方向に情報を操作した可能性は否定できない。

 イナベはそう考えていた。

 それは同時に、シェリルがその気になればイナベをいつでも失脚させられる可能性も示唆していた。

 ウダジマの失脚は自分への賄賂であると同時に警告だったのかもしれない。

 イナベはそこまで深読みしていた。


(……シェリルはアキラとヴィオラの両方を手懐てなずけている。

 シェリル達がスラム街で勢力を伸ばした原動力もそこにある。

 そういう情報も入ってきている。

 そもそも今まで一連の件を主導していたのはヴィオラだと思っていたが、シェリルが主導している可能性もあるのだ。

 シェリルの遺物売却店も順調で、卸した遺物の代金は俺の裏金や機密費の調達にも役立っている。

 手懐てなずけておいて損はない。

 ……同じぐらい警戒も必要だがな)


 シェリル達は短い会話の中で互いに探り合い誤解を深め合っていた。

 互いに愛想良く笑い、裏を探り合う。

 それはある意味で、立食会参加者としての正しい行動だった。


 そこにカツヤが少し早足でやって来る。


「シェリル!」


「カツヤ。

 またお目にかかりましたね。

 えっと……」


 シェリルは一度うれしそうに微笑ほほえんだ後で、少し困り顔を浮かべた。

 シェリルを見掛けたのでまずはうれしそうにここまでやってきたカツヤが、そのシェリルの態度を不思議に思った後、ようやくイナベの存在に気付いて少し顔を不満そうにしかめた。


 少し遅れてミズハ、ユミナ、アイリもやって来る。

 そして場の空気から異なる反応を見せた。

 ミズハはカツヤがイナベに失礼な態度を取っていないかと焦りだし、ユミナはまたかと軽くめ息を吐き、アイリはシェリルに僅かな警戒を向けた。


 イナベが僅かに思案する。

 そしてカツヤに和やかな笑みを向けた。


「やあ。

 また会ったな。

 先日は申し訳なかった」


 カツヤがイナベの予想外の態度に少したじろぎながらいぶかしむ。


「……この前と随分態度が違うじゃないか。

 あ、俺達がこの前に遺物を持ち帰ったからか?

 旧世界製の情報端末だっけ?

 あれ、すごく価値があるんだろう?」


 カツヤの少し勝ち誇ったような態度を見ても、イナベは余裕を崩さず受け流すように笑っていた。


「確かに君の活躍を知って君への評価を改めたことは認めよう。

 だがその程度で一介のハンターという評価を取り消すつもりはないな」


 カツヤの態度が再び不満げなものに変わる。

 だが続く言葉を聞いて慌て出す。


「しかしだ。

 シェリルと親密な仲となれば話は別だ。

 私もシェリルの機嫌を損ねたくはない。

 前に会った時はただのナンパだと思っていたのでね。

 その点は申し訳なかったが、君のそちらの評判も、随分モテるだの手が早いだの、その手の話も聞いていたのだ。

 そこは君からもちゃんと説明してもらえないと困る。

 違うかな?」


「え、あ、その、親密ってほどじゃ……」


 満更でもない様子のカツヤに、イナベがとぼけたように続ける。


「そうなのか?

 前回の様子とシェリルの話からそう判断したのだがね。

 付き合いは長いのかね?」


「な、長いっていうか、数回会っただけで、今回を含めて、……4回目?」


 その少ない回数にイナベが意外そうな表情を浮かべる。

 自分で口にしたカツヤ自身も驚いていた。


「……まあ、付き合いの長さと親密さは必ずしも比例する訳ではないがね」


「そ、そうだよな!」


 カツヤは深くうなずいていた。


 イナベは今後の自分の計画にカツヤを巻き込むために、シェリルを少々持ち上げながらカツヤを少しおだてて好印象を稼ぐだけのつもりだった。

 だが少し予想外のことに内心でいぶかしんでいた。


(……つまり前回は3回目?

 本当に数回会っただけの仲だったのか?

 たったそれだけの相手にあの態度だったのか?

 こいつがれっぽいだけか、あるいはシェリルの手腕がそれほど悪辣なのか、分からんな)


 イナベが場の全員を軽く見渡してから、気を切り替えるように告げる。


「まあなんだ、次世代を担う若人の親睦を邪魔するのも悪い。

 ここは席を外すべきかな?」


 無意識にうなずくカツヤの横で、ミズハが少し慌てて口を挟む。


「いえ、世代間の交流も大切です。

 それに後から押し掛けたのは私どもですからお気遣いなく。

 是非我々とも交流を御願い致します」


「そうか。

 では、お言葉に甘えるとしよう」


 ミズハが微笑ほほえみながら小さく安堵あんどの息を吐いた。

 カツヤに悪印象を抱いていないのならば、都市の幹部と親しげに話す姿を周囲に知らしめる機会はとても大切だ。

 ヴィオラという人物がそばにいるのが懸念事項ではあったが、ミズハは取りあえず満足した。

 その横でカツヤが少し不満そうにしていた。




 談笑が続いてしばらくすると、話題の方向性もあって自然に大人と若手に分かれて話すようになった。

 大人達が今後の遺跡攻略の展望などを話す横で、若手達は身近なハンター稼業の話題に花を咲かせていた。


 カツヤが自分達の活躍を楽しげに語り、シェリルがそれを微笑ほほえみながら興味深そうに聞いている。

 ユミナは時折会話に混ざりながら、その2人の様子に複雑なおもいを抱いていた。


 スラム街の抗争騒ぎの時からずっと落ち込んでいたカツヤが以前のような意気を取り戻したことは、ユミナも本当にとてもうれしく思っている。

 心配掛けて悪かったと頭を下げられて、仲間なのだからと皆で笑い合い、輝くような笑顔を見てれ直したと思っている。

 だがその後に詳しい話を尋ねて、立食会で偶然出会ったシェリルに悩みを聞いてもらったら解決したと聞かされた時には、嫉妬と無力感が混ざった良くない感情が湧き上がるのをどうしても止められなかった。


 なぜ自分には悩みを打ち明けてくれなかったのか。

 そばで支えるだけでは足りないのか。

 自身でも良くない思考だと思いながら、ユミナは勝手に浮かび上がる問いに対して自身へ叱咤しったして、傷付けられていた。


 ユミナが自分とシェリルを見比べる。

 ユミナも立食会参加者として見苦しくないように、ドランカムからの出席者として問題ないように、結構高い服で麗しく着飾っている。

 だがこの手の服を着慣れておらず、着こなすより着られている印象の方を強めに感じてしまう。


 対してシェリルは単純に着飾る目的ではなく交渉を優位に進める目的でデザインされたシェリル用の仕立て服を着ている。

 更にシェリル自身がいろいろと装う技術にけていることもあり、見れるような優美を醸し出していた。


 ユミナ達の様子は若手特有の初々しい姿であり、評価を損ねるものではない。

 だがその場にいる一段上の雰囲気を纏う者と見比べると、見劣りしてしまうのは確かだった。


 ユミナは無鉄砲なところがあるカツヤを支えると誓ってそばに居続けている。

 だがカツヤは有能なハンターとして成果を積み重ね続け、その立ち位置を上げ続けている。

 既に同じハンターとしての立場では、ユミナの実力ではカツヤのそばにいるのは難しくなっていた。

 ユミナがこの立食会に参加できているのも、ハンターとしての実力を認められたからではない。

 カツヤの我が儘をミズハがかなえた結果だった。


 ユミナが湧いた感情に押し流されてシェリルに尋ねる。


「そういえば、シェリルはどんな経緯で立食会に参加しているの?

 私はドランカムの伝っていうか、カツヤのおまけなんだけどね」


 偶然話を聞いていたイナベが口を挟む。


「ああ、シェリルなら私が招待した。

 そういう意味では、私の伝かな?」


「はい。

 分不相応ですが、イナベ様の御厚意に甘えさせていただいております」


 カツヤ達が驚く。

 立食会に参加する際の勉強の一環として、参加経路による立場の重要性を教えられており、都市幹部からの招待はなかなかに上位の立場だと知っていたのだ。


 イナベがシェリルへの世辞とカツヤの取り込みを兼ねて続ける。


「シェリルもいずれは招待されるがわからするがわに回るかもしれない。

 だがハンターではされるがわのままだ。

 するがわには回れない。

 君を一介のハンターと称したのはそういう意味だ。

 別に君の実力を軽んじた訳ではないよ。

 単に遺跡から遺物を探し出して売るだけの一介のハンターではなく、その先にまで積極的に関わるハンターに成りたいと思った時は、私に声を掛けるといい」


 ミズハが笑いながら冗談をたしなめるように微笑ほほえむ。


「イナベ様。

 ドランカムが自信を持って勧める有能なハンターを高く評価して頂けるのは有り難く思いますが、引き抜きまでされては困りますわ」


「ああ。

 申し訳ない。

 都市の方でも有能な人材は足りていないのでね。

 つい、というものだ。

 まあ、有能な人材を企業間で取り合い引き抜き合うのは珍しくない。

 引き抜かれたくないのなら、それなりの待遇を用意してやることだな」


勿論もちろんですとも」


 カツヤもシェリルも活躍の場は違えど成り上がっている。

 その成果に相応ふさわしい者に、その立場に相応ふさわしい者が現れたのだろうか。

 自分では勝てないのだろうか。

 和やかな雰囲気で歓談が続いていく中、ユミナは愛想良く微笑ほほえみながら、その裏でかないそうにないおもいを巡らして少し気落ちしていた。




 しばらく懇談が進んだ後、ミズハはそろそろ切り上げ時だと判断した。

 ミズハ達が立食会に参加した理由はドランカムの顔つなぎのためでもあるので、他の参加者の分の時間を残すためにも、この場は適度な時間で切り上げなければならないのだ。


 カツヤがミズハからその旨を伝えられて残念そうな名残惜しそうな様子を見せる。

 そしてあることを思い出すと、懐からアクセサリーを取り出して、少し照れながらシェリルに渡そうとする。


「あ、忘れてた。

 これ、遺跡探索で見付けたやつなんだけど、お土産っていうか、前に話を聞いてもらったお礼ってことで、良かったら受け取ってくれ」


 女性向けのアクセサリーは、旧世界製の高度な技術により年月を感じさせない輝きを見せている。

 似たようなデザインの物は現在の技術でも作成可能で、単純なアクセサリーとしては珍しい物でもない。

 だが一応旧世界の遺物だ。

 そこを加味すればそれなりに高価な代物だ。


 シェリルはそのアクセサリーをじっと見た後、首を横に振った。


「お気持ちだけ頂いておきます」


 断られるとは思っていなかったカツヤが僅かに動揺する。


「……あ、えっと、気に入らなかった?」


 シェリルはもう一度首を横に振った後、微笑ほほえみながらも少し真面目な態度を見せた。


「今から物すご自惚うぬぼれたことを言いますので、鼻で笑ってください。

 私がそれを喜んで受け取ってしまうと、カツヤは次にもっと良い物を持ってこようと頑張ってしまうと思います。

 それはただでさえ危険な遺跡で、不要な危険を進んで冒しているとも言えます。

 ですので、受け取れません」


 シェリルが真面目な態度を弱め、代わりに優しく楽しげな態度を強くして、気遣うように続ける。


「その頑張りは無事に戻ってくる努力に振り分けてください。

 無事に戻ってきて、無事な姿を見せてください。

 そしていろいろお話を聞かせてください。

 私にとってはそれが一番のお土産です」


 身近な女性は自分のプレゼントを快く受け取ってくれる者ばかりなこともあって、カツヤはシェリルの対応に少し衝撃を覚えていた。

 その印象深い様子に答えるようにしっかりと力強く笑う。


「分かった。

 次もそっちの土産を持ってくるよ」


「はい。

 期待しています」


 カツヤ達はそれを別れの挨拶として離れていった。

 だがミズハだけはカツヤ達を先に行かせて残ると、シェリルに少し言いにくそうに尋ねる。


「シェリルさん……でしたね?

 その、ヴィオラとはどういう関係で?

 その、私もヴィオラと少々個人的な付き合いがあるのですが、貴方あなたのことはこの場で初めて聞きましたので……」


「ビジネス上の付き合い。

 それだけです」


 シェリルが端的に答えると、ヴィオラが絡んでくる。


「あら、それだけ?

 もうちょっと何かあっても良いんじゃない?」


 シェリルが微笑ほほえみながらヴィオラへの視線を冷たくする。


「用済みになるまでは生かしておこうと思っています。

 これで満足?」


「あら怖い。

 用済みにならないように精々頑張らせていただきますわ。

 ボス」


 ミズハがシェリルの態度にもヴィオラの言葉にも怪訝けげんな様子を見せる。


「ボス?」


「ええ。

 私は今シェリルのところで働いているの。

 シェリルは私の直属の上司ってところね」


 ミズハは微笑ほほえみ笑い合って対峙たいじしているシェリルとヴィオラの様子を見て少し引きっていた。


「……そ、そう。

 では、私も失礼します」


 ミズハがイナベ達に軽く頭を下げて去っていく。

 シェリルという有能だが有益か有害か判断の付かない者を、これ以上カツヤに関わらせないべきか、それとも積極的に関わらせるべきか。

 ミズハの頭はその悩みで一杯になっていた。


 去っていくミズハに、イナベが気持ちは分かると言わんばかりの視線を向けている。


「しかし何だね、別にあれは受け取っても良かったのではないか?

 確かにえて受け取らないことで相手の印象には残っただろうが、やはりああいう贈り物は多少大袈裟おおげさにでも喜んで受け取った方が心証を稼げると思うのだがね」


「あれは好感度稼ぎが目的ではなく、あの手の物を受け取らない口実です」


「なぜだ?

 もらって困る物でもないと思うが」


「自分が贈った装飾品を相手が身に着けていないと機嫌を損ねる者もいます。

 その装飾品が高価で苦労して手に入れた物ならば特に。

 紛失等を口実に売却しても同じです。

 結果として私の身を私の都合で手放せない装飾品でごてごてと飾り付ける羽目になります。

 それを回避するための口実ですよ」


 イナベが苦笑する。


「なるほど。

 うそも方便か」


 シェリルの微笑ほほえみに妖艶なものが混ざる。


うそいていませんよ。

 あの程度の遺物より、彼が持ち帰る情報の方が価値があり、私にとっても喜ばしい。

 事実です。

 彼との話で、あの旧世界製情報端末の発見者が彼になったという裏も取れましたしね。

 良かったのですか?」


 自身の工作の不手際を指摘されたと思ったイナベが苦笑を深める。


「手厳しいな。

 私もまさかヤナギサワの管理下にあるハンターが見付けた遺物にまでケチを付ける者がいるとは思わなかったのだ。

 私の不手際であり、想定が甘いと言われればそれまでだが、まあ、結果的には上出来に終わったのだ。

 問題ない。

 そうだろう?」


 その不手際がヴィオラ達、あるいはシェリル側の工作であったとしても、文句はない。

 いろいろ勘違いと深読みをしたイナベは笑って暗にそう示した。

 シェリルが微笑ほほえんで同意を示す。


「そうですね。

 問題ありません」


 イナベが裏取引で高額で購入した遺物を、自分の都合とはいえ他のハンターの功績にしてしまって良かったのか。

 シェリルはその程度の認識で尋ねただけだった。

 イナベの返答から知らなかった追加の情報を得て、いろいろ深読みされたことも分かったが、そこはしらばっくれた。


 ヴィオラはシェリルとイナベの両方の思考を何となく理解しており、少し笑いを堪えていた。


 イナベがあの裏取引から思い出したことをシェリルに尋ねる。


「そういえば、あの取り引きの場に来たハンター、アキラ、だったか。

 そっちの後ろ盾もやっているそうだな。

 あのとしであれだけの実力者という点では、カツヤと同じだな。

 どういう関係なんだ?」


「恋人です」


「……そうか」


 シェリルは普通に答えたつもりだった。

 だがイナベも都市の重役として交渉事の経験は多い。

 シェリルから僅かに出ていた態度を見逃さなかった。


 一応うそは言っていないという欺瞞ぎまん

 そうであってほしいという願望。

 それに気付いたイナベが内心で意外に思う。


(……数回会っただけのカツヤがああなのだ。

 アキラの方はさぞ……と、思ったが、籠絡は難航中か?

 シェリルに頼めばアキラを動かすのは容易たやすいと思っていたが、修正が必要そうだな)


 参加者が裏で様々な絵図を描く立食会。

 多数の策謀がうごめ坩堝るつぼの中で、イナベもシェリルもヴィオラも、その参加者として申し分ない様子を見せていた。

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