第133話 因縁追加

 アキラ達がセランタルビル1階の受付の広間で戦っていた頃、クロサワとカツヤの部隊はビルから湧き出てくる甲B18式達の破壊を続けていた。


 クロサワ達はかなり消極的な戦いを続けていたが、それでも戦況は拮抗きっこうを保っていた。


 甲B18式はかなり強力な機械系モンスターだ。

 以前のミハゾノ街遺跡の市外区画を徘徊はいかいしていたものとは比較にならないほどに強力だ。

 その単体でも十分に脅威になる機体が続々と湧き出ている。

 並のハンター達では対応できない状況だ。


 クロサワ達はその甲B18式の群れに問題なく対処していた。

 事前に人も装備もしっかり整えている。

 ビルへの再突入を捨てて距離を取って迎撃する分には、たとえ一見やる気がないような消極的な戦い方でも、敵に更に押されるような事態にはならない。


 クロサワ達は自分達の安全をたもてる戦況を問題なく維持していた。


 カツヤ達もクロサワ達が構築した簡易防壁にとどまって甲B18式達と戦っていた。

 しかし戦い方が消極的とはいえ、状況を楽観的に捉えて余裕を持って戦っているクロサワ達とは異なり、カツヤ達は険しい表情で悲観的な雰囲気で戦っていた。


 クロサワ達は全員無事で負傷者もなく、ビルへの再突入を強行する理由がない。

 だがカツヤ達はビルの中に取り残された仲間がいる。

 まだ生きているかもしれない。

 再突入を急げば救出できるかもしれないのだ。


 だがそれができない。

 クロサワとの交渉は失敗に終わった。

 カツヤ達だけでは再突入は恐らく不可能だ。


 カツヤは仲間を助けに行けないことに、険しくも悲痛な表情を浮かべていた。

 そのカツヤの様子は仲間達にも伝わり広がっていた。


 そしてカツヤ達の中に非常に居心地の悪い者がいた。

 リリナだ。


 少なくない数の者がリリナを非難するような視線を向けていた。

 カツヤがクロサワと交渉した時のことが皆に伝わったからだ。

 別にリリナだけが悪いわけではない。

 だが現状に不満を覚える者達は、仲間を救えない苦境に対して、無意識に分かりやすい原因を求めてしまっていた。


 リリナが無数の視線を感じながら顔をゆがめている。

 大きな憤りと僅かなおびえ、強い反発と弱い罪悪感、それらが入り交じった険しい表情をしている。


(……私が、私だけが悪いって言うの!?)


 そしてリリナもまた、苦境に対する分かりやすい原因を求めてしまう。

 リリナの視界には甲B18式を楽々と倒しているクロサワ達の姿が映っていた。


(何よ!

 あんなに簡単に倒せるんじゃない!

 それなのにあんなに縮こまって戦ってるの!?

 馬鹿じゃないの!?)


 リリナの目には、クロサワ達が余りにも楽に甲B18式を倒しているように見えた。

 無意識に非難する先を求めていたリリナは、クロサワ達の実力の評価を上げるのではなく、甲B18式の脅威度を下げて辻褄つじつまを合わせてしまった。


 そして、突き刺さる非難の視線と湧き出る苛立いらだちに耐えきれなくなったリリナは、暴挙に出た。

 ビルへの再突入を邪魔する甲B18式達を倒すために簡易防壁から飛び出したのだ。


 背後から自分を呼び止めるカツヤ達の声を無視して、リリナがビルにより近い簡易防壁に移動する。

 そして甲B18式に銃を向けて乱射する。


 リリナの行動を擁護するならば、戦線を押し上げてビルへの再突入を促すための行動とも言える。

 格下と侮っている者が戦線を押し上げれば、クロサワ達も反発や体面などからより積極的に戦うようになるだろう。

 そうすればカツヤ達がビルへ再突入する助けにもなる。

 それは必ずしも間違いではないが、同時にリリナの思い込みにすぎない。


 リリナは十分に奮闘した。

 数体の甲B18式をリリナ1人で撃破したのだ。


 そして部隊から突出した対象へ攻撃目標を変更した多数の甲B18式に銃撃されて、リリナはすべもなく当たり前に致命傷を負った。

 クロサワ達が放棄した簡易防壁の耐久力では、その一斉射撃を防ぐことはできなかった。


 崩れ落ちたリリナが自らの血の池に沈む。

 即死しなかったのはただの偶然だ。

 リリナは薄れる視界の中で自分を助けるために駆け寄ってくるカツヤの姿を見た。


 カツヤが来てくれたのだから大丈夫だ。

 リリナは最後にそう思ってうれしそうに微笑ほほえみ、息絶えた。




 カツヤは部隊の指揮を放棄してリリナを助けるために飛び出していた。

 邪魔な甲B18式を破壊してリリナに急いで駆け寄るが、既にリリナは死亡していた。


 カツヤがリリナを見る。

 カツヤにはそのリリナの表情が、どうして助けてくれなかったのかと自分を責めているように見えた。


 カツヤが一度目を閉じる。

 そしてシェリルとした話を思い出して、死んだ仲間を悪霊にしないと決めたことを思い出して目を開ける。

 リリナの表情はカツヤが助けに来たことを喜んでいる微笑ほほえみに戻っていた。


 それでもまた仲間を助けられなかった事実は変わらない。

 カツヤは込み上げる激情に身を任せて、激しい表情で叫ぶように声を上げ、通信機越しに仲間に指示を出す。


「全員下がってろ!」


 カツヤは指揮を完全に放り出して、部隊の隊長としての役目や義務を放棄して、周囲の甲B18式達に襲いかかった。




 真っ白な空間で誰かが不敵に微笑ほほえんでいた。




 クロサワが非常に驚きながらカツヤの戦い振りを見ていた。

 予想外の光景だった。


 カツヤはたった1人で無数の甲B18式と戦っていた。

 しかも敵を圧倒しているのはカツヤの方だった。

 恐らくカツヤのために用意した強力な銃で、周囲を取り囲んでいる甲B18式を次々に撃破していた。


 全ての敵の動きを、飛び交う銃弾それぞれの弾道を、強固な機体の弱点部位を、カツヤはあらかじめ知っているかのように的確に動いている。

 既に多数の甲B18式が攻撃目標をカツヤ1人に切り替え始めていたが、それでもカツヤの優勢は揺らいでいなかった。


 場違いに強いたった一人のハンターが、場の敵を蹂躙じゅうりんしていた。


 クロサワが感嘆ともあきれとも取れそうな表情と口調でつぶやく。


「強い。

 なるほど。

 確かにあれだけ強ければ増長もするし、それも許される、か。

 しかし……」


 クロサワが周囲の様子を確認する。

 自分と同じように驚きの表情でカツヤを見ている部下達の姿が見える。

 カツヤの部下達が歓声を上げている様子も見える。


 クロサワはカツヤに対し、敵意や嫌悪などではないが、かといって称賛でもない別の感想も覚えた。

 しかし取りあえずそれは後回しにした。

 まずは隊長として部下に指示を出さなければならない。


「全員であいつを援護しろ。

 前線も少しずつ上げていく」


 部下がクロサワに少し不思議そうに聞き返す。


「あいつを助けるのか?」


「頼みもしていないのにおとりになって敵の攻撃を引きつけてくれているんだ。

 折角せっかくの機会だ。

 俺達は楽をしようじゃないか。

 前線を上げるといっても、勿論もちろん、安全第一でだ。

 ……あいつに触発されて突出しようとするやつがいたらすぐに止めろ。

 あの無謀な戦い振りに付き合う必要はない」


「ああ。

 そういうことか。

 了解だ」


 クロサワ達の部隊が指示に従って動き出す。

 クロサワはその部下達の様子を少し険しい表情で確認していた。

 そして懸念事項が杞憂きゆうで済みそうなことに取りあえず安堵あんどすると、全体の指揮を続けた。


 クロサワ達が少しずつ前線を上げていく。

 ビルの周辺にいる甲B18式の数が確実に減っていく。


 そして大部分の甲B18式を倒し終えた時、ビルの出入口から強い閃光せんこうが漏れた。

 アキラ達が大型固定機を撃破したのだ。


 クロサワがビルから出てくるアキラ達に気付く。


「あれは……先行部隊か。

 あのやたら硬い敵を倒したのか。

 やるな」


 これでセランタルビルへの再突入が容易になった。

 クロサワはすぐに次の指示を始めた。




 セランタルビルから外に出たアキラ達は、周囲に広がっていた激戦の跡を見て驚いたものの、立ち止まらずに先を急ぐ。

 エレナが情報収集機器で周囲の状態を確認しながら先導する。

 アキラ達は周囲を警戒しながら甲B18式の残骸が散らばっている場所を進んでいく。


 ビルの外ならば情報収集機器は十全に機能する。

 エレナはビルの中で何度かあった不覚を繰り返さないように、周囲を念入りに警戒していた。

 そしてある反応を捉えてアキラ達に警戒を促す。


「右手に反応。

 一応注意して」


 アキラがエレナから送信された反応の場所に注意を向ける。

 そこには強化服を着ているハンターの死体が転がっていた。

 アキラが嫌そうな表情を浮かべる。


『またか。

 アルファ。

 あれが動き出すかどうか分かるか?』


『分からないわ。

 少なくとも死んだばかりで強化服のエネルギーが十分残っているのは確かよ。

 可能性はあるわね』


『動き出す理由とか分かるか?』


『いろいろとあるとしか言えないわね。

 何からの方法で遠隔操作をしているのかもしれないし、自律行動をするようにプログラムをいじったのかもしれないわ。

 でも警戒さえしておけば倒すのは簡単よ。

 いろいろな制約、通信速度とか記憶媒体の容量とか、制御装置の性能とかの所為で、高度な動きはできないわ。

 ビルの中のやつもアキラだけで倒せたでしょう?』


『まあな』


 ビル内でアキラ達を襲った動く死体達の動きは大したものではなかった。

 不覚を取ったのはアキラだけだ。

 それもいろいろな制約の所為だ。

 もしそれらがアルファのサポートを得たアキラ並に強ければ、アキラは確実に死んでいた。


 ではなぜアキラだけそれらの制約がないに等しいのか。

 アキラはそれを、自分が旧領域接続者だから、として取りあえず納得することにした。

 それだけでは納得しにくいものからは、取りあえず今は目をらした。


 ここで不運が起きる。

 様々な要因が複雑に組み合わさった結果の不運だ。

 改竄かいざんされた強化服を着た死体が起き上がる。

 近くの敵を攻撃しろという単純な指示に従って動きだす。

 起き上がった死体が、今、この場で、アキラに銃を向けようとする。


 アキラは落ち着いてCWH対物突撃銃を構えて、アルファが指示する部位を、死体の強化服の制御装置がある場所を狙って引き金を引いた。


 放たれた弾丸が死体の胴体に大穴を開ける。

 制御装置を破壊された強化服が機能を停止する。

 着弾の衝撃で死体が後方に倒れ、二度と動かなくなった。


 その光景を偶然見ていたカツヤが叫ぶ。


「リリナ!」


 死体は、リリナだった。


 カツヤが必死の形相で駆け寄ってくる。

 事情を知らないカツヤには、実は生きていたリリナにアキラが止めを刺したようにも見えた光景だった。


 アキラが反射的にカツヤに銃を向けようとする。

 アルファが強化服を操作してそれを押さえる。


 アキラが表情を少し険しくさせて尋ねる。


『アルファ?』


 アルファが少し真面目な表情で答える。


『落ち着きなさい。

 今は無駄に戦闘を増やす状況ではないわ』


 少し不満そうな様子を見せるアキラに、アルファが続けて話す。


『戦闘になったら、今度は私がちゃんとサポートできる。

 だから落ち着きなさい』


『……了解』


 アキラは少し渋々と銃を下げた。


 シカラベがエレナ達に手で、先に行けと伝える。

 そしてアキラの近くに立つ。


 エレナ達はシオリがかせたこともあってアキラ達を置いて先を急いだ。

 折角せっかくビルから脱出したのに、この期に及んでの面倒事などシオリは御免だった。


 カツヤがアキラの前までやってくる。

 そしてアキラに敵意を向けて身を震わせながらにらみ付ける。

 戦闘に移行していないのが不思議なぐらいぎりぎりの態度だ。


 シカラベがカツヤに尋ねる。


「何か用か?」


「……用……だと?」


「そんなに急いで走ってきたんだ。

 急用だろ?

 用件は?

 用がないなら帰れ」


 カツヤが今度はシカラベをにらみ付けて話す。


「……どうして撃った!?」


「何らかの手段で強化服を操作されていた死体を銃撃して無力化した。

 それだけだ」


「……生きていたかもしれないだろう!?」


「死亡していた。

 恐らく着用者が死亡したことで強化服の認証が緩んだんだろう。

 ビル内でも似たような死体に襲われた。

 ビルの外に出た機械系モンスターに工作機が混ざっていて、強化服の制御装置を改竄かいざんされたんだろう」


「それを、黙って信じろっていうのか?」


 カツヤはシカラベの言い分を認めようとせずに、非常に険しい形相のままアキラ達をにらみ付けていた。


 それに対してシカラベが敵意を多分に込めた表情を返す。


「そうか。

 良いぞ。

 別に信じなくても。

 彼女は生きていて、強化服も改竄かいざんされていなかった。

 その上で、俺達に銃を向けた。

 お前の部隊が意図的にこちらを攻撃しようとした。

 こっちの認識も、それで良いんだな?」


 シカラベが臨戦態勢を取る。

 まだ銃を構えてはいないが、誰かがあと僅かでも具体的な行動を取れば、即座に戦闘開始だ。


 カツヤが僅かにたじろぐ。


「そ、そういう意味じゃ……」


 シカラベが非常に険しい表情で詰問する。


「じゃあ、どういう意味だ。

 言ってみろ。

 説明しろ」


 カツヤは答えられなかった。


 アキラ達とカツヤが黙ったまま対峙たいじを続けている。

 そこにクロサワがやってくる。

 ユミナとアイリも一緒だ。

 状況をつかめていないクロサワ達は怪訝けげんな表情を浮かべていた。

 だがそれでも交戦手前であることぐらいはすぐに理解した。


 折角せっかく機械系モンスター達との戦闘が一段落したというのに、続けてハンター同士のめ事が発生するとクロサワ達にも不利益だ。


 クロサワが軽くめ息を吐いてカツヤに告げる。


「何だか知らんが、ビル内に取り残された仲間を助けに行かなくて良いのか?

 言っておくが、俺達の部隊はビルの出入口付近の制圧を優先させる。

 お前らの生存者を探しに行ったりはしないぞ?」


 カツヤがクロサワを見て、ユミナとアイリを見て、アキラ達を見る。

 そしてどことなく悔しそうな表情を浮かべて、セランタルビルに向けて走っていった。

 ユミナとアイリもすぐにカツヤの後を追った。


 クロサワはカツヤを少しあきれたような表情で見送った後、シカラベに軽く笑って話しかける。


「よう。

 シカラベ。

 久しぶりだな」


 シカラベが怪訝けげんな様子で尋ねる。


「クロサワか。

 おい、まさか外の部隊を率いているのはお前か?」


「半分はな。

 ドランカムの連中は別の部隊だ。

 俺の指揮下ではない。

 だから何があったか知らんが、俺に連中の文句を言うなよ?

 それはそれとして、後続の部隊の隊長として、先行部隊に情報提供を求める。

 まあ、付き合え」


 シカラベが意気を抜かれたように落ち着いて答える。


「分かったよ。

 アキラ。

 俺はここに残る。

 エレナ達にそう伝えておいてくれ。

 あとシオリに……、いや、良いか。

 アキラ達は先にクガマヤマ都市まで帰還して、その後はエレナの指示に従ってくれ。

 トガミには都市に戻るまでしっかり護衛を続けておけって伝えておいてくれ」


「分かった」


 アキラは軽くうなずいてからエレナ達の後を追って走り出した。


 クロサワが去っていくアキラを見ながら話す。


「あれがお前が前に話していたアキラか。

 あいつもあのカツヤってやつぐらいに強いのか?」


「さあな。

 そうかもな」


「へー、最近は末恐ろしいガキが多いのかね。

 ……まあ、それはそれとして、シカラベにしては随分好戦的だったな」


 シカラベが少し不思議そうに聞き返す。


「そうか?

 そうでもないだろう。

 あの程度は普通だ」


「お前にしては交戦の決断が少々早いように見えたが……、まあいいや。

 で、ビルの中で何があったんだ?」


「……いろいろだ」


 クロサワが苦笑しながら話す。


「何だか知らんが、お前も大変だな」


「ああ。

 全くだ」


 シカラベがげんなりした様子で答えた。




 エレナ達は車をめた場所でアキラを待っていた。

 合流したアキラに事情を聞くと、すぐにクガマヤマ都市へ向けて出発する。

 シオリ達はトガミが運転するシカラベの車両に乗った。


 ミハゾノ街遺跡を出た辺りで、皆がようやく意識を緩める。

 まだ荒野だがミハゾノ街遺跡に比べれば十分安全な場所だ。


 アキラはキャロルに運転を頼んで助手席でぐったりしていた。

 心身ともに限界が近い。

 早く家に戻ってゆっくり風呂に入り、その後は死んだように眠りたかった。


 キャロルがそのアキラを見て苦笑している。

 この状態では誘っても無駄だろうと判断して、アキラを休ませるために話しかけるのも控えておく。

 なお、キャロルの方は求められれば応じる余裕がある。

 身体強化拡張者の体力は伊達だてではないのだ。


 アキラは完全に気を抜いて休んでいた。

 しばらく休むとアキラの気力と体力も少しは回復して、いろいろと考える余裕が生まれてくる。

 アキラの頭に浮かんでくるのは、セランタルビルでの苦境だ。


『……なあアルファ。

 やっぱりちょっと聞きたいんだけど、アルファがいなかった時、何をやってたんだ?』


 アルファが微笑ほほえんで答える。


『あら、口答で30時間ほど掛かる各種規則条約を聞く気になったの?』


 アキラが嫌そうに答えながらも食い下がる。


『いや、それはちょっと。

 でも、ほら、少しぐらい何とかならないか?

 本当に全く話せないのか?』


 アルファが少し困った態度を取りながら答える。


『そうね。

 ぎりぎり話せる部分を切り出すと、あの情報収集機器の性能を低下させる事象を何とかしようと試みたりしていたわ』


 アキラが少し怪訝けげんそうに、どことなく不満そうに尋ねる。


『……それ、俺のサポートを一時的に止めるぐらい優先することだったのか?』


『優先度の順位付けは様々な要素を考慮して判定するわ。

 あの事象を解決すれば、エレナ達の戦力が格段に向上して、全員が無事に脱出できる可能性が飛躍的に向上する。

 特にエレナは情報収集機器で敵を解析して、敵の位置や弱点部位を探ったりして効率的な戦闘を試みるハンターよ。

 サラもその恩恵を受けているわ。

 それらの部隊全体の効率を考慮に入れての決断よ。

 今のアキラの実力なら、あの程度の状況なら、私が少し席を外しても大丈夫だろう。

 そういう判断も含めてのね』


『うーん。

 そういうことか。

 確かに』


 少し納得を示したアキラに、アルファが続けて話す。


『前にも少し話したけれど、アキラが他の全員を見捨てて単独での脱出を優先するのなら、私は席を外さずにアキラのそばにいたわ。

 そっちの方が良かった?』


『いや、それは……、ちょっと……』


 アルファが真面目な表情で告げる。


『アキラ。

 良い機会だから言っておくわね。

 もしアキラが急に私のサポートを失ったことで誰かに迷惑を掛けるのを嫌がっているのなら、やっぱりアキラは個人で行動するべきよ。

 前にも話した通り、旧世界の遺跡では私のサポートが急に失われる可能性があるの。

 エレナ達は私のサポートがある状態でのアキラの実力を期待しているはずよ。

 アキラが突然その期待に応えられない状況になると、全体が致命的な状況に陥る可能性を許容できないのなら、同行を初めから断っておきなさい』


 アキラが複雑な表情を浮かべている。

 いろいろな感情が渦巻いていた。


 アルファが少し口調を優しくして続ける。


『無理にとは言わないし、強制もしないわ。

 決めるのはアキラよ。

 でも、頭の片隅には入れておいて。

 旧世界の遺跡では何が起こるか分からない。

 アキラも知っているでしょう?』


『……そうだな。

 分かった』


 アルファが不敵に笑って話す。


『まあ、そもそもアキラが私のサポートを失ってもほとんど変わらないぐらいの実力を身につければ、何の問題もない話なのだけれどね』


 アキラが苦笑した後、気を切り替えるように笑って話す。


『それもそうだ。

 アルファの依頼を達成するためにも、もっと強くならないとな』


『期待しているわ』


 アルファも笑ってそう答えた。

 その裏で、別の思考を続ける。


 アルファは今回の依頼で、キャロルがアキラを探りやすいように、僅かに意図的に隠蔽を下げていた部分があった。

 アキラを探ろうとするキャロルに対して警戒を促し、可能ならばそれを理由に交戦させて、その前例を元にエレナ達と距離を取るように仕向ける。

 そういう予定もあった。


 しかしキャロルは踏み込む程度をしっかりと抑えていた。

 少なくともアルファがその程度のことを理由にすると、逆にアキラがアルファに不信を抱きかねない程度には、探りを入れる程度を抑えていた。


 今回の件が今後にどれだけ関わってくるか。

 アルファはアキラが今回の件で今後は多少は自重することを期待しながら今後の計画を練っていた。




 アキラ達は何事もなくクガマヤマ都市まで帰還した。


 車から降りて集まったアキラ達に、エレナが疲れ気味ながらも微笑ほほえんで話す。


「取りあえず、みんなお疲れ様。

 いろいろあったけど、このチームはここで解散。

 今回のミハゾノ街遺跡での活動も終わりとさせてもらうわ。

 ……厳密には、交渉の後片付けというか、事後交渉が残っているんだけどね。

 アキラ。

 またキャロルを借りても良いかしら?」


「俺は構いません。

 キャロル。

 悪いけど、また頼んでも良いか?」


 キャロルが機嫌良く答える。


勿論もちろんよ。

 報酬をたっぷりふんだくってくるから、期待して待っていてね?」


「ああ。

 頼んだ。

 期待してるよ」


 笑ってそう答えるアキラを見て、キャロルが満足そうにうなずいた。


 エレナが皆に話す。


「報酬等の詳細は後で私から皆に送るわ。

 何かあれば私てに通知を送ってちょうだい。

 はい。

 それじゃあ、解散。

 お疲れ様でした」


 アキラはエレナ達に挨拶をした後で、大きく伸びをする。

 そして自分の車に乗り込んで帰っていく。


 去っていくアキラをトガミとレイナが複雑な胸中をいだきながら見ていた。

 種類や方向性に多少の差異はあるが、その思いの根本が強さへの渇望であるのは2人とも同じだった。


 トガミは今回の件で自分の実力を定義し直した。

 自分は弱い。

 そう再認識した。

 だがそこに揺らぎはなかった。

 セランタルビルの中で一時的に落ち込みはしたものの、ビルの中でレイナの護衛をしながら、都市への帰路で今日の出来事を反芻はんすうしながら、ゆっくりと自分を見つめ直し、自らの中に確固たる土台を作り直していた。


 自分は弱い。

 ならば強くなるだけだ。

 トガミは自らにそう宣言して、決意を抱き、覚悟を決めて、確かな足取りで離れていった。


 一方レイナは揺らいでいた。

 危険な遺跡から帰還して生まれた安堵あんどが、緊張から解放されて少し余裕を取り戻した心が、自分の好ましくない現状を指向性のない状態でただ眺めるという、気落ちに拍車を掛けるような状態を作り出した。


 レイナはカツヤのチームから、その庇護ひご下から抜け出した後、シオリとカナエが一緒にいるとはいえ、一生懸命ハンター稼業に精を出して、少しずつ自信を取り戻していた。


 だがレイナが必死になってき集めた自信は今回の件で四散してしまった。

 自分の頑張りなど徒労にすぎない。

 そう強く指摘されたような気がして気落ちしていた。


 どことなく力強い足取りで去っていくトガミを見て、レイナは置いてきぼりにされたような感覚を覚えた。


 どうすれば強くなれるのか。

 レイナには、分からなかった。

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