第84話 未調査の遺跡の本質

 アキラがエレナ達と一緒に再び以前の遺跡に向かう日になった。


 アキラは以前と同じように荒野の合流地点でエレナ達を待っている。

 今回もエレナ達と合流したらアルファのサポートは無しになる予定だ。


 アルファは前面にファスナーがある上下一体の戦闘服を着ている。

 光沢のある素材の布地が肌に密着しており、アルファの魅力的な体の線が強く表れている。

 首元から下に伸びているツナギ前面のファスナーは、下腹部の下、股間の先、背面まで続いている。

 アルファはそのファスナーを下腹部の上まで開けていた。

 その隙間から露出している肌は、アルファがその下に何も着ていないことを示していた。


 アルファの姿を視認できる者がいれば、アルファの美貌も合わさって強い注目を集めるだろう。

 前回の水着姿のアルファに比べて肌の露出は格段に下がっているが、蠱惑こわく的な魅力という点では大して違いがない。


 アキラはそのアルファの姿を見て、比較的ましな格好だと判断して、特に何か言うのは止めることにした。

 アキラもいろいろ慣れ始めていた。


 時間通りにエレナ達がやってくる。

 アルファが微笑ほほえんで訓練の開始を告げる。


『それじゃあ、今日も頑張ってね』


『ああ』


『どうしても寂しくなったら、我慢しないで呼んでも良いのよ?』


 アルファがそう言って少し誘うように笑う。

 アキラが少しへそを曲げたような表情を浮かべる。

 アルファは楽しげに笑いながらアキラの視界から姿を消した。


 アキラはエレナ達が来る前に深呼吸をして表情を元に戻した。


 エレナ達がアキラの車の隣に自分達の車を着ける。

 アキラがエレナ達に笑って話す。


「今日もよろしくお願いします」


 エレナも笑って答える。

 だがその表情は少しだけ曇っているようにも感じられる。


よろしくね。

 ちょっと聞きたいんだけど、アキラの車って自動操縦機能は付いている?」


「一応付いています」


「私達の車の後を付いていくように設定できる?」


「できます」


「そう。

 それならそう設定して、アキラも私達の車に乗ってもらって良いかしら?

 ちょっと話したいことがあるのよ」


「……?

 分かりました」


 アキラは少し不思議に思いながらも、自動操縦の設定を済ませてエレナ達の車の後部座席に乗り込んだ。

 アキラが乗り込んだことを確認したエレナは、すぐに目的の遺跡へ向けて車を走らせた。


 助手席に座っているサラが、膝立ちになって体の向きを反転させて、両手と胸を背もたれの上においてアキラの方を向く。

 サラが少し申し訳なさそうに話す。


「先に謝っておくわ。

 御免なさい」


「何かあったんですか?」


「前回アキラと一緒に行った遺跡なんだけど、多分他のハンターにバレたわ」


 アキラが少し驚いた。

 いずれ発覚するとは思っていたが、もう知れ渡ったとは思わなかったのだ。


「……そうですか。

 でも別にサラさん達の所為ではないと思いますけど、何か心当たりでもあるんですか?」


 運転席のエレナが答える。


「ないわ。

 少なくともバレないようにしっかり注意は払ったつもりよ。

 遺物の売却で新しい遺跡が見つかったことがバレたとしても、その場所まで分かるはずがないわ。

 前回も私の探索範囲の中で、跡をつけられていた感覚はなかったわ」


 アキラが笑ってあっさり答える。


「じゃあ、ただの偶然ですよ。

 エレナさん達の所為ではないと思います。

 あるいは、俺が何かどこかでへまをしたんでしょう。

 俺が一人で遺跡に行った時は、移動ルートの偽装とかしないで普通に帰ったりもしましたしね。

 俺が何か気付かずにやらかしたんだと思います」


 確かに他のハンターにあの遺跡を知られたのは残念だが、どうせ時間の問題なのだ。

 今回は少し早かった。

 それだけの話だろう。

 アキラはそう考えた。


 アキラの返事を聞いて、エレナとサラが少し表情を真剣なものに変える。

 エレナがつぶやくように話す。


「……私達を疑わないのね。

 私達が情報を売ったとは思わないの?

 その手の情報は高く売れるって、前に教えたでしょう?」


「思いません」


「その根拠は?」


「根拠……?

 何となくです」


 アキラは少し考えた後に、普通にそう答えた。

 そして適当に思いついた理由を冗談めかして付け加える。


「それにエレナさん達があの遺跡の情報を売る気なら、売る情報をいろいろ小出しにするとか、もっと良い方法を思いつくんじゃないですか?

 何となくですけど」


 少し真面目な表情を浮かべていたエレナとサラが、アキラの返事を聞いて軽く笑い出した。


 エレナが冗談っぽく笑って話す。


「そうね。

 私ならもっと上手うまくやるわ」


「エレナなら情報の偽装も含めていろいろやりそうね。

 どうでも良い情報をすごい高値で売り払うんじゃない?」


 サラの冗談にエレナが笑って答える。


「当然よ。

 可能な限り高値にして売り払うわ」


 エレナは微笑ほほえみながら静かな口調でアキラに話す。


「アキラ。

 信じてくれてありがとう。

 正直、うれしいわ」


 ハンターがチームを解散する要因はいろいろだ。

 相手への不信もその一つだろう。

 旧世界の遺跡での遺物収集は、命を賭ける価値があるほどの大金を生むこともある。

 疑い、疑われ、大金がそれを助長して、互いに銃を突きつけ合う形で解散するハンターのチームは多いのだ。


 だがアキラはエレナ達を微塵みじんも疑うことなく信じてくれた。

 エレナ達はそれがとてもうれしかった。


 少し恥ずかしくなったエレナが強引に話題を変えようとする。


「はい!

 この話はお仕舞しまい!

 次の話に移るわよ。

 しっかり聞いてね」


「分かりました」


「私達が向かっているあの遺跡なんだけど、もしかしたらかなり危険かもしれないわ。

 だからアキラも十分注意して。

 私達の誰かがどんな理由でも、何となく嫌な予感がするとか、その程度の理由でも、撤退した方が良いと判断したらすぐに撤退する。

 先にそう取り決めておきたいのだけど、アキラもそれで良いかしら?」


「構いません。

 安全に行きましょう。

 それで、エレナさん達はなぜあの遺跡が危険だと判断したんですか?」


 前回も前々回も、全くモンスターが出てこなかった遺跡だ。

 アキラにはエレナ達がそこまで危険視する理由が分からなかった。


 エレナがアキラの問いに答える。


「新しい遺跡の存在がある程度の数のハンターに知れ渡ると、その遺跡に関する情報の売買が活発になるのよ。

 遺跡の場所、遺跡の内部構造、生息しているモンスターの種類や数、発見された遺物の内容、いろんな情報が売買されるわ。

 それで私もいろいろ調べたのだけど、ほとんどが遺跡の場所の情報で、それ以外の情報がやけに少ないのよ」


「高値の遺物がたっぷり残っている遺跡だなんてことが知れ渡ったら、競争相手のハンターが山ほど増えるから黙っているだけじゃないんですか?」


勿論もちろんその可能性もあるわ。

 でも別の可能性もある。

 つまり、遺跡内部からの生還者がいない、情報を持ち帰ってくるハンターがいない可能性よ。

 遺跡の外で仲間が帰ってくるのを待っていたハンターだけが、遺跡から生きて帰ってきた。

 だから遺跡の場所だけが売買されている。

 そういう可能性もあるのよ。

 そしてその遺跡をしっかり準備して攻略するために、遺跡の内部情報を知るために、誰かが意図的に遺跡の場所を広めている可能性もあるわ」


 アキラが真剣な表情でうなずく。


「……わかりました。

 十分注意していきましょう」


 前々回も前回も無難に遺跡探索を終えられたから今回も大丈夫だろう。

 無意識にそう思うことで生まれていた余裕がアキラから完全に消し飛んでいた。


 遺跡に到着するまでの間、アキラはアルファを呼び出すかどうか迷い続けていたが、迷った末に呼ばないことにした。

 シェリル達と一緒の時のように、足手まといがいるわけではない。

 何よりエレナとサラがいるのだ。

 危険を感じたらすぐに撤退することにもなっている。

 アキラはできる限り自分でやってみることにした。


 アキラ達は前回のような回り道をせずに真っぐ遺跡に向かう。

 遺跡のある瓦礫がれき地帯に差し掛かると、前回とは違った光景が見えるようになる。


 無数の銃弾を浴びて倒された生物系モンスターのしかばね

 強い衝撃で破壊された機械系モンスターの残骸。

 そして、ハンターの装備の残骸と死体の一部分。

 ハンターとモンスターの交戦の痕跡だ。


 アキラが周囲の光景を見ながらつぶやく。


「多いな」


 瓦礫がれきの弾痕や爆発の跡。

 人間か生物系モンスターの血痕。

 機械系モンスターかハンターの車両等の残骸。

 それらが一帯に散らばっている。

 それなりの人数のハンター達が、かなりの規模のモンスターの群れと交戦したことがうかがえる。


 サラが同じ光景を見ながら話す。


「ハンターはあの遺跡の探索のためにここに集まってきたとして、この量のモンスターはどこから湧いてきたのかしら。

 遺跡内部からハンターを追って出てきた可能性もあるわね。

 エレナ、周辺の反応は?」


 エレナが情報収集機器の反応を再確認して答える。


「大丈夫よ。

 周辺にモンスターらしき反応はないわ。

 このモンスターが遺跡内部から湧いてきたとして、彼らが一通り倒したのかもね」


 アキラが遺跡の出入口に近付くにつれて戦闘の痕跡が強くなっていく周辺の光景を見て、少し表情を険しくさせて言う。


「……この量のモンスターが遺跡の奥に生息していたとしたら、むしろこの遺跡の場所がバレて良かったのかもしれませんね。

 遺跡の奥の威力偵察をやってもらったと思えば安い代償かもしれません」


 エレナがアキラの意見に同意する。


「本当にそうかもしれないわ。

 未調査の遺跡の怖い所は、大量の遺物があるけど大量のモンスターもいる可能性もあって、そしてそれを判断するための情報が一切ない所なのよ。

 これは本当に、この遺跡の内部情報が少ないのは、そもそも生還者が少ないからと判断して良さそうね。

 前回の私達が単に幸運だったのか。

 それとも先に遺跡の奥まで行ったハンターが、よほど大きなミスをしでかしたのか。

 アキラ。

 正直な話、今から引き返すってのもありよ」


「……その判断はエレナさん達にお任せします。

 少なくとも、俺はまだこの場で撤退しようとは思っていません」


 アキラの返事から慢心は感じられない。

 危険を正確に認識した上で、慎重に歩を進めるハンターの言葉だった。

 アキラの返事を聞いたエレナが少しうれしそうに微笑ほほえみながら話す。


「分かったわ。

 行きましょう」


 サラもどこか楽しそうにアキラに話す。


「結構アキラの活躍にも期待しているわ。

 でも無理はしちゃ駄目よ?」


 アキラ達が遺跡の出入口、地下に続く階段の前まで到着する。

 階段の周囲の瓦礫がれきが巨大な何かに押しのけられたように広がっていた。

 その何かが移動した跡は階段の奥から荒野の先まで続いていた。

 やはり遺跡の中には何かがいたようだ。


 アキラが自分の車からCWH対物突撃銃とDVTSミニガンを取り外して装備する。

 予備の弾薬もリュックサックに詰めた分も含めてしっかり持っていく。


 アキラは遺跡内部で見つけた遺物を運搬する余力を余り考えていない。

 良い遺物が見つかった場合に遺物を持ち運ぶ分の空きがなければ多少弾薬を捨てていくつもりだ。

 残弾が足りないよりは捨てるほど有る方が良いだろう。


 アキラの強化服は装備と弾薬の重量に問題なく対応した。

 エネルギーの消費はかなり激しくなるが、今日一日ぐらいは十分持つだろう。


 サラもエレナも車からいろいろな装備品を取り出して身に着けている。

 二人ともより危険だと判断した遺跡に潜る準備をしっかり整えたようだ。


 エレナがアキラに尋ねる。


「アキラ、準備は良い?」


「はい。

 大丈夫です」


「良し。

 じゃあ行きましょう」


 エレナは満足そうに微笑ほほえむと銃を階段の奥に向けて構える。

 エレナが引き金を引くと、銃の擲弾筒てきだんとうから何かが発射されて階段の奥に消えていく。

 その後エレナとサラが階段を降りていく。

 アキラはその後に続いた。


 アキラが階段を降りながらエレナに尋ねる。


「エレナさん。

 さっきのあれは何なんですか?」


「あれ?

 あれは小型の情報収集機器の補助装置よ。

 着弾地点周囲の情報をより正確に収集したり、離れた場所の索敵をしたりするの」


「へー。

 そういうものがあるんですか」


「あれはランチャーで打ち出すタイプのものだけど、他にもいろいろな種類のものがあるわ。

 遠隔操作や自動操縦で遺跡の床を移動したり、空中を飛んだりして遺跡内部を調べる無人機もあるわ」


すごい便利そうですね。

 どれぐらいの値段なんですか?」


「基本的にかなり値の張る代物よ。

 無人機のやつは、1機100万オーラムとかするものもあるわ。

 それを遺跡の調査に使ってちゃんと戻ってくるなら問題ないけど、モンスターに破壊されたり、無人機との通信が切れて操縦不能になったりすることもある。

 戻ってきた無人機がモンスターを連れてくることもある。

 場所によっては遠隔操作の無人機を逆探知して、操縦者を的確に襲ってくるモンスターまでいるみたいよ」


「さっきエレナさんが使用したやつは幾らぐらいなんですか?」


「あれは1個1万オーラムよ。

 使い捨てにするにはちょっと厳しい価格だから、余裕があったら回収しましょう。

 ……前回使わなかったのは、まあ、その、ほら、壊れたら勿体もったいないでしょう?

 使わなくても大丈夫かなってね。

 今回は、ほら、危険そうだからちょっと念入りに調べようかなって、そういうことよ」


 エレナは少し誤魔化ごまかすように説明した。

 全ては費用対効果の向上のためだ。

 危険探知に金を出すとしても、それで赤字になっては本末転倒だ。

 命賭けで旧世界の遺跡に潜る以上、黒字にならなくては意味がないのだ。


 遺跡探索を安価に済ませるためには、それだけ命を張らなくてはならない。

 世知辛い世の中だ。

 アキラは何となくそう思った。


 アキラ達が降りている階段には、重量のある巨大な何かが地上を目指して通過した跡がある。

 それでも階段は大きく欠けておらずアキラ達が階段を降りるのに不都合はない。

 旧世界の技術の高さがうかがえる。


 階段を降りたアキラ達が以前も通った通路に出た。

 しかしその通路の様子は以前とは一変していた。


 通路は非常に明るかった。

 光源のない真っ暗闇の通路を照明で照らしながら進んだ前回と異なり、通路は十分な光で照らされている。

 アキラ達の足下の影から、光は上から降り注いでいることがわかる。

 しかし天井に照明器具のようなものは見当たらない。


 エレナが周囲を見渡しながら話す。


「この遺跡、まだ機能が生きていたのね。

 遺跡の奥までたどり着いたハンターが何らかの方法で遺跡の設備を起動させたのかしら」


 通路は十分な光で照らされており、以前はよく見えなかった通路の奥までしっかり視認できる。

 通路には弾痕や爆発物の跡、血痕が至る所にあり、戦闘の激しさを物語っていた。


 アキラが通路の奥を見ながら話す。


「ここにも戦闘の跡がありますね。

 階段にもあったデカい何かが通った跡もある。

 ……倒されたモンスターの死体や残骸がないのは何でだ?」


 戦闘は最近、遅くても数日前のものだろう。

 血痕の量からして、それなりの数の生物系モンスターが倒されたはずだ。

 地上には機械系モンスターの残骸もあったことから、機械系モンスターも恐らくはいたはずだ。

 その全てがここで倒されずに地上に出たとはアキラには思えなかった。


 サラがアキラの疑問の答えを自分なりに推測する。


「……何でかしらね。

 遺跡の機能が回復して、備え付けの清掃機械が掃除をしていったとか?」


 旧世界の遺跡の中には無人になってから長い年月がっているにもかかわらず、非常に奇麗な状態を保っている遺跡がある。

 そのような遺跡は清掃機械や修復装置が今も稼働し続けていることが多い。


 そのような遺跡は要注意だ。

 モンスターの痕跡が掃除され、その存在が把握しにくいこともある。

 また、警備装置も品質を保ったまま稼動していることがあり、不法侵入者として攻撃されることもあるのだ。


「モンスターはいないようだし、注意して進みましょう」


 エレナの号令で、アキラ達は注意深く通路の奥に進んでいった。




 アキラ達が以前に遺物を収集した店舗のある広間に辿たどり着く。

 今のところはモンスターとの遭遇もない。

 戦闘の痕跡は至る所にあるものの、それを実行した存在の姿は死体や残骸さえない。


 アキラ達が進むべき通路は二つある。

 アキラ達から見て右の通路には、巨大な何かが通過した跡が続いていた。

 改札らしき装置の残骸が、そこを通過した何かの力を表していた。


 エレナがサラとアキラに聞く。


「どっちに行く?」


「左ね」


「左にしましょう」


 サラとアキラが迷うことなく答えた。

 3人の意思はしっかり統一された。


 アキラ達は左の通路を進む。

 その先には地下街が広がっていた。


 地下街にはかなりの数の商店が建ち並んでいる。

 しかしその商店の大半は激しい戦闘の余波で半壊状態だ。


 そして今までの光景と最も異なる点は、その戦闘の実行者達の姿が残っていることだ。

 生物系モンスターのしかばね、機械系モンスターの残骸、そしてハンター達の死体が至る所に転がっていた。


 エレナが表情を険しくさせる。

 しかしそれは激しい戦闘で倒れた者達の姿を見たためではない。

 戦闘の余波で破壊されたであろう大量の遺物を惜しんだためでもない。


 エレナがアキラとサラに告げる。


「アキラ、サラ、準備は良い?

 来るわ」


 エレナの声に応じて、アキラとサラがエレナの前に立って銃を構える。

 アキラは既にリュックサックを降ろしており、予備の弾薬を床に置いていた。

 サラもアキラと同様に持ち運んでいた弾薬を周辺に置いている。


 アキラの装着しているゴーグルには、アキラの情報収集機器から取得した情報以外にも、エレナの情報収集機器から得られた情報も追加で表示されている。

 そこには無数のモンスター達の反応がしっかり表示されていた。


 反応の動きから、モンスター達がアキラ達の存在を確実に認識していることが分かる。

 反応が遠方から続々と増えていく。

 この区画にいるモンスター達はしっかり生き残っていた。

 敵であるハンター達を撃破し終えたので、一時的に戦闘を中断していただけだった。


 アキラとサラがほぼ同時に引き金を引く。

 響き渡る銃声とともに、再び戦闘が始まった。


 地下街の奥や半壊した商店の中から、様々なモンスターがうなり声や起動音を響かせてアキラ達に襲いかかる。

 モンスターの種類に統一性はない。

 移動手段を覚えた肉食植物が太い根を足代わりにして移動している。

 生体部分が腐敗している犬のサイボーグが、機械部品を露出させながら床を走っている。

 足の生えたミサイルポッドが、誤爆など気にせずに小型ミサイルをばらまいている。


 遮蔽物に隠れながら移動して距離を詰めてくるモンスターに対して、アキラはDVTSミニガンを乱射して薄い遮蔽物ごと粉砕し、厚い遮蔽物の間を移動するモンスターを周辺ごとぎ払うように攻撃する。

 嵐のように吹き荒れる大量の弾丸が、モンスターも瓦礫がれきも区別せずに粉砕し続けていく。


 遠距離から銃撃、砲撃をしてくるモンスターには、頑丈な遮蔽物で身を隠しながら、情報収集機器に表示されるモンスターの位置を頼りにCWH対物突撃銃で狙撃を繰り返す。

 強力な弾丸が少し固い程度の壁や瓦礫がれきなどを吹き飛ばし、その先にいるモンスターの体を四散させる。


 エレナは自分も攻撃に参加しながら、小型の情報収集機器を地下街の奥などに向けて発射し、索敵能力を強化していく。

 遠距離攻撃能力を持つモンスターの位置や射線、アキラとサラに近付いてきているモンスターの位置などを送り、2人の安全と攻撃をサポートする。


 サラがエレナの情報を基に的確にモンスターを効率的に粉砕していく。

 遮蔽物に隠れているモンスターをA4WM自動擲弾銃から発射した擲弾で、瓦礫がれきを飛び越えてモンスターの頭上から、瓦礫がれきの穴などから、次々に吹き飛ばしていく。


 サラはエレナの情報を信じてモンスターを見もせずに銃撃を繰り返し、頭部などの急所を的確に粉砕し、機械系モンスターの砲塔を破壊して誘爆を引き起こす。


 戦闘はアキラ達が優位なまま進んでいく。

 しかしエレナとサラはどこか険しい表情を浮かべている。


 サラが状況を一番正確に把握しているであろうエレナに尋ねる。


「エレナ、今戦ってるやつらなんだけどさ……」


「クズスハラ街遺跡の奥に生息しているモンスターが混じっているわね」


「……見間違いじゃなかったか」


 サラの表情の険しさがより一層強くなった。


 クズスハラ街遺跡の奥には、そこに前線基地を建築する必要があるほどの強力なモンスターが巣くっている。

 エレナ達は前線基地構築補助の依頼で、遺跡の奥から湧いて出てくるモンスターの撃退を請け負っていた。

 エレナ達では対応できないほどの大物に襲われたこともあった。

 その時は一緒に警備をしている他のハンター達や配備されている戦車の支援などもあり、問題なく対処することができた。


 そのような大物が敵に混ざっている場合、アキラ達の状況は非常に厳しいものになる。


 エレナが補足する。


「私が把握している限りだと、混ざっているモンスターはクズスハラ街遺跡の奥では比較的弱いやつばかりよ。

 それでもこんな場所にいるのは不自然なモンスターが多いけど」


 サラがアキラに向かって大きな声で尋ねる。


「アキラ、そっちは大丈夫!?」


「大丈夫です!」


「そう!

 ちょっと手強てごわいモンスターが混ざってるわ!

 弾薬費なんか気にせずに、思いっきり戦った方が良いわよ!」


「分かりました!」


 アキラは力強く答えた。

 アキラの声から焦りやおびえは感じられない。


 サラとエレナはアキラの返事を聞いて軽く笑う。

 この戦闘でアキラが足手まといになることはないだろうと判断して、万一の場合にアキラを助けるために割いていた意識をモンスターの方へ向ける。

 それはエレナ達がモンスターを殲滅せんめつするまでの時間を大幅に短縮させた。


 アキラはサラに言われるまでもなく、弾薬費など気にせずに戦っている。

 しかし残弾は気にしなければならない。

 モンスターの攻撃のすきを突いて空になった弾倉を交換する。

 そしてモンスターに距離を詰められる前に素早く攻撃に戻る。

 弾薬は使えばなくなるのだ。

 可能な限り効率よく戦うように心がけながら引き金を引き続ける。


 アキラは空になった弾倉を間違えないように離れた場所に投げ捨てているが、その場所にある空の弾倉は既に大分まってきていた。


 アルファのサポートがないため、アキラの射撃の腕は平均より少し高い程度だ。

 交戦中のモンスター達を効率よく撃破できるほどではない。

 アキラはそれを銃弾の数で補っている。

 そのため銃弾の消費量が普段よりかなり多くなっている。


(……リュックサックにはまだ予備の弾薬が残っている。

 それを使用しなければならなくなったらアルファを呼ぼう。

 ここがアルファのサポートを受けられない場所でなければの話だけど。

 ……それを確認するために、今のうちにアルファに声をかけるべきか?)


 アキラは僅かに悩む。

 しかしアキラはすぐに結論を出す。


(いや、駄目だ。

 それは気の緩みだ。

 この状況での気の緩みは致命的だ。

 それにこの程度の状況に自力で対応できないようだと、そのこと自体がいつか致命的になる。

 もっと強くなるためにも、今はこのまま戦う!)


 アキラはより一層気を引き締めて戦闘を継続した。


 アキラはより強くなろうとしている。

 より強くなるための努力も、より強くなるための危険も、アキラはいとわずにいる。

 その渇望の源は、元々はアキラのい上がろうとする意思だった。

 しかしそれ以外のものが混ざりつつあるのに、アキラは気付いていなかった。


 戦闘が続く。

 遺跡内部に響き渡る銃声が遺跡の奥にいるモンスターを呼び寄せ、響き渡る銃声を継続させていく。

 それは引き金を引く者がいなくなるまでいつまでも続いていく。


 そしてついに引き金を引く者がいなくなった。


 最後に引き金を引いたのはアキラだった。

 最後に発射された弾丸が、最後のモンスターの頭部を吹き飛ばす。

 地下街周辺のモンスターが殲滅せんめつされ、銃撃対象がなくなったことにより、戦闘はようやく終了した。


 地下街に静寂が戻る。

 アキラは警戒を解かずに周囲を見渡している。


 5秒ち、10秒っても静寂は続いている。

 更に10秒った後、エレナが気を緩めて笑って話す。


「反応無し。

 追加の敵影も無し。

 もう大丈夫よ」


 エレナ達がようやく警戒を解いた。

 アキラは大きく息を吐いた。


 アキラが床に置いていた予備の弾薬は残り僅かになっていた。

 アキラはアルファのサポート無しでこの戦闘を生き延びたのだ。

 少しだけ自信をつけたアキラは軽く笑った。


 サラが笑いながらアキラに近づいて話す。


「結構余裕そうね。

 やるじゃない。

 クズスハラ街遺跡の奥にいたやつが混ざっていたから、普通はあの辺の警備の経験がないハンターだと、結構大変なはずなのよ?」


「弾薬費なんか気にせずに撃ちまくりましたから。

 そういう意味だと余り余裕はないんですけどね。

 このままだと大赤字です。

 サラさん達が言うちょっと手強てごわいモンスターを倒すのに、ちょっとどころでは済まない弾薬を消費しましたから。

 あれ、クズスハラ街遺跡の奥にいるやつなんですか?」


「そうよ。

 あれでもクズスハラ街遺跡の奥では小物よ。

 大物は戦車とか使って倒すやつだから、ここには流石さすがにいないと思うけどね。

 仮にいたとしても、かなり大型のモンスターだから通路に引っかかって動けないはず。

 ここで交戦することはないと思うわ」


 エレナが少し楽しげに笑って話す。


「さて、今のところ赤字なのは私達も一緒。

 その赤字を解消するために、この辺の遺物を集めて回りますか」


 エレナが改めて周囲を見渡す。

 地下街は半壊している。

 ハンターもモンスターも、ここにある遺物のことなど全く気にせずに交戦したからだ。

 この地下街そのものは旧世界の建造物ということもあり非常に頑丈だが、そこにある商店の品物まで頑丈であるとは限らない。


「……真面まともな遺物が残っていれば、だけどね」


 エレナはそう言って苦笑した。

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