第49話 エレナの判断

 アキラの反応からエレナ達もカツヤ達に気が付いた。

 カツヤ達を見たシカラベの表情が不機嫌になり、エレナは少し頭を抱え、サラは苦笑していた。


 アルファがアキラにくぎを刺す。


『分かっていると思うけれど、め事を起こしては駄目よ?』


『分かってる。

 エレナさん達もいるんだ。

 向こうだって別にめ事を起こすつもりはないだろう』


『どうかしらね』


 アキラは楽観的に捉えているが、アルファは僅かに険しい表情でそれを否定した。


 またアキラが何か仕出かすかもしれないとアルファは考えている。

 アキラはアルファの態度からそう判断して、自重するように自身に言い聞かせた。


 エレナが軽くめ息を吐いた後にシカラベに確認を取る。


「ドランカム内のめ事は、そっちで調整してもらえるのよね?」


「当然だ。

 相手が何を言おうと、俺に丸投げしてくれれば良い」


 シカラベはそう言い切った。

 事情を理解していないアキラがエレナ達の顔を見る。

 察したサラがアキラに説明する。


「エレナが言ってたでしょ?

 人員の相性で問題があったって。

 元々はもっと多い人数で探索する予定だったのよ。

 でもドランカムがメンバーとして派遣したハンターの中にシカラベと非常に仲の悪いハンターがいたみたいで、シカラベが合流を嫌がったのよ」


 アキラはサラとエレナから事情を説明してもらった。


 サラ、エレナ、シカラベの3人は前線基地構築補助作業の依頼を受けたハンターだ。

 サラとエレナは2人1組のチームとしてモンスターの哨戒しょうかい及び迎撃任務に就いていた。

 シカラベはドランカムから派遣されたハンターとして同僚とともに類似の任務に就いていた。


 クズスハラ街遺跡の奥部へ続く通路を確保するために、仮設基地の建設現場では多くの作業員が瓦礫がれきの撤去や道路の舗装を行っている。

 瓦礫がれきが散乱する遺跡内部では戦車などの運用が難しい。

 高層ビルの内部に生息するモンスターも多く、大きさの問題で人型兵器では対処ができない状況も多い。

 そのため多数のハンターがモンスターへの対応策として運用されている。


 整備済みの通路が仮設基地から遺跡の奥に延びていくほど、襲撃してくるモンスターも遺跡の奥にむ一層強力な個体になる。

 そのような強力なモンスターと交戦するため、前線には必然的に実力のあるハンターが任務に就いていた。


 しかし遺跡の外周部、比較的弱いモンスターしかいないはずの場所にヤラタサソリの群れの存在が確認され、更にその住みである地下街に大量のヤラタサソリとその巣が存在していることが判明する。

 地下街は広くクズスハラ街遺跡の奥に通じている可能性まで考えられた。


 仮設基地構築の司令部は地上部の通路確保のために確保していたハンターの一部を、仕方なく地下街の制圧にまわすことにした。

 それがサラ、エレナ、シカラベの3人が地下街にいる経緯だ。


 3人とも元々前線に配置されていた実力のあるハンターだ。

 その3人に現場のハンターを数人加えれば探索チームとして十分機能する。

 シカラベがドランカムに所属していることも有り、ドランカムから追加人員を派遣して探索チームとする予定だった。


 しかしそこで問題が起こる。

 ドランカムから派遣された追加のハンターがカツヤ達だったのだ。


 ドランカム内でシカラベとカツヤは完全に敵対していた。

 特にシカラベはカツヤが大嫌いだった。


 シカラベはカツヤ達が自分達の探索チームに加わることを強硬に反対した。

 カツヤ達を加えるならば自分は抜けること、カツヤ達がいない分の負担は自分が責任を持つこと、その他いろいろなことを言いだした。

 万一の事態には自身がおとりになり、エレナ達は自分を見捨てて逃げてもかまわないとまで言い切った。


 これはドランカム内部でのめ事だ。

 シカラベの実力やシカラベがドランカムの幹部と仲が良いことも有り、最終的にシカラベの我がままが通った。

 その後エレナ達にカツヤ達以外の追加要員として本部からアキラが送り込まれたのだ。


 アキラがサラとエレナから事情を説明されている間も、シカラベとカツヤは口論を続けていた。


 カツヤがシカラベをにらみ付けながら話す。


「いい加減にしろ!

 俺はもうあんたの部下じゃないんだ!

 あんたの指示に従う義理はない!

 あんたの我がままでエレナさん達にどれだけ迷惑が掛かっているかも分からないのか!?」


 シカラベが喧嘩けんか腰で嫌悪を隠しもせずに答える。


「お前らを加えること自体が、それ以上の迷惑だと理解してからほざけ。

 せろ」


 歩み寄る気が全くない2人の口論だ。

 この口論が事態の解決につながることはないだろう。


 エレナ達に同行できると聞いてカツヤは喜んでいた。

 成長した自分達の実力をエレナ達に見せて、自分達の評価を取り戻す良い機会だと考えていた。

 シカラベも同行することに不満があったが、カツヤはそれは我慢するつもりだったのだ。


 しかしシカラベはその機会そのものを彼の我がままで握りつぶしている。

 カツヤがシカラベを敵視するのは当然とも言えた。


 カツヤが険しい表情でシカラベを説得しようとする。


「このまま3人だけで探索を続ける気か?

 俺が嫌だからってドランカムから別のハンターが派遣されることはないぞ。

 いつまで意地を張る気なんだ?」


 カツヤはドランカムの管理側に連絡を取っていた。

 カツヤ達を探索チームにかたくなに加えようとしないシカラベに、管理側から指示や命令を出してもらうためだ。


 管理側の決定は、現場で話を付けろ、だった。

 管理側としてはドランカムの古参で実力もあるハンターのシカラベと、若手のハンターの代表的な立場になりつつあるカツヤのどちらかに、管理側の権限で行動を強制するのは避けたかったのだ。


 管理側が一度シカラベの肩を持ったことは、ドランカム側から他のハンターを派遣しないことで相殺としている。

 シカラベの実力では対処が困難なほどモンスターの脅威度が高ければ、カツヤ達が探索チームに加わることができるだろう。

 カツヤはそう考えて、探索から返ってきたシカラベ達に接触したのだ。


 シカラベが軽く笑って答える。


「ああ。

 大丈夫だ。

 追加要員なら本部が用意してくれた。

 アキラだ。

 実に強そうだろ?

 昨日も大量のヤラタサソリを撃退したハンターだ。

 本部のお墨付きだぞ?」


 そう言ってシカラベがアキラをカツヤに紹介した。

 カツヤ達の視線がアキラに集中する。

 カツヤ達はアキラのことに気付いていたが、探索チームの追加要員だとは考えていなかった。

 単にエレナ達の知り合いなので話していたのだろうと思っていたのだ。


「……そいつはドランカム所属のハンターじゃないぞ?」


「だから何だ?

 本部がわざわざ用意してくれた人員だ。

 何の問題もないな。

 第一エレナとサラだって、ドランカム所属のハンターじゃないだろう」


「十分な戦果が見込める依頼で人員の追加が必要な場合は、ドランカム所属のハンターを優先して追加する決まりだろ!」


「それは役立たずを連れて行って苦労した挙げ句、報酬まで分け与えろって意味じゃないんだよ。

 今までの経験で勘違いでもしてたのか?」


 カツヤを馬鹿にするシカラベと、シカラベを激昂げっこうしてにらみ付けるカツヤは、完全に喧嘩けんか腰で言い争っていた。

 2人ともこの場で交戦しないだけの理性は残っているがそれだけだ。

 周囲に多数のハンターがいる状況でなければ危険だったかもしれない。


 いつまでも続きそうな2人の口論は、エレナに遮られることで終了する。


「時間よ。

 出発するわ」


 エレナはそれだけ言って歩き出した。

 サラとアキラがそれに続く。

 シカラベはカツヤを小馬鹿にするように笑ってからエレナ達の後を追った。


 カツヤは去っていくシカラベの姿をにらみ続けていた。

 その視線がアキラに移る。


「……また、あいつか!」


 アキラがいなければシカラベが折れてカツヤ達を探索チームに加えたかもしれない。

 カツヤは無意識にそう断定して忌ま忌ましそうにつぶやいた。




 エレナが率いる探索チームに加わったアキラは険しい表情で地下街を進んでいた。


 探索チームには様々な役割が割り当てられている。

 アキラ達第9探索チームの主な仕事は、地下街の未調査部分のマップ構築だ。

 地下街の構造を最低でも大雑把おおざっぱに把握するために、調査機器で地下街を探索して地下街の全体マップを構築するのだ。


 当然ながら探索場所は未知だ。

 生息しているモンスターの種類も規模も不明だ。

 その上地下街は迷路のように入り組んでいる。

 防衛地点やそこに続く通路には照明が設置されていたが、地下街の未調査部分にそんなものはない。

 光などなくとも活動可能なモンスターの領域だ。


 事前情報なしという危険な領域を探索し、地下街の構造や徘徊はいかいしているモンスターの情報を持ち帰り、後続の討伐チームなどのために最低限の安全を確保する。

 それが探索チームの仕事であり、エレナ達の仕事であり、アキラの仕事だ。


 アキラ達はその最低限の安全がない状態で地下街を進んでいる。

 それはアキラの体力と精神をアキラの予想以上に疲弊させていた。


 エレナを中心にして、シカラベが前、サラが左、アキラが右の配置を保って一行は地下街を進んでいく。

 4人全員で一応照明をけているが、広大な地下街を照らすのに十分な光量とはとても言えず、少し離れた場所は闇に飲まれたままだ。

 その地下街をアキラ達は各自の情報収集機器などで周囲を把握しながら先に進んでいた。


 アキラ達はかなりの移動速度で地下街を進んでいる。

 アキラの感覚では早すぎるペースだ。


 アキラは知らなかったが、エレナはアキラの実力を確認するために全体の移動速度を少し落としていた。

 その上で、アキラはぎりぎり遅れないのが精一杯だった。


 アルファは訓練を兼ねてアキラに自分で索敵を行わせていた。

 しかしエレナ達とアキラの実力差から生じるアキラの疲労状態を考慮して取りやめることにした。


 アルファがアキラに指示を出す。


『アキラ。

 索敵の訓練は中止よ。

 私が索敵を引き継ぐから少し休みなさい。

 その調子だと何かあった時にアキラの疲労が限界に来るかもしれないわ』


『……悪い。

 正直限界だった。

 頼んで良いか?』


勿論もちろんよ。

 もう警戒は私に任せて、アキラは少し気を緩めなさい。

 緊張は疲労を想像以上に早めるからね。

 何かあった時に疲労が原因でアキラの動きが鈍る方が不味まずいわ』


『すまん。

 頼んだ』


『任せなさい』


 アルファが自信を持って答えた。

 それはアキラに大きな安心感を与え、アキラの索敵動作に明確な緩みを生み出した。


 シカラベがアキラに意識を向けていたことにアキラは気付いていなかった。

 シカラベが唐突にアキラに尋ねる。


「アキラ。

 右の状況は?」


 アキラが少し驚きながら答える。


「……50メートル先にヤラタサソリが3体いる。

 動かないから多分死んでる。

 擬死だとしても進行方向でもないし近寄ってくる気配もないから無視して良いだろう」


 シカラベがエレナを見る。

 エレナに状況の確認を求めているのだ。

 エレナが簡潔に答える。


「あってるわ」


 シカラベはエレナの返事を聞いて少し意外そうな表情を浮かべて話す。


「了解だ。

 何だ、索敵をサボり始めたかと思ったが、ちゃんとやってるな。

 俺の勘の方が鈍ったか?」


 アキラはアルファの言葉を繰り返しただけだ。

 何とか動揺を抑えて平静を保ったが、それでも表情には僅かな焦りと驚きの色が浮かんでいた。


(……ばっちりえ渡ってるよ)


 シカラベはアキラが気を抜いたことを正確に把握していた。

 熟練ハンターの実力の一端を垣間かいま見たアキラが、浮かびそうになった苦笑を握りつぶすために歯を食いしばる。

 そのためアキラの表情は少し硬いものになっていた。


 シカラベは別にアキラを注意するつもりで尋ねたわけではない。

 元々アキラは火力担当として加わったのだ。

 アキラの索敵能力に少々不備があってもエレナが補えばすむだけだ。


 気になるのならば念のためにシカラベが右側の警戒を少々高めて対応すれば良い。

 右側の警戒を高めるべきかどうかを判断するための質問だったのだ。


 サラとエレナもアキラの索敵に少し驚いていた。

 情報収集要員であるエレナに迫る精度だったからだ。

 アキラが索敵においてもそこまで優秀だとはサラもエレナも予想外だった。

 2人の予想は正解でもある。

 実際に周囲を警戒していたのはアルファだからだ。


 シカラベが上機嫌に話す。


「火力担当として加えたのに索敵も優秀。

 大当たりだな。

 カツヤを外した甲斐かいがあったってものだ」


 エレナが不満げに話す。


「アキラや私達をドランカム内のめ事に巻き込むのは止めてもらいたいわ」


「そう言うなよ。

 我がままを言った借りは、俺が先頭に立つことでしっかり返しているだろ?

 最終的にはリーダーの同意も取ったじゃないか」


 アキラが少し意外そうにエレナの方を見る。

 エレナはカツヤ達5人よりシカラベ1人の方が戦力になると判断したことになるからだ。


 アキラにはカツヤ達がそこまで弱いとは思えない。

 そしてシカラベがそこまで強いとも思えない。

 アキラの疑問はエレナにしっかり伝わった。


 アキラの様子に気付いたエレナが釈明するように答える。


「……別にシカラベの肩を持ったわけじゃないわ。

 シカラベを外してカツヤ達を加えた場合の問題点を考慮しただけよ。

 例えば、地下室の通路の幅が狭い場合は、数の利点が生かせないこともあるわ。

 その場合は1人で様々な状況に対応できる人間がいた方が良いのよ。

 それに人数が増えると移動速度を上げるのも難しくなるわ。

 後は……」


 エレナが少し言いづらそうに続ける。


「……何かあった場合に、カツヤ達が私の指示に大人しく従ってくれるかどうかが微妙なのよね」


 エレナも気の進まない選択をしたことは自覚があるようだ。


 サラが苦笑しながらアキラに話を付け足す。


「エレナはちょっと心配性なところがあるけど、皆の安全を考えての判断なの。

 ただでさえ即席の部隊で、しかも部隊の人数が多いといろいろあるかもしれないからね。

 余り悪く捉えないであげてね」


 アキラが笑って答える。


「いえ、人数が多い方が安全だろうと素人考えで判断して少し不思議に思っただけです。

 エレナさんの判断を疑ったとか、そういうことではありません。

 エレナさんの判断なら俺も正しいと思います」


 シカラベが上機嫌に付け加える。


「同感だな。

 俺もエレナの判断は的確だと断言しよう。

 俺は連中とはちょっと縁があって連中のことはいろいろ知っているんだ。

 カツヤは自分の判断が正しいと考えて勝手に動く。

 ユミナとアイリはカツヤを擁護してカツヤの指示に従う。

 レイナは癇癪かんしゃくを起こして勝手に行動する。

 シオリはレイナの安全第一で行動する。

 全員問題有りだ。

 特にカツヤはあいつが不満を持つ指示を受けたら、多数決だとか言いだして絶対指揮権を奪いにくる。

 他の4人がカツヤを支持するから、確実にあいつの意見が通ることになる。

 しかもあいつはそのことに素で気が付かずに、皆で決めたことだとか言って押し通すだろう。

 絶対だ。

 そうなったら危険な未調査区域の中で部隊は崩壊だ。

 下手をすれば全滅だ。

 だからあいつらを連れていくなんて判断は、ない」


 シカラベはそう断言した。


 アキラにはシカラベの発言が事実かどうかは分からない。

 しかしシカラベがカツヤを嫌っていることだけはしっかり伝わった。


 エレナがめ息を吐いて話す。


「……その情報の精度は別にして、その手の懸念事項は減らしておきたい。

 それがカツヤ達を連れて行かなかった一番の理由よ。

 私も誤った指示を出さないように精進するから、アキラもなるべく私の指示に従ってちょうだい。

 そう指示する理由を知りたい場合は、尋ねてもらえればちゃんと答えるから」


「分かりました。

 大丈夫です。

 仮にエレナさんの指示が多少間違っていても、俺の判断よりは良い結果になると思ってます。

 俺が指示の理由を聞いた時は、その指示に不満があるんじゃなくて、その指示の理由を理解して勉強しようとしていると思ってください」


 アキラは本心でそう答えた。

 アキラは自分に優れた判断力があるとは欠片かけらも思っていない。

 そしてエレナ達の実力はアルファも認めていた。

 ならばアキラにエレナの判断を疑う理由はない。


 エレナが少し照れながら答える。


「その信頼に応えられるように頑張るわ」


 サラがエレナを見てにやにやしている。

 エレナがサラの様子に気付いて少し威圧的な笑みをサラに向ける。

 サラは視線を素早く地下街の通路の奥へ向けた。


 一行は順調に地下街の探索を続けていた。

 地下街は元々入り組んだ構造の上に、落盤などで塞がれている通路やシャッターなどで封鎖されている場所の所為で、今では迷路に近い有様だ。


 その地下街を迷ったりせずに進むことができるのは、エレナの高い情報収集能力のおかげだ。

 エレナは地形情報を取得して地下街の見取図を作成しつつ、移動距離や周辺の情報から正確な現在位置を割り出している。

 そしてモンスターが生息している場所や、襲撃された場合に不利になる場所を割り出し、安全なルートを選択して地下街を進んでいるのである。


 アキラ達は途中数度モンスター達と交戦した。

 大半は先頭にいるシカラベが一人で撃退し、モンスター数が多い場合は4人がかりで殲滅せんめつした。

 遭遇したモンスターはそのほとんどがヤラタサソリで数も少ない。

 苦戦を強いられる要素などなく一行は順調に探索を進めていた。


 アキラ達の中で一番負担が多いのは先頭のシカラベだ。

 シカラベは宣言通りカツヤ達の代わりになるだけの戦果を上げていた。


 当然だがそれだけシカラベが多く消耗することになる。

 体力も精神も、消費する弾薬の量もだ。


 そろそろ交代した方が良いだろう。

 エレナがそう判断する。


「サラ。

 そろそろ先頭と交代して」


「分かったわ」


「まだ交代するほどの疲労はない。

 もう少し後でも大丈夫だ」


 シカラベが続行を提案するが、エレナが却下する。


「体力は十分でも弾薬は消費したでしょう?

 余裕があるうちに交代した方が良いわ。

 疲労の回復でも、弾薬消費量をならすためにもね」


「了解だ。

 ……なら一度アキラを先頭にしないか?」


 シカラベがそう提案すると、エレナが怪訝けげんな顔をする。


「アキラを?」


「万一に備えて、念のためアキラがどの程度戦えるか確認しておきたい。

 俺らに余裕がある時なら、仮にアキラが不覚をとっても十分カバーできるだろう。

 どうだ?

 まあ、アキラが嫌なら無理強いはしない」


 確かに本格的な戦闘になった場合にアキラがどの程度エレナ達の足を引っ張るかは早めに確認しておいた方が良いだろう。

 アキラもそう判断してエレナに答える。


「俺は構いません。

 どうします?」


 最終的な判断をするのはエレナだ。

 エレナがアキラの実力では任せられないと判断するなら、アキラはそれで構わなかった。


 エレナがアキラの表情を確認する。

 アキラが欠片かけらでも嫌がるようなら、エレナはアキラを先頭に立たせる気はなかった。


 アキラの表情から先頭に立つことに対する緊張は感じられなかった。

 ただし前面に出て活躍したいという気迫も感じられない。

 つまりアキラはどちらでも良いと考えている。

 エレナはそう判断した。


 エレナはシカラベの意見も一理あるとしてシカラベの案を受け入れる。


「分かったわ。

 アキラはシカラベと交代して。

 アキラは絶対無理をしないこと。

 サラとシカラベは、私の指示を待たず2人の判断でアキラが危険だと判断したらすぐに援護に入ること。

 良いわね?」


「分かりました」


「分かったわ」


「了解だ」


 アキラは普通に、サラはアキラとエレナを安心させるように、シカラベはどこか楽しそうに答えた。


 移動を再開する前にアルファがアキラに尋ねる。


『今のうちにアキラに聞いておくけれど、私はどの程度アキラをサポートした方が良い?』


 アキラにはアルファの質問の意図が分からなかった。

 アキラが少し不思議そうに答える。


『……どの程度って、できる限りしっかり頼む』


『一応提案しておくわ。

 ここで多少手を抜いて、防衛チームに配属されるのを期待するって手もあるわ。

 ここで活躍しすぎると、明日はもっと危険な場所に配属されるかもしれない。

 それを踏まえて、どうする?』


 アルファの説明で、アキラはやっと理解が追いついた。

 確かにその手もあるのだろう。

 アキラはアルファの説明に一応の納得を示した後で答える。


『……確かにそういう考えもあるけど、そんなことをするとエレナさん達に迷惑が掛かる。

 構わずに全力でサポートしてくれ』


『まあ、そう言うと思っていたわ。

 了解したわ。

 任せなさい』


 アルファは微笑ほほえんでそう答えた。

 アルファは少しずつアキラの思考を理解し始めていた。

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