第35話 情報収集機器

 アキラが荒野をバイクで駆けている。

 単独で受けた巡回依頼の最中だ。


 バイクにはハンターオフィスから貸し出された車載型の情報収集機器が積まれている。

 この情報収集機器は周囲の索敵と同時に移動ルートや索敵範囲、遭遇したモンスターの数や種類、撃破数などを記録している。

 その記録から評価額を算出した後に、機器のレンタル代や破損時の修理代を引いた額が依頼の報酬として支払われる。


 強力なモンスターが多数徘徊はいかいしている危険地帯を巡回すれば報酬も上がり、安全な場所で暇潰しだけをしていればレンタル代で赤字になる。

 運が悪いとモンスターの群れと一人で戦う羽目になるが、勝てば討伐報酬の総取りが可能で、見切りを付けて逃げ出す判断も他者の意思に左右されない。

 前回のような集団での巡回依頼に比べて利点も欠点も多いが、今のアキラには利点の方が多かった。


 アキラはアルファと念話で雑談しながら巡回依頼を続けていた。

 誰かと話しているような独り言が記録され続けるのを防ぐ念のための処置だ。


『モンスターの群れと遭遇したら大変だって思ってたけど、群れどころか単体との遭遇もまばらだな。

 ちょっと拍子抜けだ』


『先日の騒ぎで山ほど倒した後だからね。

 どちらかと言えば、それだけ倒してもまだ残っているのよ。

 いつも通りの遭遇率に戻るまでの期間も、そう長くはないと思うわ』


 アキラが僅かに顔をしかめる。


『今はつかの間の平和ってわけか。

 そう考えると多すぎだな。

 そんなに大量にどこから湧いて出てきてるんだ?

 定期的に間引いてもすぐに戻るんだろう?』


『未発見の、あるいは防衛装置が強力すぎて攻略不可能の遺跡の生産装置で、無尽蔵に製造され続けているとかでしょうね。

 生産場所が近場にあるのか、遠くから流れてきているのかは分からないけれどね』


『機械系はそうかもしれないけどさ……』


『生物系もよ』


 アキラが怪訝けげんそうな顔を浮かべる。


『工場で生物系モンスターを製造するのか?

 繁殖とかじゃなくて?』


 アルファが自分の知識を自慢するように少し得意げに微笑ほほえむ。


『そうよ。

 生物を製造するぐらい旧世界の技術なら簡単よ。

 家畜、ペット、護衛、生物兵器。

 用途は様々でしょうけれど、自然交配では困難な高品質を求めるのなら、一から製造するでしょうね。

 まあ、当時はしっかり管理されていて、むやみに無差別に人を襲うような存在ではなかったと思うわ。

 付け加えれば、一部の機械系モンスターも自己修復機能とかを応用して繁殖するわ。

 だから製造元の工場を破壊してもモンスターが劇的に減ったりはしないでしょうね』


『……旧世界ってのは、聞けば聞くほど無茶苦茶むちゃくちゃだな』


『アキラはそんな無茶苦茶むちゃくちゃな世界の遺跡にこれからも何度も足を運ぶのよ?

 より良い装備を整えて、もっと実力を身につけて、そんな場所でも死なずに済むように頑張りなさい。

 その訓練として、手始めにあれを自力で倒せるかどうか確認しましょうか。

 アキラ。

 モンスターよ』


『了解』


 この巡回依頼は射撃訓練を兼ねている。

 アキラは新たな的の姿を確認するとバイクをめた。


 モンスターは小型の肉食獣のような姿をしている。

 発達した四肢を毛皮で隠しており、そこまで強力には見えない。

 事実この周辺では弱い分類のモンスターだ。


 だが人を食い殺すには十分な身体能力を持っている。

 荒野を彷徨うろつける生物という時点で、それを可能にするほどの飛び抜けた生命力を持っている証拠だ。

 普通の人間にはそれだけでも十分な脅威だ。


 アキラが強化服の身体能力でCWH対物突撃銃を支えて照準を合わせる。

 だが強化服の操作も未熟な上に、CWH対物突撃銃の扱いにもまだ慣れていない所為で、銃口から伸びている弾道予測の線は細かな揺れを繰り返していた。


 アキラは真剣な表情で大きく息を吸い、可能な限り集中して引き金を引いた。

 弾丸が銃声を響かせて撃ち出され、空中を貫きながら飛んでいき、モンスターの足下に着弾した。


『外れ。

 惜しいわね』


『弾道予測線有りでも駄目か。

 完全に自力で当てられるようになる日は遠そうだな』


『訓練と安全のために遠目の距離から狙っている所為もあるわ。

 くよくよしていないで頑張りなさい。

 的が近付いてくるわよ』


『了解。

 次だ』


 アキラに気付いたモンスターが勢い良く駆け出して、強靭きょうじんな四肢で地面を蹴り、アキラとの距離を急激に詰めてくる。

 照準器越しに見える顔には敵意と食欲が満ちていた。


 今すぐにバイクに乗って逃げ出せ。

 あるいはアルファにサポートを求めろ。

 湧き出てくる恐怖がアキラにそう訴え続けている。

 アキラは急速に距離を詰めてくる的に狙いを定めながら、銃弾を外すたびに強くなるその要望を握り潰しながら、真剣な表情で銃撃を続ける。


 そしてついに銃弾がモンスターの胴体に着弾した。

 被弾したモンスターが急激に動きを鈍らせる。

 アキラはそのまま冷静に撃ち続けて、モンスターにしっかり止めを刺した。


 アルファが笑って健闘をたたえる。


『お見事。

 悪くなかったわよ?』


『どうも。

 まあ、これなら弾薬費で赤字にはならないだろう。

 だよな?』


『多分ね』


『良し』


 アキラは気合いを入れるようにうなずいて軽く笑った。


 再び荒野の巡回に戻ったアキラが何となく尋ねる。


『アルファ。

 そういえばこの巡回依頼だけど、俺のハンターランクがある程度上がるまで続けるんだよな。

 前の緊急依頼で17まで上がったけど、具体的にはそこからどこまで上げるんだ?』


『20を目安にしているわ。

 荒野仕様の車を借りるにはそれぐらい必要なの。

 単純に借りるだけならもっと低くても良いのだけれど、車の性能とか保証金を含めたレンタル料とかの兼ね合いもあるのよ』


『車か。

 取りあえずバイクがあるんだし、そんなに優先しないと駄目なのか?』


『駄目よ。

 このバイクだと予備の弾薬を運ぶ量にも限度があるわ。

 いずれ他の遺跡に探索にも行くからその装備を整える必要があるけれど、荒野仕様の車は高いからね。

 当面はレンタルになるわ』


『他の遺跡か。

 今のうちにバイクでちょっと寄ってみるぐらいはしても良いんじゃないか?』


『車を含めて装備をしっかり整えてからよ。

 できれば情報収集機器も手に入れておきたいわ。

 他の遺跡へ探索しに行くのはその後ね』


『うーん。

 回復薬とか探したかったんだけどな。

 それぐらいならバイクでも運べるだろう?』


『言っていなかったわね。

 私の索敵はクズスハラ街遺跡以外だと精度が非常に落ちるの。

 情報収集機器はそれを補う重要な装備よ。

 それでも行きたい?』


『よし。

 止めよう』


 アキラはあっさり引き下がった。

 今の自分の実力でアルファの索敵無しに遺跡に入るなど自殺と変わらないと理解している。

 遺跡の中で四方八方から奇襲を受け続けるなど御免だった。


『車の他に、情報収集機器も買わないといけないのか。

 金が飛んでいくな。

 1200万オーラムも稼いだはずなのにどんどん減っていく。

 CWH対物突撃銃も結構高かったしな』


『ハンター稼業とはそういうものよ。

 稼ぐ以上に金が掛かるのなら、そこでハンター稼業に精を出すのは早すぎる。

 そういうことよ』


『……。

 そうだな』


 自身の実力を過信した結果、身の程を超える難度の遺跡に入って命を落とすハンターは幾らでもいる。

 それはアキラも同じだ。

 アルファに出会わなければアキラもあの場で死んでいた。


 あの日の数奇な縁が今も自分を生かしている。

 アキラはそれを改めて自覚して苦笑をこぼした。




 アキラがシズカの店を訪れるとエレナ達がシズカと談笑していた。

 弾薬の注文をしながらその雑談に混ざっていると、強化服の話題の中でエレナの強化服の話になった。


 アキラはエレナが今まで強化服を着用していなかったと知ると意外そうな表情を浮かべた。


「……エレナさんの服は防護服だったんですか。

 結構重そうな装備品を付けていたのを見たこともありましたし、強化服だと思っていました。

 見かけによらずに力持ちなんですね」


 サラがアキラの反応を見て楽しげに笑う。


「そうなのよ。

 エレナはそれで自分はか弱いとか言うのよね。

 アキラ。

 無理があると思わない?」


「え、あ、いや……」


 アキラは下手に肯定もできず戸惑いを見せていた。

 その横でエレナが不服だと言わんばかりに続ける。


「A4WM自動擲弾銃を片手で振り回す人間に言われたくないわ。

 あれ、弾薬込みでどれだけ重量があると思ってるの?」


「私はナノマシン補助系身体強化拡張者なんだから当然よ。

 ナノマシンが抜ければ私は十分か弱いわ」


「その時はサラの自慢の胸もかつての貧乳に戻るけどね」


 エレナとサラがすごみの利いた笑顔で微笑ほほえみ合う。

 アキラはそれが自分に向けられていないのにもかかわらず威圧されていた。


 そのエレナ達の様子を楽しげに見ていたシズカだったが、アキラの様子に気付いて苦笑しながら仲裁に入る。


「2人ともそれぐらいにしなさい。

 アキラが気圧けおされてるわよ?

 熟練ハンターの威圧感をこんなところで見せてどうするのよ」


 エレナとサラはシズカの仲裁で威圧を抑えると、何となく視線をアキラに向けた。


 アキラが戸惑いながら仲裁のような御機嫌取りの言葉をつたない語彙からひねり出す。


「あー、その、か弱いかどうかは分かりませんが、エレナさんはすらっとしていて美人だと思いますよ?」


 エレナはアキラの言葉が場をなだめるためのものだと交渉役の経験からすぐに察したが、同時に出任せのお世辞ではなく本心でもあることも同じように察して、結構うれしく思って大分上機嫌になった。


 サラが微笑ほほえみながらアキラをじっと見詰める。


「アキラ。

 私は?」


 その微笑ほほえみには明確な強制力があった。

 アキラが少し慌てながら答える。


「サラさんもとても美人だと思います」


 それでサラも上機嫌になった。


 シズカはそのエレナ達の様子を楽しげに見ていた。

 そして何となく自分も続ける。


「アキラ。

 私は?」


「シズカさんもとても美人だと思います」


 アキラもシズカが分かって聞いていると理解して普通に答えようとした。

 しかし僅かに照れがにじんでいた。


 アルファが微笑ほほえみながら続ける。


『アキラ。

 私は?』


『美人だよ。

 満足か?』


 アルファがアキラの御座形な態度に不満を表情に示して抗議する。


『だから何で私にはそう辛辣なのよ』


『間違いなく俺を揶揄からかっているだけだからだ。

 アルファに変な反応を示さないように注意しているんだから、邪魔をしないでくれ』


 アキラは視線をアルファに、エレナ達にとっての虚空に向けないように注意していた。


 シズカはアキラの言葉を予想外にうれしく感じた自分に少し驚きながら、その内心を隠しながら少し揶揄からかうように続ける。


「アキラ。

 取りあえず美人だと言っておけば大丈夫だと思っていない?」


「いや、俺に気の利いたことを言えって言われても無理ですよ。

 それに、取りあえずだとしても、うそは言っていません」


「そ、そう」


 場に何となく気恥ずかしい雰囲気が漂う。

 シズカ達は互いの僅かに赤い顔を見て、自分もそうなのだろうと自覚して、互いにそれを指摘されないように黙っていた。


 アキラが場の空気を誤魔化ごまかすように話題を振る。


「そういえば、サラさんは強化服は着ないんですか?」


「私?

 私は身体強化拡張者だからね。

 中途半端な性能の強化服だと逆に身体能力が下がるのよ。

 それにナノマシンと強化服の相性も考える必要もあるの。

 その問題を全部解決する高性能な製品も有るけど、高すぎてちょっと手が出せないわ。

 資金に余裕が出るまでは、ナノマシンの消費効率を上げる機能が付いた防護服の方が都合が良いのよ」


「なるほど。

 いろいろあるんですね。

 それで、エレナさんはどんな強化服を購入したんですか?」


 エレナが僅かな焦りを顔に出す。


「えっ?

 ま、まあ、結構高性能なやつよ。

 アキラと同じようにシズカに選んでもらったのよ」


「そうなんですか。

 やっぱり高性能な強化服だと、俺のやつとは見た目もいろいろ違うんでしょうね。

 どんな感じなんですか?」


「あー、何というか……」


 エレナが言葉を濁している。

 アキラは妙なことを聞いたつもりは全くなかったので、エレナの態度に戸惑っていた。

 するとシズカが少し不敵に微笑ほほえんだ。


「口では説明しにくいようだから、じかに見せてもらえば良いわ。

 来週ぐらいに届くからそれまで待っていなさい」


 エレナが慌て出す。


「ちょ、ちょっと!?」


「そうですか?

 分かりました」


 アキラは慌てるエレナを不思議そうに見ていたが、シズカの勧めなので取りあえず普通にそう答えた。


 エレナは勝手に約束を取り付けられたが、アキラに見せるのは嫌だとも何となく言い出せず、少し狼狽うろたえていた。

 慌てる理由を知っているシズカは悪戯いたずらっぽく微笑ほほえんでいる。

 同じくサラも悪いと思いながら笑いを堪えていた。


 アキラがエレナの情報収集機器を見てふと思う。


「そういえば、エレナさんの情報収集機器も、シズカさんお勧めの品だったりするんですか?」


 エレナが話題を切り替えるために素早く答える。


「違うわ。

 どこで買ったかは忘れたけど別の店で買ったものよ。

 シズカは情報収集機器を取り扱ってくれないのよね」


「うちはハンター向けの銃火器の店なの。

 よく知らない商品を取り扱うとトラブルの元になるから嫌なのよ。

 取り寄せぐらいはしているんだから、それで我慢しなさい」


「シズカの店はハンター向けの万屋よろずやでしょう?

 情報収集機器と連携する銃器も多いんだから、情報収集機器ぐらいは取り扱っても良いと思うけどね。

 アキラもそう思わない?」


 エレナとシズカの視線が、同意を求める者と求めない者の視線がアキラに向けられる。

 アキラは少し焦った様子で選択から逃げた。


「その、俺はその内に情報収集機器を買おうと思っていまして、シズカさんお勧めの製品が有れば参考になるかと思っただけです」


 シズカが首を横に振る。


「御免なさい。

 情報収集機器は流石さすがに専門外だわ。

 お勧めと言うのなら、エレナに勧めてもらうのが私のお勧めよ?」


「私?

 そう言われてもね。

 索敵、遺跡内の構造把握、遺物収集作業の補助。

 そういう用途からの選択の他にも、ハンター稼業の活動方針でも違ってくるし……」


 アキラに下手なものを勧めたくないと言う思いと、情報収集機器になまじ詳しいだけに生まれる選択肢の多さがエレナを悩ませていた。

 そして少しうなって考えている内に、家でほこりを被っている情報収集機器を思い出す。


「そうだ。

 私が前に試しに買ったけど、今は使っていない情報収集機器をアキラに売りましょうか?

 総合系の製品だけど、初心者にはむしろその方が良いと思うわ。

 その内バラして部品の剥ぎ取りに使おうかと思っていたけど、アキラが欲しいなら売るわよ?

 私には合わなかった製品だけど、試しに使ってみる?」


「エレナさんには合わなかったって、癖がある製品だったりするんですか?」


「癖はないというか、個性がないというか、簡単に説明すると……」


 使えないものを押しつけるわけではない。

 その弁解も兼ねてエレナが詳しく説明する。


 ハンター向けに販売されている情報収集機器を大きく分けると、単一系と総合系の製品に分かれる。

 単一系は特定の機能に絞った情報収集機器で、動体探査、反響収集、映像識別などの個別の機能に特化している。

 総合系はそれら複数の機能をまとめた上で、収集情報を基にして索敵結果の表示や立体マップの自動作成などの各種処理まで行う総合機器だ。


 両方に長所と短所がある。

 単一系ならば壊れてもその機器だけ買い換えれば済む。

 また他社製品と組み合わせて特定の機能を強化するなど、高い自由度を持つ。

 その反面、収集情報を有益な情報に加工するのはかなりの手間だ。

 収集情報の形式には一定の共通規格があるとはいえ、製品ごとの差異はかなり大きい。

 それを分析して有益な情報に成型するには高度な技術が必要だ。


 総合系ならばそれらの手間が省けるが、かわりに自由度は低くなる。

 自社製品を統合した製品が基本で、一部の機能が壊れただけでも丸ごと買い換えるか修理に出さなければならない。

 収集情報を基に索敵結果の表示などを行うプログラムの互換性も低い。


 エレナは単一機能の情報収集機器を組み合わせて、独自の情報処理を行うのを好んでいた。

 だが最近は総合系の製品の方が多く、人気の高いシリーズの製品も増えてきたので、一度試しに購入した。

 しかし実際に使ってみた結果、エレナの感覚では中途半端なものにしか思えず、結局そのままほこりを被らせていたのだ。


「……そういう訳で、チームを組むなら情報収集専門の人間がいても良いけど、一人で活動するなら総合系の製品を使った方が良いと思うの。

 個人で行動するハンター向けの、かなり小型なやつだから邪魔にはならないと思うわ」


 アルファがアキラに購入を勧める。


『良い話だと思うわ。

 問題はその予算がアキラにあるかどうかだけれど』


「えっと、できれば買いたいですけど、幾らぐらいになりますか?」


「そうね。

 アキラにとっては中古品だし、売っても安値で買いたたかれるだけだから取っておいただけのものだし、200万オーラムでどう?」


 エレナの提示額は相場から考えればかなり安い。

 それでもアキラの預金口座の大半が消える額であり、買えば再び風呂無し生活へ転落する第一歩になり兼ねない。

 アキラは僅かに湧いた躊躇ちゅうちょを、アルファとエレナとシズカの勧めという理由で踏み潰した。


「分かりました。

 支払は振り込みで構いませんか?」


「ええ」


 アキラが情報端末を操作して代金をエレナに振り込む。

 エレナもその場で振り込みを確認した。


「入金を確認したわ。

 交渉成立ね。

 それじゃあすぐに渡すから、今から私達の家まで一緒に取りに行きましょうか。

 シズカ。

 またね」


 エレナ達がシズカに軽く笑って店から出ていく。

 アキラも軽く頭を下げて後に続いた。




 エレナ達の家は普段アキラが泊まっている宿とは立地も外観も内装も別物だ。

 アキラはその違いに、自分とエレナ達のハンターとしての格の違いを感じながら、通された部屋でエレナを待っていた。


 エレナがほこりのかぶった箱を持って戻ってくる。


「これよ。

 一応完品……のはず。

 まあ、足りない物があったら中古品だと思って諦めてちょうだい。

 センバエレクトロニクス製の総合情報収集機器で、製品名はミッドナイトアイだったかな?

 私に合わなかっただけで、性能自体は結構高かったはずよ」


「ありがとう御座います。

 初期設定とか必要ですか?」


「私が試しに使った時の設定が残っているから、そのままでも使えるわ。

 使いにくかったら初期化すれば大丈夫よ」


 アキラが興味深そうな様子で箱を見ていた。

 エレナはその様子を楽しげに見ていたが、情報端末からのアラーム音を聞いて申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「御免なさい。

 お茶ぐらい出していろいろ説明するつもりだったけど、見付けるのに結構時間が掛かって無理になっちゃったわ。

 ちょっとした依頼の時間が迫ってるのよ」


「お気遣いなく。

 これで失礼します。

 いろいろありがとう御座いました」


 アキラは丁寧に頭を下げた。

 そして総合情報収集機器の箱を持ってエレナ達に見送られて家を出た。


 エレナ達の家を出た時、その近くにカツヤ達の姿が見えた。

 偶然カツヤと目が合ったが、アキラは気にせずそのまま通り過ぎた。




 宿に戻ったアキラが総合情報収集機器の箱を開けると、情報収集機器の本体である長方形の機械と様々な付属品が出てきた。

 それらを手に取って興味深そうに見ているとアルファから指示が出る。


『アキラ。

 早速それを情報端末とつないでちょうだい』


「また何かいろいろするのか?」


『当然よ。

 私のサポートが存分に受けられるように、ソフトウェア側は思いっきり書き換えるわ』


「そうか。

 まあ便利になるなら良いことだ。

 頑張ってくれ」


 アキラが情報収集機器を箱から取り出して情報端末とつなぐと、すぐにアルファが情報端末を介して情報収集機器の掌握を進める。


『エレナが使っていた時のデータが残っているわね。

 消した方が良いかしら?』


「どんなデータが残ってたんだ?」


『クガマヤマ都市周辺にある旧世界の遺跡の内部構造とか、いろいろなモンスターをスキャンしたデータとか、多分この情報収集機器以外で取得したデータも入っているわ。

 各機能の出力調整のデータとかもあるわ。

 恐らくエレナなりにいろいろ試行錯誤した結果がそのまま残っているわ』


「そうか。

 俺にはよく分からないからアルファの好きにしてくれ」


『分かったわ。

 エレナとサラの身体データも残っていたわ。

 多分機器のテストで試しに取ってみたのでしょうね。

 至近距離から取得したデータだから非常に精度が高いわ。

 ちょっと再現してみましょうか?』


「えっ?」


 次の瞬間、アキラの視界にその身体データからアルファの演算能力で再現したエレナとサラの姿の立ち姿が現れた。

 それを見た瞬間、アキラが驚きで硬直した。

 その姿は両方とも全裸だったのだ。


 エレナは痩せ形と表現するより、不必要な要素を絞り、必要な要素を凝縮した身体をしている。

 それを色艶の良い健康的な肌がより輝かせ、機能美と肉感的が矛盾なく同居していた。


 サラは美しく豊満な胸が分かりやすく悩殺的だ。

 腰や尻の調和の取れた起伏も、張りのある肌も、胸の谷間の陰影も、身体全体の魅力を更に高めていた。


 魅力の方向性が異なるだけでどちらの裸体も非常に魅力的だ。

 エレナもサラもそれを惜しげも無くさらしながら、美女と呼べるだけの美貌にそれぞれの性格を表した笑顔を乗せてアキラに向けていた。


 アキラは恩人の裸体に衝撃を受けて少し見れていたが、我に返るのと同時に叫ぶ。


「すぐに消せ!」


 すぐにエレナ達の姿がアキラの視界から消える。

 その横でアルファが意外そうにしている。


『別にそこまで慌てなくても良いじゃない』


 アキラが片手で少し赤い顔を押さえながら、アルファに非難気味な視線を向ける。


「……何で裸だったんだ?」


『身体データから姿を再現したからよ。

 服は別データになっていたわ』


「……取りあえず、二度としないでくれ。

 今度エレナさん達に会った時に思い出したら気まずくなるだろう」


『アキラはそういうの慣れていたと思っていたけれど、違ったの?』


「相手と状況による!」


『そういうものなの?』


「そうだよ!」


 アルファが納得しているのかしていないのか微妙な表情を浮かべる。


『まあ良いわ。

 するなと言われればしないから安心して。

 それより明日は遺跡に向かうから銃の整備はしっかりしておいてね』


 アキラがまだ少し赤い顔で尋ねる。


「車がレンタルできるようになるまで遺跡には行かないんじゃなかったか?」


『情報収集機器の性能が予想以上に良さそうだし、エレナ達が残した遺跡のデータもあるわ。

 その上で比較的安全な遺跡に向かうわ。

 情報収集機器の扱いにも慣れないといけないしね』


「……そうか。

 分かった」


 アキラが銃の整備を始める。

 2ちょうのAAH突撃銃とCWH対物突撃銃だ。

 この3ちょうの銃が今のアキラの生命線だ。


 アキラはCWH対物突撃銃の整備にまだ慣れていない。

 そのためしっかり確実に整備するように注意しながら作業しようとする。

 しかし先ほどのエレナとサラの裸体が脳裏にこびりついてしまっており、ふと浮かぶ恩人達の裸体を振り払うのに忙しく、作業は全くはかどらなかった。


 そのアキラの姿を、アルファが掌握作業中の情報収集機器でじっと観察していた。

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