第139話 新入りの疑問

 アキラが問題の露店に到着すると、そこではレビンが露店の少年と言い争いを続けていた。


 少年がレビンを帰らせようと非常に困った表情で必死に話している。


「だから、裏の店には連れて行けないって言っているだろう!? もう諦めてくれ! 俺に言われても駄目なんだ! ボスの判断なんだよ!」


 レビンが声を荒らげて少年に言い返す。


「だから! 俺はその店に行ったって言っているだろうが! 俺は入って良い客なんだよ! 良いから連れて行け!」


「無理なものは無理なんだ! ボスの指示に逆らったら俺の身が危ないんだ! 分かってくれよ!」


 少年はシェリルから拠点の店に連れてくる客の見極めも任されている。目の前のハンターはどう見ても案内しては駄目な客だ。態度の必死さも粗暴さも少し血走っている目もどう見ても駄目な客だ。露店の品を案内料と割り切って買おうともしないことから、金払いも良さそうに見えない。


 少年がレビンをシェリルのところに案内して、レビンが拠点の店で暴れでもした場合、少年は確実に責任を取らされるだろう。最悪シェリルに徒党を追い出されるかもしれない。そう考えると少年はレビンを案内する気にはどうしてもなれなかった。


 しかしレビンは一向に引き下がらない。レビンが強硬手段に出れば少年など一まりもない。怒気を強める目の前のハンターと、自分達のボスであるシェリルの指示に挟まれて、少年は必死だった。


 アキラが露店の少年に食い下がっている見覚えのある顔の人物を見て少し怪訝けげんそうにする


「あいつ、何やってるんだ?」


 露店の少年はアキラに気付くと、泣きそうだった顔を歓喜のものに変化させ、大きく手を振ってアキラを呼ぶ。


「こ、こっちだ! 何とかしてくれ!」


 レビンもすぐにアキラに気付いて、自身の内心を端的に声に出す。


「げっ!? お前は!?」


 レビンはアキラのことをしっかり覚えていた。ヨノズカ駅遺跡で出会ったハンターで、自分の現在の境遇の原因となった人物だ。そしてカツラギがレビンの借金の返済が滞った場合に取り立ての代行を頼むと言った者でもある。


 レビンが近付いてくるアキラを見ながら顔を引きつらせる。


(……と、取り立てか!? いや、違う! 違うはずだ!)


 アキラがレビンに尋ねる。


めているって言われて様子を見に来たんだが、何があったんだ?」


 レビンが借金の取り立てではないことに取りあえず安堵あんどしながら答える。


「あー、何でもない」


「そうか。何でもないなら帰ってくれ」


 レビンはアキラにそう言われても、あっさり引き下がるわけにはいかない。何しろ借金返済の一発逆転が掛かっているのだ。


 まずはアキラと露店の少年との関係を確認しなければならない。そう考えたレビンが恐る恐るアキラに尋ねる。


「あー、お前はこいつらの何なんだ?」


 露店の少年が勢いづいてレビンに話す。


「何って、俺達の仲間に決まっているだろう!」


「いや、違うぞ?」


 アキラはあっさり露店の少年の言葉を否定した。レビンも露店の少年もエリオも、アキラを驚きの表情で見る。レビンが意気を強めてアキラに話す。


「違うなら、こいつらと関係ないなら引っ込んでろよ。善人面してこいつらをかばいにでも来たのか?」


「俺はこいつらの仲間じゃないが、こいつらのボスとは個人的な付き合いがあるんだ。そいつに頼まれてここに来たんだ」


 レビンはアキラの言葉を聞いて嫌な予感を覚えた。再び恐る恐るアキラに尋ねる。


「……もしかして、こいつらのボスって、カツラギか?」


「いや、違う。シェリルってやつだ」


「何だ。脅かしやがって」


「ん? いや、カツラギって関わってるのか? 口座開設にカツラギの伝を使ったってシェリルが言っていたような……、どうだったっけ?」


 アキラがシェリルとの会話を思い出そうとしていると、その間にレビンの顔色がどんどん悪くなっていく。


 更にアキラが何かに気が付いたような表情を浮かべてレビンに尋ねる。


「ああ、こいつらのボスがカツラギかどうか聞いたってことは、このめ事ってカツラギも関わってくるのか? 何があったか知らないが、カツラギに確認した方が良いか?」


 レビンが慌ててアキラを止める。


「よせっ! やめろ! 分かった! 俺は帰る! だから何もするな! 何もするなよ! 俺は帰る! 良いな! この件は、これで、終わりだ! じゃあな!」


 レビンはアキラを必死に止めると足早に去っていった。


 アキラは去っていくレビンを不思議そうな表情で見ながらつぶやく。


「……何だったんだ?」


 アキラの問いに答えられる者はここにはいなかった。


 レビンがアキラ達から十分離れた場所で立ち止まり大きく息を吐く。


(……危なかった。カツラギにバレたら絶対める。あの辺の露店はカツラギの息が掛かっている可能性があるってことが分かっただけでも良かったか。……あの辺には近づけないとして、これからどうするか……)


 レビンが悩み始める。借金がこれ以上増えるのを阻止するためにも、ここで諦めて引き下がるわけにはいかないのだ。


(……所詮トランプなんだ。他の露店や遺物売却の代理店や質屋でも、何げなく売られていたりするんじゃないか? あの店のシェリルってやつも、あのトランプの価値を知らずに普通に売っていたんだ。探せばきっとまだまだあるはずだ。それにあの話の通りなら、トランプではなくても賭け事の道具に使える物なら何でもいいんじゃないか? 可能性は高い気がする……)


 レビンが気合いを入れ直す。黒銀屋で手に入れた知識を活用して借金返済を目指すのだ。


「……よし!」


 レビンはスラム街の他の露店や隠れ遺物屋を巡って似たような遺物を探すことに決めた。


 この後しばらくの間、スラム街ではトランプなどを求めて露店や遺物売却の代理店などを巡る者の話が出回るようになった。予想外の値が付いた遺物のうわさが広まった時によく見られる光景だ。うわさに振り回された者の末路も含めて。




 シェリルは自室でアキラの情報端末でゲームを続けていた。今のところは全敗続きだ。シェリルが自分の腕ではなくゲームの難易度設定の誤りを疑い始めた頃、エリオ達が戻ってきた。


 シェリルはゲームを止めてエリオ達を部屋に通した。エリオとティオルが部屋の中に入ってくる。エリオがシェリルに報告する。


「露店のめ事は問題なく解決した。め事の原因になっていたやつは、よく分からないが、アキラさんの知り合いみたいだった」


 シェリルはアキラの友人とめたと聞いて、少し真剣な表情でエリオに尋ねる。


「そう。アキラの知り合いだったの。……本当に問題はないのね?」


「ああ。アキラさんの知り合いって言っても、別に友人ではない様子だったし、大丈夫だろう。何かそいつはアキラさんと少し話したら逃げるように去っていったしな」


「それなら良いわ」


 エリオの様子から何かを誤魔化ごまかすような素振りは全く感じられない。シェリルは取りあえず安心する。念のためにアキラからも話を聞こうとして、そのアキラがいないことに気付いた。


「アキラは?」


「アキラさんはそのまま帰った。だから外の露店は全部閉めたぞ。何かあった時に俺達だけじゃ対処できないからな」


「それは構わないけど……、アキラは本当に帰ったの? アキラの情報端末がここにあるのだけど、忘れていたのかしら」


「いや、覚えていた。予備があるから大丈夫だってさ」


「そう。分かったわ。お疲れ様。ゆっくり休んで」


 シェリルは微笑ほほえんでエリオ達をねぎらった。ティオルが少しだけ照れたような表情をした後で、少し真剣な表情でシェリルに尋ねる。


「ボスに聞いておきたいことがあるんだが、少し良いか?」


「何かしら?」


「その、ボスとアキラはどういう関係なんだ?」


「どういう関係って、恋人よ。ティオルが私達の徒党に加わる時にも説明したはずよね?」


 シェリルは普通に、当たり前のことを話すように、そんな分かりきったことを態々わざわざ尋ねるティオルを不思議に思うように、自然体で質問に答えた。


 ティオルはそのシェリルの様子を見て、続きの言葉を口にすることを少し躊躇ためらった。だが好奇心に近い感情と、ささやかな望みを期待して続きを口にする。


「…………本当に?」


 ティオルの言葉を聞いた途端、シェリルの機嫌が一気に悪化した。


 シェリルの表情から苦楽を共にする仲間へ向ける微笑ほほえみが消え去り、代わりに深く暗い怒気でゆがんだ微笑ほほえみが浮かぶ。シェリルの目には敵対者へ向ける意思が明確に表れている。


 シェリルが底冷えする声でティオルに尋ねる。


「……どういう意味?」


 シェリルの豹変ぶりにティオルが驚き戸惑っていると、それだけでシェリルの機嫌が更に悪くなる。シェリルは自分の問いに答えないティオルの様子を、普段のシェリルとは随分違う偏見の混じった思考でいろいろと判断した。そして暖かみや好意的な響きを念入りに消した声でエリオに指示を出す。


「エリオ。狙って」


 端的な短い語句であるが、エリオはシェリルの指示を正しく理解した。ティオルに向けて銃を構えろと言っているのだ。


 しかし流石さすがにエリオもその指示をそのまま実行する気にはなれなかった。ティオルの質問は解釈によってはシェリルに喧嘩けんかを売っているとも言える内容ではあったが、それだけで銃を向けるのは流石さすがに大げさでやり過ぎだ。そう考えたエリオが慌てながらも何とか場を押さえようとその手段を考え始める。


 自分の指示通りに動こうとしないエリオを見て、シェリルのティオルに向けている敵意がエリオの方にまで広がっていく。


 エリオはそれを敏感に感じ取り、慌てて口を開く。このまま何もせずに黙っているとより事態が悪化する。そう無意識に判断したのだ。


「シェリル! 落ち着けって! 別にティオルもシェリルがアキラの恋人だってことを疑っているわけじゃない! ティオル! そうだろ!? 誤解を招く聞き方なんかするな! シェリルが勘違いするだろう! ティオル! お前は本当は何が聞きたかったんだ!?」


 エリオは必死にティオルをかばい、まだ立ち直っていないティオルに目で訴える。誤解ではなかったとしても誤解で押し通せ。それができないとお前は終わりだ。必死にそう伝えていた。


 エリオの尽力でティオルが何とか我に返った。そしてエリオの意図も理解した。


 ティオルが慎重に言葉を選んで、地雷原を慎重に歩くようにゆっくりと話す。


「あ、ああ。誤解だ。聞き方が悪かった。アキラとシェリルが恋人では……、いや、単純に恋人というだけではなく、もっと別の、いや、追加の関係があるんじゃないのか。そういうことを聞きたかったんだ」


 シェリルが機嫌の悪い声で、疑いの意思を込めた声で話す。


「……そういうことを聞きたいようには聞こえなかったわ」


 ティオルがシェリルの様子をうかがいながら、慌てた声で答える。


「だ、だから、誤解を招く聞き方だったことは謝る。ほら、アキラってすごい強いだろ? 露店のやつにも聞いたんだが、露店で問題を起こしてアキラに追い返されたってやつは、そこらのハンター崩れとかじゃなくて、ちゃんとしたハンターだったらしいんだ。そんなやつをあっさり追い返すほどに強いアキラが俺達のために動いてくれるのは、アキラがシェリルと恋人だからではなく……、いや、違う、恋人だという理由に加えて、更に別の理由があるんじゃないかって、そう思っただけだ。別に恋人であることを疑ったわけじゃない。本当だ」


 ティオルとエリオが固唾を飲んでシェリルの反応を待っている。シェリルは笑みの消えた表情で2人を見ながら無言を続けている。


 しばらくして、シェリルが若干平静を取り戻した声で口を開く。


「……そう。なら良いわ。エリオ。ティオルにいろいろ教えてあげて。徒党に加わったばかりで知らないことも多いようだから」


「わ、分かった」


「用が済んだのなら出ていって」


 エリオとティオルが慌てて部屋から出て行く。シェリルは部屋の扉が閉まる音を聞いた後、大きなめ息を吐いた。


 シェリルが自身の失態を嘆くように表情をゆがめてつぶやく。


「……あの程度のことで平静を欠くなんて、私は何をやっているのよ。笑って済ませれば良いだけの話よ。あんな態度では余計に疑われるわ。……落ち着きなさい。大丈夫。私は上手うまくやっているわ。私ならできるわ」


 シェリルは猛省しながら深呼吸を繰り返した。自分でも驚くほどの失態を反省し、次は上手うまくやると決意を高める。そしてその失態を招いた原因を思案する。冷静になれと自らに言い聞かせながら、表面上は落ち着いた様子で考え続ける。思いついた様々な理由から、ティオルへの敵意が混ざった考えを除去して考えをまとめる。


 結論を出したシェリルが自らに言い聞かせるように言う。


「……いろいろ自覚していたつもりだったけれど、認識が甘かったみたいね。これで再認識できたと言うことにしておきましょう」


 シェリルは区切りを付けるように一度深くうなずいた。




 シェリル達の拠点には多くの部屋があるが、個室を持っているのはシェリルだけだ。徒党内で比較的待遇の良い幹部扱いの者も相部屋である。シェリルの次に待遇の良いエリオとアリシアは、2人とも徒党の幹部で恋人同士ということもあり、手狭ではあるが2人で部屋を一室確保していた。


 他の者は拠点内の共有の場所を住みにしている。広めの部屋や、廊下など、いろいろでだ。外に出歩きたくない時刻にその人物が拠点のどこにいるかで、徒党でのその人物の地位のようなものも把握できる。エリオとアリシアの徒党での地位は結構高いのだ。


 シェリルの徒党の人数は少しずつ増え続けていた。徒党に加わりたいと考えている者は意外に多い。少なくともシェリルの予想よりは多い。それはシェリル達の徒党がスラム街で何とか組織的に活動できている証拠であり、スラム街での利害に絡む一端の集団に成長したあかしでもあった。


 シェリル達の拠点の近くには、スラム街の子供達が少しずつ集まり始めていた。シェリルの徒党の人員であると誤認されると、スラム街の住人に襲われる可能性が下がるからだ。シェリル達の拠点に近い場所では、徒党の人員であると誤認されやすい場所を確保するために、ちょっとした金品のり取りまで行われていた。


 ティオルはある伝で手に入れた金を使ってシェリルの徒党に加わった新入りだ。新入りの割に比較的待遇が良いのは持参した金や装備のおかげだ。


 エリオとアリシアの部屋に、エリオとアリシアとティオルがいる。エリオが連れてきたのだ。


 アリシアはエリオが自分達の部屋にティオルを連れてきたことを不満に思っていたのだが、エリオから事情を聞くと納得した様子を見せた。


 アリシアが少し真剣な表情でエリオに話す。


「……分かったわ。後で私もシェリルの様子を確認しておくわ。それにしても……」


 アリシアがティオルを見て、多分に非難の意思を込めた面倒そうな表情を浮かべて言う。


「……貴方はそういう話をするとボスが怒るとは思わなかったの? 本当に勘弁してよ」


 ティオルが居心地の悪そうな態度を出しながら素直に謝る。


「悪かった。あそこまで怒るとは思わなかったんだ」


 エリオがアリシアをなだめる。


「ま、まあ、その辺にしておいてくれ。新入りも増えたし、そういうこともあるさ」


「新入りだからって、それで済まなかったらどうする気だったのよ。ティオルだけならも角、エリオまで巻き添えになるところだったんでしょう? それで私が納得するとでも思ってるの?」


「いや、だから、そういうことが今後起こらないようにこれから気を付けようって話だって。新入りはティオルだけじゃないんだ。俺の下にいるやつらには俺から言っておくからさ。アリシアの下にいるやつらには、アリシアからそれとなく確認してくぎを刺しておいてくれ。アリシアがそういう分かってないやつの巻き添えになるのは俺だって嫌だ。俺はアリシアと一緒にいたい。これからも一緒にいるために、頼むよ」


「……それもそうね。分かったわ」


 自分の身を案じるエリオの態度を見て、アリシアは少し頬を染めて機嫌を直した。


 エリオがティオルに話す。


「それでだ。今の内に聞いておきたいことがあるなら俺達に聞いてくれ。俺とアリシアはシェリルとの付き合いも長いから、いろいろ説明できる。シェリルに尋ねると地雷になりそうだと少しでも思ったことは、まずは俺達に聞いてくれ。シェリルを怒らせるよりはましだ」


 ティオルがかなり真面目な表情でエリオに尋ねる。


「そうか。それなら教えてくれ。ここのボスって、本当にシェリルなのか?」


「いきなりそれかよ……」


 エリオが頭を抱える。アリシアもどこかあきれに近い目でティオルを見ている。


 ティオルが2人の態度にたじろぎながらも訴える。


「そう言われても、その辺をよく分かってないやつは俺も含めて結構多いと思うぞ。ここのボスはシェリルだ。それは俺も聞いた。でもな。俺も含めて分かってないやつも分かってないことも多いと思う。どういう経緯や立場でボスの座に着いたのか。ボスの座は実力かお飾りか。アキラさんを良いように利用しているだけか、逆に良いように利用されているだけか。ここの真のボスはアキラさんでシェリルは建前や連絡役にすぎないとか。アキラさんはボスにべたれなだけの部外者で徒党とは何の関係もない人物だとか。実はカツラギってやつが裏で金を出して仕切っているとか。いろんな話があって、誰のどの話をどの程度信じて良いのかなんか分からないぞ」


 エリオとアリシアは僅かに表情をゆがめながらも、ティオルの話に納得した様子を見せた。その辺りの事情は難しい。何しろそれを正確に理解している者は、徒党内にはシェリルしかいない。他の者は何となく推測しているだけだ。


 ティオルはエリオとアリシアの様子を見て、もう少し突っ込んだことを尋ねる。


「ボスとアキラさんが恋人だって話も、軽い付き合いなのかお互いべたれなのかで、随分違ってくるだろう。ボスに高い服とかを贈ったらしいけど、その程度の金はアキラさんには小銭にすぎないのか、それとも恋人の機嫌を取るために張り込んだ結果なのかも分からない。拠点に来る頻度も少ないって話だ。ハンター稼業が忙しいからって、恋人をそんなに放っておくものなのか? ボスがアキラさんの恋人だってことは、何をどこまで保証してくれているんだ? アキラさんだって、ボスのお願いを無制限に聞いてくれるわけじゃないだろう」


 エリオとアリシアが顔を見合わせる。ティオルの疑問はエリオ達にも理解できる。しかし同時にそれは徒党での禁句でもある。シェリルとアキラの関係を疑うことはシェリルへの敵対行為に近い。そして、その疑いが正しかったとしても、エリオ達にはどうすることもできない。そこはもうシェリルの言葉を信じて、それが建前であっても通すしかないのだ。


 エリオがティオルに真剣な表情で話す。


「ティオルの疑問はもっともだが、基本的にその問いの答えは単純で簡単だ。聞くな。これが答えだ。その答えの理由は今からいろいろ教えてやる。だから、その答えに納得しようがしまいが、ティオルがこれからもここでやっていきたかったら、その答えに従え。良いな?」


「あ、ああ。分かった」


 ティオルは威圧され動揺しながらも、何とかそう答えた。


 アリシアが少しげんなりしながらエリオに話す。


「……同じ説明とかを、他の新入りにもしないといけないってことよね」


「仕方がないだろう。一番分かっているのは俺達だし、その説明をシェリルに頼むわけにもいかないからな」


 アリシアが冗談交じりに笑って話す。


「エリオがアキラさんぐらいに強くなれば、ある程度は解決する問題かもしれないけど」


 エリオが少し険しい表情で答える。


無茶むちゃを言うなよ。アキラさんみたいにハンターになって、荒野に出て、旧世界の遺跡に行って、モンスターと戦って、旧世界の遺物を持ち帰って……、絶対無理だ。死んでしまう。あの時だって、運良くアキラさんと出会わなかったら、俺はモンスターに食われて死んでいたんだ」


「ん。ごめん。私もエリオに死なれたくないわ。だから、エリオも危険な真似まねは止めてね。ちょっと良い装備が手に入ったからって、調子に乗ったりしちゃ駄目だからね」


「分かってる」


 エリオとアリシアが見つめ合う。蚊帳の外に置かれたティオルがどこか羨ましそうに2人を見ている。


 ティオルの視線に気付いたエリオ達は、我に返ると少し慌てながら誤魔化ごまかすように先ほどのことについて説明を始めた。


 エリオとアリシアは気付かなかったが、ティオルがシェリルにあのような質問をしたのは、徒党の後ろ盾の強度を気にしたからではなかった。


 ティオルはアキラとシェリルの仲を知りたかった。2人が本当に恋人なのかどうかを知りたかった。2人の仲につけいるすきがあるかどうかを知りたかった。


 ティオルはひそかに考える。シェリルは別にアキラをそこまで好きではなく、自身の後ろ盾に成り得るほど強いハンターであれば誰でも良かったのかもしれない。ならば自分がアキラに成り代われるほど強いハンターに成りさえすれば、シェリルはアキラを切り捨てて自分との仲を深めようとするかもしれない。


 ティオルはシェリルに好意を持っていた。一目れだった。シェリルの魅力を引き立てるシェリル専用に仕立て直された服を着て、誰かへの親愛を乗せた笑顔を浮かべるシェリルの姿を見て一目で心を奪われていた。


 ティオルはシェリルとアキラの関係が極めて打算的なものであることを願った。自分がシェリルと恋人になる。その可能性を求めたのだ。


 少し前にセブラという少年が程度の差はあれど似たようなことを考えた。セブラはその代償を命で支払った。ティオルもその代償を命で支払うことになるかもしれない。少なくとも、つい先ほどその可能性を危険域にまで高めたのは確かだ。本人がそれをどこまで自覚しているかは別にして。

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