第5話 ターゲット、ロックオン!
「
それは
幸彦は息を飲む。それは今まで見たことのない程、圧倒される完成度だったからだ。
この男性は何度、土下座った事があるのか。あまりのきれいさに後光がさしているのかと目を疑った程である。
「いえ、もう痛くないので気にしてませんよ?
これでも慣れてるんで……」
幸彦は気にしていないと言っていたのだが、彼はそれを許せなかったのだろう。後輩に向けて
「佐藤ーーーーーーーー!! お前もさっさとDOGEZAをせんかぁーーーー!! 人に向けて誤射したのをこの御人は許してくれたんだぞ!!」
やはり土下座ではなくDOGEZAだったのか。本人も自覚はあったらしい。
それに彼女は見苦しい言い訳をする。
「えぇ、でも先に動いたのはこの子ですよ。それに人って言っても妖怪だしこの程度じゃ怪我もしてない――」
「シャラッーーーーーーーープ!!!!! そういう手前勝手な発言は、世界を救う
DOGEZAを解いて勢いよく立ち上がった男性警官は、彼女の頭を
そして、驚くべき
「どっせーーーーい!!!!」
「ふぎゃあーーーーーーーー⁉︎」
凄まじい
衝撃でコンクリートが
「ちょっ⁉︎ 大丈夫なんですか!! 幾ら
こんな優しそうな人が、人に対してあれほど
人外を見るような
「いやいや? 殺してませんよ。彼女は特別ですから。普通の人に私はあんなことしませんよ。死んじゃいますから」
死なないにしても程度があるのではないか。体育界系の人は怖いなと
「それにしても……普通、無抵抗の人コンクリートに埋めます? 貴方たち仲いいんですか?」
「あぁ、私と彼女は学生時代の
(んっ?
幸彦は二人の顔を見比べる。どう見ても二人の年が近いとは思えなかった。女性が若すぎるのか、男性が老けすぎるのか、ぜひとも聞いてみたい問題だ。
それはさておき、霊気を使えるなら安心だった。目に妖気を集中させると、さっきは感じられなかった霊気が彼女の頭を集中的に
「あぁ、霊気使えるんですね。それなら安心です。なんならもうちょっと強くぶん殴ってみましょう。脳震盪や脳出血しない程度に」
(霊気と妖気は、危険を強く感じるとバンバン出るが、見た感じ彼女はあまりキツイ訓練をしていないのだろう。
因みに妖怪は、回復速度が段違いに早いので、幾ら脳が傷ついても、腕が千切れても、内臓が失われても、時間さえ有れば回復する。
幸彦の場合体を欠損させたなら、自然回復で二週間。妖気をフルに投下して三日という具合だった。気絶していなければの話だが……
そうしていると、彼女はピンピンしながら跳ね起きるのだった。
「げほ、げほ、うげぇ。ちょっとやめて! やめて下さい!! 学生さん!!
「と佐藤は言ってますが、術士の卵から見て彼女は限界でしょうか?」
「そうですねぇ、それは俺の種族知った上での頼み事ですか?」
こくりと男性警官は首を縦に振る。それは了承しているという事だろう。
どうしたものかと、改めて女性警官の方を見ると、彼女は目をうるうるとにじませ、ハンカチで涙を拭っていた。
その動作はかわいそうな女性のように見えるのだが、幸彦はどうにも演技の匂いを感じとるのだった。
(……ちょっと
あまり他人の心を覗くのは趣味ではないが、霊気を纏った鉛玉をしこたま撃ち込まれたのだ。これぐらいは許して欲しかった。
幸彦は息を整えて彼女の心の中を
(おおぅ。ボロカスに先輩言われてますね……)
案の定悪口がポンポン降って湧くように心の中で
「えーと、私より小さな人に命令されたくねぇよ。こんなの全然きかねーわ。バーカバーカと言ってます」
女性警官は幸彦の発言を聞いて、度肝を抜いたようにこちらを
彼女は冷や汗をだらだら流し始め、目をしきりに動かすのであった。
「よし、お前帰ったら。覚悟しとけよ」
男性警官の顔は、目が完全に笑っていない。それを見た女性警官の霊気は、バーナーのように勢いよく吹き出すのであった。
「はぇー……術士の卵さんだったんですか。 その、初めまして…… あっあの握手とかして貰ってもいいですか!」
「あっ、握手? いえ、それは別にいいんですけど……普通怖く有りませんか? 心覗いたんですよ俺。術士だとしても怖いんじゃあ……」
「何を言ってるんですか! 市民の平和を守る為にケガレを命をかけて
初めての反応に幸彦は少々面食らう。一般人よりは遥かにマシであろう警官でもここまで好印象だったのは記憶にない。
どう接していいか迷っていると、男性警官は目を柔らかくし苦笑する。
「いえ、彼女は
「あぁそれで銃乱射…… 警官よりも自衛隊の方が向いてるんじゃないでしょうか。あんな度胸ある人だったら……」
あれなら先に抜かれることはないだろう。将来有望な警官だった。
「後日しっかり指導します…… ナイフはやっぱり隠し持った方がいいんじゃないでしょうか。それと……目線がキツすぎるのでもう少し、穏やかそうにしたら職務質問多分されないようになると思います」
目線がキツすぎるのが問題であったのか。ふとマジックミラーを見ると幸彦は笑ってしまった。
(あぁこの顔じゃ職務質問される訳だ)
そこには、げっそりとした、鬼のような
「それじゃ、お元気で」
「今後は二度と誤射しないように注意します」
「ああ、撃たれるのはもう、こりごりです。それではさようなら」
幸彦はさっさとその場を後にしようとする。しかし、覗いていた情報を一つ伝え忘れていた。
お
「あぁ、それと二人にアドバイスを」
「アドバイス? 何ですか?」
「ウジウジしてても、いつまで経っても始まりませんよ。男なら覚悟を決めて告白するのも手の一つと思いますがね。後もう一つ。なんで問題ばっか起こす後輩とペアを組んでるのか。その意味をもう一度よく考えて下さい。それじゃ、今度こそさようなら」
幸彦が立ち去った後には、妙にもじもじし、目線を逸らす二人が残されるのであった。
「みーつけた。でもコレやっぱりぬる過ぎない? このまま捕まえてもいいものかしら? うーん……まぁ、いっかぁ」
保奈美はゆっくりと幸彦に近づいていく。
彼は油断していた。本来なら無駄な時間は1秒足りとも刻むべきではなかったのだ。
あれだけ時間稼ぎをした上で、彼女はすでに幸彦をロックオンしていたのだから。
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