モゥモのミルク
「あ、そだ!コーヒー飲む?カゼハー」
「うん」
背中に背負ったリュックを気にしながらゆっくりと不器用に木のうろ穴からカゼハがこちらにやってきてリュックから薄い金属でできたカップ4個と透明な実験道具のようなものを取り出した。
「なんですの?それは?」
「サイフォンですね?」
「あったりー!」
「・・・セイムこれ知ってるの?私たちここにきて初めて見たのに、物知りだね」
「コーヒー豆は、どこに生えてるか知らないから代わりにタンポポみたいなお花の根っこを使うよ!」
そう言ってクウコは、手際よくサイフォンを組み立てると焚火の火を分けてサイフォン下部のアルコールランプに点火した。
その間に、最も大きな透明容器にカゼハが水を汲んでくる。
水の容器はランプとイエローロゼットの根っこの入った容器の真ん中にセットされ直接火に掛けられた。
人の僅かな身じろぎにさえ揺れる炎に撫でられる容器の表面は、少しすすけて、曇って、それからすぐに透明になった。
「ねぇ!二人は付き合ってるの?!」
「健全な交際・・?・・・そこに愛はあるの?」
活躍の場をどこに移そうとも人の興味というものは、それほど変わらない。
そして、セイムもジゼルもこの手の質問のかわし方をまるで心得ていないものだから、お互いの出方をうかがうような初々しい微妙な反応は双子の反感を少しだけ買った。
「あッ!見て!お湯が上に上がってきましたよ!」
「サイフォンというのは、噴水という意味なんです」
「そうなのですね、本当に噴水のようですわ・・・」
「へぇ。」「・・・お砂糖使う?モゥモのミルクもあるよ?」
他の3名と異なり、ジゼルはコーヒーに何も入れなかった。
特に、ミルクなど入れてしまえば見えなくなってしまう。
ジゼルは、実に久しぶりにカップの中身の液体を操作して、波紋を治めるとそこに映し出されたセイムの横顔をこっそり眺めた。
「クウコさんとグラスシルフィードさんは、どうしてここに来たんですか?」
「あ、そだ」「カゼハでいいよ。セイム」
「一緒に来た人とはぐれちゃってぇ・・・。そのなんていうの?恋人みたいな?」
「・・・違うけどね」「うん、まぁ違うね」
「探してるうちに、人の通った後見つけたから何か知ってるかなって。思ったの」
「二人とも知らない?汚い腰巻き巻いた優しそうな人なんだけど」
セイムとジゼルは、急にコーヒーが不味くなってしまったような気がして。
慌てて昼間の事を報告した。最後に滝つぼでくるくる回っていた所もきちんと説明した。
「なんだ、よかった近くに居るなら」「うん。」
「なんだって、あなたたち。今すぐ合流した方がよろしいのではなくて?」
「・・・多分だいじょぶ、もう暗いし」
「明るくなってからでいいよねぇ」「暗いと怖いし・・・・」
「で、二人はどういう関係なの?」
ミルクと砂糖がたっぷり入った特製コーヒーを飲み干したクウコは、自身の人生には一瞬の暇も無いのだと言う確固たる決意と飽くなき探究心を持って、繰り返し質問した。
セイムは、勘弁したように一度座りなおした。
「僕たち。この世界で出会ったんです・・・」
「ねぇ何処で!?」「どれくらい時間たつの?」「いつからここに住んでるの?」
「あの揺り籠みたいなのはなに?」「ご飯何食べるの?」「コーヒー美味しかった?」
「・・・すてき」「現実に戻ってもまた会えるかな?!戻ったらどうなっちゃうの?」
「SWE内での出来事は、外では記憶されませんのよ。だから、わたくしたちが現実の世界に戻ってしまえば、その。お互いの事を・・・」
ジゼルは、じわりと涙腺に痛みが走るのを感じた。
「ええ!なんかそれ怖い!あたし、セイムの事もジゼルの事も忘れたくないなぁ」
「わたしも、ずっとおぼえてたいな」
この世界は、不思議で溢れている。
常に新たなプレイヤーが世界の何処かで誕生し消えていき、誰かと出会い、奪い合い、戦うのだ。
年も取らなければ、空腹で死ぬ事も無く。本来ならば睡眠すら必要無い。
そして、目が覚めれば初めから何もなかったかのように。四肢の僅かな感覚の違和感を残し何一つ覚えていないのだ。
一瞬訪れる沈黙を気遣う様に、乾いた薪が跳ねた。
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