第12話 夢と呼び出し

  ジン達剣術部の6人が総合格闘部に入部して数週間が経った。

 入部当初は、ジンを除く元剣術部の者達の反発があったものの、紅葉のカリスマ性(自称)と教育により、現在は全員がまじめに訓練に勤しんでいた。

 部活動の休憩時間中、楓がジンに突然、「俺と試合をしないか」と提案をする。


「俺と試合をしたいだあ!?」


 楓からの突然の提案に戸惑うジン。


「ああ、ジンに魔力のことについて聞いてからずっと考えてたんだけどさ、一度魔力っていうモノを経験しといた方がいいんじゃないかと思うんだ。」


「そりゃまたなんで?」


「将来魔力を使うやつとやりあう可能性もあるかもしれない、ってのは建前で、――やっぱ魔力の習得をあきらめきれないってのが本音かな、可能性は低いだろうけど、もしかしたら何か掴めるかもしれないし……。」


 ジンは「俺は別に構わねえけどよ……。」と言いながら、紅葉の様子を伺う、というのもここ数週間の付き合いで、神樹姉弟が互いにブラコン・シスコンのがあることに気付き、楓自身の望みとはいえ、紅葉がもし反対していたら後が怖い、と思ったからだ。

 そんなジンの視線の意図を察したのか、スポーツドリンクを飲んでいた紅葉は、「プハッ」とスポーツドリンクの入ったボトルを口から離し

 

「何事も経験でしょ、私は良いと思うよ。」


と賛成の意を表し、紅葉の意見も問題ないと確認したジンは、「じゃあやるか!」と嬉しそうに道場内の試合場に向かって行った。


 ジンと楓、両者が試合場の開始線に着く、


「先に言っとくけどジン、最初から魔力使ってこいよ、じゃないと意味ないからな。」


「言われなくても!」


 ジンが魔力を使用し、構える。するとジンの体を黒いオーラが覆う。

 それに応じるように楓も全身に氣を循環させ構えると、道場内が静寂に包まれる。

 審判役を買って出た紅葉が「それじゃあ、……開始!」と試合開始の声を上げたと同時にジンが飛び出し、楓の顔面に拳撃を放つ、楓はその一撃を顔面で受ける。

 ジンの拳撃が楓の顔面に直撃した瞬間、それを見ていた元剣術部の5人は「ひっ」と小さな悲鳴を上げ、目を背けるが、攻撃を受けた楓はその場から一歩たりとも動かないどころか、ダメージを負った様子すらない。

 ジンの攻撃を冷静に分析して、受けきれると判断し、わざと攻撃を受けていた。これは、ジンのことを甘く見ての行動ではない、一度は魔力の纏った状態での攻撃を安全に受ける必要があると考えての行動であった。

 実際に、ジンの初撃は大振りで受けることが容易く、今回もその例に当てはまっていた。


(普通の攻撃と大差ないか……)

 

 楓は、初撃の後も次々と繰り出されるジンの攻撃を、防御と回避を駆使しながら難なく受け、分析を続ける。

 その様子を見ていた新藤があることに気付き、紅葉に質問する。


「そういえば、紅葉さんとジンが戦った時も思ったが、同じ流派なのに楓と紅葉さんの構は全然違う な。」


「それはですね、私と楓では使用する「型」が違うんです。神木流は元々何かを模して戦う流派なんですけど、私が使用しているのは、神木流でも動物の動きを模して戦う「獣擬じゅうぎ」の型で、楓が使用するのは五体を武器に模して戦う「無手武装むてぶそう」の型、何かの真似をするという点は共通していますけど武器と動物とでは全く違う、だから構にも違いが出るんです。」


「なるほど……、しかし武器と言っても限界があるんじゃないか?人間の体は打撃はできるが、斬撃はできない、せいぜい鈍器の類しか真似できないだろ。」


「――まっ、普通はそう思いますよね。だけど神木流には素手での斬撃の技があるんです。だけど試合で使用することはまずないので、今回は見られませんけどね。」


 そう言って紅葉は楓達の試合に視線を戻す。新藤は素手での斬撃というものに興味が引かれたが、紅葉に今回の試合では見れないと断言され、それは残念、と思いつつ試合の観戦に戻った。

 ジン攻撃を続けていたが、楓の防御の堅さに攻めあぐねていた。

 片や楓もジンの魔力をのせた攻撃を受け続けていたが、受けている感触は普通の攻撃となんら変わりがなく心の中で魔力の習得は無理だなと落胆していた。

 

 (このまま続けても無駄か……、なら


 楓がそう考えた瞬間、楓の中のある

 それは普段から、楓と紅葉が戦いごとに使い分けているもので、このは通常の試し合いでは使ってはならないと言われているものであった。


 こいつ、紅葉よりも堅ぇ……。


 楓のあまりの防御の堅さに痺れを切らせたジンは、攻撃を止め、楓と距離を取ろうとバックステップを行う、その瞬間、楓はジンのバックステップに合わせて前進し、距離を詰める。

 楓の前進によって虚を突かれたジンは体勢を大きく崩してしまう。


 ――しまっ!


 そう思った瞬間、ジンは体が刃物で切られたような感覚を覚え、遅れて体に激痛が走り、意識が遠のいてゆく、意識を失う直前、最後に聞こえたのは紅葉の「ばかー!」という声であった。


~~~~~


 ジンの意識が覚醒する。と、同時にジンはガバッと上体を起こし、慌てて体に異常がないか確認する。上半身に袈裟掛け状の痣があるものの、それ以外に異常はなくホッとした様子で胸をなでおろすジン。

 

 「よかったねえ、斬られてなくて。」


 ジンが声をした方を向くと、ジンの慌てる様子を見て嗜虐心に駆られたのか、屈んだ状態でニヤニヤとジンのことを見つめる紅葉の姿があった。

 

 「……俺は何をされた?」


 紅葉の嫌みったらしい表情に多少腹が立ったものの、それ以上に自分が何をされて負けたのかがわからなかったジンは紅葉に問う。問われた紅葉はジンの真面目な表情に(つまんない。)と思いつつも、真摯に答える。

 

「楓の「閃刃せんじん」……、手刀でやられたの。」


 若干気まずそうに説明する紅葉。ジンはその態度に疑問を覚えたが、「閃刃」という言葉の方が気になった。


「閃刃?」


「そっ!、氣を込めた手刀での一閃。体が頑丈でよかったね、普通なら。」


「普通なら本当に斬られてた。」その言葉を聞き、ジンに悪寒が走る。試合中に感じた斬られたような感覚……、その感覚を思い出したのだ。

 楓に「閃刃」を受けた時の感覚を思い出し、顔を青くしているジンに紅葉は続ける。


「ごめんね、普通は試合で使うような技じゃないんだけど、でも、もういい加減分かったでしょ!、自分に足りないもの。」


「ああ……。」


 ジンは痛感した。自分に足りないもの、それは技術であると。今までは自身の生まれ持ったポテンシャルのみで十分だと感じていた。しかし、双武学園に入学してからのの敗北、それによって、技術の重要性に初めて気付くことができた。

 今のままではには絶対に勝つことは出来ないと。

 ジンは紅葉に向き直り、頭を下げる。


「紅葉……、頼みがある。……俺を強くしてくれ。」


 紅葉はジンの頼み込む姿に一瞬目を丸くするも、すぐに笑顔で答える。


「うん……。私と楓に任せなさい。絶対に強くしてあげる。」


 その笑顔に見惚れ、ジンの顔が赤くなる。ジンは照れて恥ずかしくなったてのか、」赤くなった顔をごまかすように「そういえば」と続ける。


「楓はどうしたんだ?」


「楓?、楓はね、試合なのに殺し合いで使うような技を使ったから……」


 そうあきれ顔で言いながら、紅葉は親指で自らの後ろを指差す


「罰としてあそこで反省させてる。」


 その先には、「私は悪い子です。」というプレートを首から提げ、正座させられている楓と、その姿を見て笑いを必死にこらえている他の総合武術部の面々がいた。

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