第一章 入学編
第1話 夢と出会い
『古の時代、戦禍により世界は二つに分かたれた。
分かたれた2つの世界は再びの
~~~~~
少年は夢を見ていた。
灰色の世界……。
ここは戦場なのだろうか、
少年はまどろむ意識の中で思う。
(また、この夢だ……。
俺の記憶にはないはずの光景……、
だけど、俺はこの光景を知っている……。
この男が俺自身であること。
この男の抱いている女性が、この男にとってかけがえのない大切な存在であること。
……俺には大切な人を失った経験はない。
だけど、この夢が実際にあったことだということを俺は知っている……。
……訳が分からない。)
男は女性の亡骸を抱いて哭く。
かけがえのない大切な
少年の中に男の感情がとめどなく流れ込んでくる。
その感情は
「…えで」
「お……さい!」
「起きろ!楓!」
闇を破る少女の声。
少年の意識が覚醒すると、そこは灰色の世界……、などではなく少年の自室のベッドの上であった。
少年はまだ眠い目をこすりながら声の聞こえた方向に顔を向ける。すると、少年とよく似た可愛らしい顔立ちで、赤色の髪をした少女が、藍色の髪をした少年、
少年は、心配そうな顔をする少女、少年の双子の姉である
「……おはよう、紅葉。」
と朝の挨拶をする。
紅葉は楓のいつもと変わりのない挨拶に拍子抜けするが、楓の顔を指差し異常を指摘する。
「あ……うん、おはよう。じゃなくて、あんた大丈夫?顔、すごいことになってるよ。」
「顔がなんだよ?……。」
楓は紅葉に指摘に対し疑問を抱きながらも、紅葉があまりにも心配そうな顔をするので、自身の顔を手で触って確認する。
すると楓の顔の目元から頬にかけて、冷たい水のようなものが流れいることに気が付く。
楓は涙を流していた。
自身が涙を流していることに気付いた楓は、顔に手を当て
「……
ここ数日間、彼は決まって先程まで見ていた夢と同じ夢を見る。
そして、起きると必ず今のように涙を流している。
このことは、朝が弱い楓を毎日のように起こしに来ている姉の紅葉も知っており、最初の頃は二人ともただの偶然だろうと思っていたが、こう何度も同じ状況が続くと流石に心配になってくる。
「また同じ夢を見たの?あんた最近同じ夢ばっかり見てるじゃない、ホントに大丈夫なの?」
楓のことを心配する紅葉。
楓は姉に余計な心配をかけてはならないと思い、努めて平然を装いながら涙を流している自身の顔を指差す。
「大丈夫だよ、
楓はなんともないというが、毎日同じ夢を見て涙を流す、…そんなこと普通はあり得ない、楓も同じことを思っているはずだ。。
きっとこれは私のことを思っての強がりだ。
紅葉はそう思いながらも、あくまで平静を装う弟の思いやりを無駄にるようなことはしたくない、と思いこれ以上の追及を諦める。
「──ならいいけど、上木さんが朝ごはん出来たって、さっさと準備して食堂に来なさい、みんな待ってるから。」
紅葉がそう言うと楓は一言「分かった」と返し、返事を聞いた紅葉は楓の部屋を出て行った。
自分一人だけになった部屋で、楓は考え込む
(毎日同じ夢を見て涙を流す……。明らかに異常な出来事だろ。)
「一体何なんだよ……。」
そんな不安を抱えたまま、神樹楓の高校生活初日が始まった。
〜〜〜〜〜
準備を終え、楓は食堂に向かった。
現在、神樹姉弟が住んでいる場所は実家ではない。神樹姉弟の実家は、昔から神木流という流派の武術道場を経営しており、全国に道場兼、下宿が置かれており、神樹姉弟が居住しているこの場所もその内の一つで、本日から神樹姉弟が
楓が食堂に到着すると、既に同じ下宿に住む神木流の門下生数十名が食卓についていた。
門下生たちが楓の姿を確認したその瞬間、楓はいつものように両耳を塞ぐ、
「「「「おはようございます!!坊ちゃん」」」」
落雷でもあったんじゃないかと勘違いしそうな位の大きな声の挨拶が食堂いっぱいに響く。
楓はこの挨拶自体には慣れているのだが、自身のことを「坊ちゃん」と呼ぶことには流石に抵抗を覚え、「高校生になるのだから坊ちゃんは呼びは止めてくれ」と門下生達に何度も言っているのだが、門下生達は「坊ちゃんは坊ちゃんですら」と言い、全く直してもらえず、最近は諦めてきている。
「おはようございます。」
楓はいつもの様に門下生達に挨拶を返し、いつも座っている席に着席する。すると、既に楓の真向かいの席に着席していた紅葉が、楓を呆れ顔で見ながら口を開く、
「遅い!、起こしに行ってから何分経ってると思ってるの!、もう高校性になるんだからしっかりしなさい!」
先ほどの心配顔はどこへやら、紅葉は朝の弱い楓を注意する。
そんな紅葉の注意に、夢のことで憂鬱な気分になっていた楓は、少し苛立ちを覚え、口をとがらせ文句を言う。
「母さんかよ。」
「お姉ちゃんです~。」
「年一緒じゃねえか。」
「私が先に生まれました~。」
「……なんか腹立つ。」
「腹立つってなによ。」
段々とヒートアップし、語気が荒くなるなる二人。その様子を見かねた門下生の一人が二人の喧嘩に割って入る。
「坊ちゃん、お嬢、そこまでです。」
二人を諫めた門下生、この道場の責任者であり、神樹姉弟の親戚でもある
「坊ちゃんもお嬢も今日から高校生でしょう。子供みたいな喧嘩はもう止めてください。それに……、皆見ていますよ。」
上木の一言で神樹姉弟はハッと我に返り、周囲を見渡す。すると、食堂内にいる門下生の生暖かい視線が姉弟に集まっていた。
門下生達からの生暖かい視線を受けた二人は、子供のような喧嘩を晒してしまったことを恥じ、顔を紅潮させ
「「すいません。」」
と謝ったところで、食事が開始されたのだった。
〜〜〜〜〜
双武学園
これからの世界を担う人材を育成するため、ここ
双武学園には
この学園こそ、本日から神樹姉弟が入学する学園である。
「うわー、本当に校門が門になってる。」
学園の校門前で楽しそうな声を出しているのは、神樹姉弟の姉、神木紅葉だ。
彼女は学園の校門前を動き回り、様々な角度から校門を眺めてはしゃいでいる。
「はずかしいからやめてくれ。」
そんなことを言いながらも、神樹姉弟の弟、神木楓も双武学園の荘厳な校門に感心し、好奇心旺盛なキラキラした目で眺めていた。
正に静と動、神樹姉弟は元気で明るく誰とでも仲良くなれる動の姉、紅葉と、冷静で口数の少ない静の弟、楓、まったく正反対の性格をしている双子ではあるが、根本的には似た性格をしており、気が合うため仲が良くいつも一緒に行動をしている。
そんな彼等がなぜ学校の校門程度ではしゃいでいるのか、その理由は彼等の育った環境にある。
彼らの実家は辺境の山奥にあり、彼らが通っていた小・中学校も田舎の小さな学校であったため、都会の学校というものを見るのは初めての経験であった。
しかもこの双武学園は日ノ本国でも指折りの大規模校で、その校門も他の学校と比べてみても明らかに違いが分かるほど荘厳なものであった。
そんな校門を辺境の山奥から出てきたばかりの神樹姉弟が見てしまえば、はしゃいでしまうのも仕方が無いというものだ。
神樹姉弟(主に姉)が校門前ではしゃいでいると
「あの・・皆様の通学の妨げになっていますよ。」
と神樹姉弟の後方から、優しく語りかけるような女性の声がする。
神樹姉弟が声をかけられた方を振り返ると、そこには双武学園の制服を着た黒髪で長髪の可憐な美少女が笑顔で
「あっ!ごめんなさい」
美少女に気が付いた紅葉が恥ずかしそうに頬を紅潮させ、未だに校門をキラキラとした目で見つめていた楓の制服の襟を引く、楓の口から「ぐえ」という声がするが、そんなことは気にせず紅葉は楓の襟を引っ張り、そそくさと校門の前から移動した。
校門前から移動した後、恥ずかしそうにする紅葉をフォローするかのように美少女は言う
「確かにこの学園の門は荘厳で見入ってしまいますよね。私も初めてこの門を見た時は感動しました。」
美少女の言葉に、自分達と同じことを思った人がいたことに喜んだ紅葉は、美少女の手を両手で握り
「そうだよね!私たち田舎から来たからこんなにすごい門を見るの初めてで……。」
と再びはしゃぎ始め、紅葉は目の前の美少女に話しかけるが、美少女は紅葉の勢いに押され、困りながらも笑顔は崩さずに対応していた。
そんな二人の様子を見ていた楓は、美少女の左腕にある校章を見て
「紅葉!校章の色。」
そう紅葉に注意して、美少女の校章を見るように促した。
美少女との会話に水を差された紅葉は、「なんだよもう……」と文句を言いながらも美少女の左腕の校章を見てハッとする。
「――先輩……だったんですね……。」
双武学園の生徒は、学年ごとに制服に付けられた校章の縁取りの色が異なる。
楓達一年生は緑、2年生は青、3年生は赤となっており、目の前の美少女は青色の縁取り、つまり2年生であった。
紅葉が気まずそうに美少女の学年を確認すると、それまで紅葉に押され気味だった美少女は居住まいを正し、自己紹介する。
「はい、双武学園2年風紀委員長の雫・ジフタリアと申します。これからよろしくお願いしますね。」
雫・ジフタリアと名乗った美少女は、紅葉に微笑ながら握手を求める。
紅葉は緊張した面持ちで握手を返し
「新入生の神樹 紅葉です。」
と自己紹介を行った。
互いの自己 紹介が終わると、雫は、楓の方に向き直り
「あなたも……、よろしくお願いしますね。」
と言いながら、紅葉と時と同じように楓に握手を求める。
雫が楓の顔を見たその時、一瞬だがその表情が固まる。
しかし、すぐに先ほどと変わらない微笑みを楓に向ける。
握手を求められた楓の表情は、完全に固まってしまっていた。
楓の異変に気づいた紅葉が、楓を肘で小突きながら
「楓!挨拶!挨拶!」
と小声で注意する。
紅葉に小突かれた楓は、ハッと我に返り
「かっ、神樹楓です。」
と慌てた様子で握手を返し、自己紹介をする。
楓の慌てようが可笑しかったのか、雫は「ふふふっ」と笑うと
「まだ色々とお話ししたいけど……、もうそろそろ時間ね。それじゃあまた今度、お話しましょう」
そう言って校門を通り学園に入っていった。
雫が校門前から去ると、校門前にいた生徒達から
「あれが学園3位……。」
「鮮血の女神……。」
等と聞き捨てならない言葉が発せられていたのだが、楓は耳にそんな言葉は入ってきておらず、雫の後ろ姿を追うように見つめ続け、心ここに在らず、という状態であった。
雫・ジフタリアの美しさに見とれていた、というわけではない。
――夢の中に出てきた
楓がここ数日間決まって見る夢の中に出てくる女性と、雫・ジフタリアの顔がとてもよく似ており、楓はそのことに驚愕し、動揺していたのだ。
それから入学式、クラス分けと、高校生活において重要なイベントが立て続けにあったのだが、雫との出会いが原因で動揺していた楓は、夢のことで頭の中がいっぱいになり、これらのイベントのことなどまったく頭に入らずに高校生活初日を終えることになったのである。
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