第32話 ゴブリン護符
レベルアップの声がないことで、守護者が死んでいないことは分かっている。ただ分裂の泉に沈んでいるので手を出せない。
泉に飛び込んで仕留めることは、危険すぎてやる気にならない。水中戦なんかやったことがないのだから、仕方ないだろう。
俺は拾った守護者の戦棍を振り回してみた。鋼鉄製の戦棍より軽いと感じた。何でだ? あれだけの威力があった武器だぞ。先端が回転していたことが威力に繋がったのだろうか? 俺はスイッチみたいなものを探したが、見つからなかった。
「チェッ、使えない」
俺はベルトに守護者の戦棍を差して、柳葉刀を構えた。
泉から泡が浮かび上がり、ビクッと反応した。出てこないと気が抜けた時、泉から守護者が跳び出してきた。
「フェイントかよ」
守護者が蹴りを俺目掛けて繰り出した。左腕でガードする。その左腕に衝撃が走り、俺の身体が弾き飛ばされた。
俺の手から柳葉刀が飛んだ。壁まで飛ばされた俺は、壁にぶつかりずり落ちる。守護者が俺に近付き腰の戦棍に手を伸ばした。自分の武器を取り返そうとしたのだろう。
俺はその手を取って腕ひしぎ十字固めで関節を極める。守護者が馬鹿力を発揮して、俺を持ち上げ床に叩きつけた。後頭部に衝撃を受けた俺は、思わず腕を放して素早く立ち上がる。
立ち上がった瞬間、守護者のパンチが俺の頬を捉えた。首をぐるんと回してパンチの威力を流し、守護者の背後に回った。守護者の腰を抱えた俺は、ブリッジをしながら背後に投げた。
ジャーマンスープレックスと呼ばれているプロレス技だ。
守護者が頭を抱えて転げ回った。それが守護者を助けた。転がった先に柳葉刀が落ちていたのだ。その柳葉刀を拾い上げた守護者は、ニヤッと笑う。
「何でだよ。斬り飛ばした腕が再生してる」
愚痴ってから、俺は守護者の戦棍をベルトから引き抜いた。分裂の泉から出てきた守護者の腕が再生していた。分裂の泉は、魔物の欠損部分を再生する効果があるらしい。
但し、ダメージは残っているらしくスピードは落ちていた。だから、『超速思考』を使っていない俺でも対応できたのだ。
柳葉刀の斬撃を戦棍で受け止める。痺れるような衝撃が腕から足へと走った。守護者のパワーは半端なものではない。
守護者の斬撃を受け止めて分かったのだが、この戦棍は極めて特殊なものだった。あの強烈な斬撃を受け止めても、掠り傷一つ付かなかったのだ。地球上には存在しなかった物質で作られているのかもしれない。
守護者の斬撃が段々と強烈なものになり、俺は豪肢勁で筋力を増強しながら受け止め始めた。その時、ギュンと戦棍の先端が回った。
慌てたように守護者が跳び下がる。
「何だ? 何で回った?」
俺は豪肢勁を使ったからではないかと、見当をつけた。腕に流し込んだ気の一部が戦棍に流れ込み、それをエネルギーとして回転したのだ。
豪肢勁を使い戦棍に気を流し込む。やはり先端が回転を始めた。
俺はニヤリと笑い守護者を睨んだ。守護者が後退る。回転する戦棍を振り回し守護者を攻撃した。守護者は柳葉刀で受け止めようとしたが、その柳葉刀が回転する戦棍と交わり粉々に砕けた。
チャンスだ。俺は疲弊した身体に鞭打ち、守護者を攻め立てる。守護者も必死に回転する戦棍を避ける。だが、戦棍が守護者の肩に命中。爆発するように肉片が飛び散った。
守護者がよろめいた。俺は最後の一撃を守護者の頭に叩き込んだ。守護者が心臓石となって消える。けれども、俺の手の中には守護者の戦棍が残っていた。守護者の武器であっても、武器が残る法則はオークと同じであるようだ。
「や、やった。勝ったぞ」
【守護者ゴルディスを倒しました。あなたの所有するスキルから任意の一つをレベルマックスまでアップさせます。どれを選びますか?】
この守護者を倒した褒美は、任意のスキルレベルをマックスまで上げることらしい。俺は『操闇術』を選んだ。このスキルが一番上がり難いスキルだったからだ。
スキルを選んだ俺は、分裂の泉に飛び込んだ。次に来るものが予想できたからだ。
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
分裂の泉の中だと、あの激痛は和らぐような気がする。それにホブゴブリンが来た時に見つからずに済む。激痛は思ったほど酷くはなかった。段々と耐性が出来て楽になっているのは確実なようだ。
【レベルアップ処理終了。ステータスを表示します】
激痛が去った俺は、泉の底に沈み、底にあった巨大な水晶のような制御石に触れた。
【ゴルディスエリアの制御石に触れました。あなたに選択肢が与えられます】
例の声が、前回と同じような選択肢を示した。
一、スキル一覧からスキルポイントなしで任意のスキルを一つ習得。
二、ゴブリンから襲われなくなる護符を作る知識を得る。
三、制御石を破壊し、一〇年間ゴブリンが増えなくなる期間を得る。
俺は二番目を選んだ。その瞬間、護符を作るための知識が頭に流れ込んできた。護符を作るにはゴブリンの心臓石が必要となるみたいだ。
泉から出る前にステータスを確認した。
【氏名】マキ・コジロウ 【職業】学生 【レベル】29
【筋力】42 【素早さ】38 【体力】38 【器用】35 【脳力】24 【超感覚】29
【スキルポイント】37 〔スキル選択〕
【アクティブスキル】『投擲術:6』『斧術:5』『心臓石加工術:6』『気配察知:3』
『小周天:6』『棍棒術:7』『操炎術:4』『操闇術:9』『刀術:4』
『探査:2』『超速思考:2』
【パッシブスキル】『物理耐性:7』『毒耐性:4』『精神耐性:5』
筋力などの基礎能力は、さほど上がっていないが、『操闇術』のスキルレベルがマックスの9になっている。『刀術』と『超速思考』が一つずつスキルレベルが上がっていた。
急いでステータスを確認した俺は、泉から上がった。落ちていた守護者の心臓石を拾い上げる。ボウリングボールほどもある闇属性の心臓石だ。
俺は他の心臓石も回収し、病院へ向かった。病院にはゴブリンが残っていたが、瞬殺して屋上へ上がる。向こうのビルで、エレナと黒井が手を振っている。
俺はロープを渡ってエレナたちのところへ戻り、これまでの状況を説明した。
「凄え、守護者を倒したのかよ。今のうちに病院の薬剤を運んだらいいんじゃないか?」
黒井が称賛の声を上げた。
「それは明日にしよう。今日は疲れた」
「そうだな。了解だ」
黒井が農協ビルの方に視線を向けた。
「しかし、あの煬帝が死んだのか。まあ、自業自得だな」
「でも、コジローさんが無事で良かった」
エレナは煬帝たちのことより、俺が無事だったことを喜んでくれた。これは嬉しい。
俺たちは東上町に戻り、加藤医院へ寄った。そこでは加藤と武藤が話をしていた。俺たちを出迎えた二人は、無事だったことを喜んでくれた。
「だけど、無謀だぞ。あまり自分の力を過信せずに慎重に行動しろよ」
俺のことを心配してくれているのだと分かっているので、感謝した。それからバックパックに入った薬剤や包帯などを加藤に返した。この病院から煬帝たちが奪ったものだ。
「ありがとう、感謝の言葉もないほどだよ」
加藤は深く感謝した。武藤と守護者がいない間に、病院から薬剤や医療関係のものを持ち出そうという話をしてから、俺とエレナは保育園に戻った。
「お帰りなさい」
土井園長が俺たちの姿を見て声を上げた。
遊戯室では、子供たちが積み木で遊んでいる。その中の一人がエレナを見つけて声を上げた。その声でエレナの周りに子供たちが集まる。
「ねえねえ、今日はどんな魔物を倒したの?」
メイカがエレナに尋ねた。
「今日はゴブリンよ」
エレナは回収したゴブリンの心臓石を子供たちに見せた。
「コジローは、どんな魔物を倒した?」
コレチカが目をキラキラさせて尋ねる。俺は苦笑してから、ゴブリンの王様みたいな魔物を倒したと告げた。
「えーっ、本当?」
「本当だ。心臓石を見せようか」
コレチカが頷いた。俺はバックパックから守護者の心臓石を取り出した。
「うわっ、デカイ。コジローはすごいんだな。僕も強くなりたい」
「それには、大きくなってから修業しなきゃな」
「修業?」
コレチカは修業が何か分からなかったようだ。
子供たちが寝た後に、俺はゴブリンの心臓石を一つ取り出した。俺は心臓石からゴブリン護符を作った。作り方は簡単だった。心臓石加工術に似ていたからだ。
出来上がったゴブリン護符は、黒水晶で作られた勾玉のようなものだった。護符に開けられた穴に紐を通してネックレスのようにする。これを首にかけていればゴブリンが襲ってこないはずだ。
俺は同じものを六個作った。
とりあえず、エレナと武藤たちの分である。これで本当に護符が機能するのか確かめようと思ったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます