雷神の武器に頼る
意図せずに得た”黄昏の
”凝固暗黒エーテル塊”を粉末状になるまで砕き、”黎明の香”と良く混ぜ合わせる。
その後”ヴァンパイア・ブラッド”にその混合物を浸した状態で高圧電流を与えたならば、性質の変化が起こり、”黄昏の煤”となるようだ。
作り方はシンプルそのものではあるけれど、それなりのパワーを必要とする作業のように思われる。
まず、”邪竜アジ・ダハーカの濃縮エーテル”はかなり堅い。
隣国からの帰国後、硬度測定器で計測してみたところ、ダイアモンドに近い数値を示していた。ステラの腕の力では砕けないだろうし、魔法を使うにしてもそれなりに高度なものを要するだろう。
それに、最終工程で必要とされている”高圧電流”についても曖昧だ。
「どうやって素材を加工しようかな~?」
しばし考え込み、一つの武器を思い出す。
「あ……。インドラさんの”金剛杵”なら、新しい魔法を覚えなくても、両方の加工が出来るかも」
”金剛杵”とは以前ヴァルドナ帝国に行った際、懐かれてしまった武器だ。
武器が懐くとはおかしな現象であるけれど、そうとしか思えないような出来事だった。
元々アレは雷神インドラが所持していた。
しかし、インドラが人の身に転生し、神としての力を失ってしまったため、”金剛杵”は彼を主と認めなかったようだ。
そんなこんなで、ステラの元にとどまった”金剛杵”なのだけど、ステラとしては正直ラブラブなカップルを邪魔しているような気分になっている。気軽に使うなんて気分にはなりようがなく、今まで一切使うことなく【アナザー・ユニバース】の中にしまい込んだままだ。
そのうちインドラが迎えに来て、”金剛杵”とはお別れになるだろうと考えていたのに、全く来ない。そればかりか手紙すらよこさない。”金剛杵”は意思ある武器なのだし、機嫌を伺うついでに、ちょっと使用したほうが良いような気がしてきている。
「……上手くいくかは分からないけど、一回だけ”金剛杵”を試してみよう」
王室の儀式までもうあまり日数もない。しかし、ステラは謎の直感で”黄昏の煤”を作り上げた方が良いと思い込んでしまっている――人によってはそれを現実逃避と呼ぶかもしれないが……。
なんにしても、今日は”邪竜アジ・ダハーカの濃縮エーテル”を複製をしたため、ステラのMPはスッカラカン。
作業は明日に回した方が良さそうだ。
◇◇◇
一夜明け、ステラはジェレミーのお手製の朝食をたっぷりと食べてから、【アナザー・ユニバース】を使用し、”金剛杵”を格納してある空間の中に入る。
本日は午後から学校に登校する予定なので、あまりもたもたとしていられない。
「おぉ……」
久しぶりに見た金剛杵は、相変わらず危険なほどにプラズマを帯びていた。
近づくほどにパリパリと帯電する音が大きくなり、ステラが傍に立つと、一度大きくスパークする。
その威勢の良さにステラは一度ビクリと飛び跳ねてから、おずおずと話しかける。
「もしもし~? ”金剛杵”さん聞こえてるですか~? 久しぶりですが、ちょっと力を貸してほしいんです!」
”金剛杵”はステラの声が聞こえたのか、武器全体を覆うプラズマが柄の部分だけ解けた。ステラが持ちやすいようにとの配慮なんだろうか?
拒絶されなかったことにホッとし、ステラは「有り難うなんです」と呟く。
無事に再会を果たせたので、作業開始だ。
シートを広げた後、ポケットの中から”邪竜アジ・ダハーカ”の濃縮エーテル”を取り出し、シートの上に置く。
「えーと、まずはこの石ころを粉々にしないと……、”金剛杵”さん、刃物や爪を引っ込めて、ダンベルっぽくなれないですか?」
今の形状では武器の両端から刃物やかぎ爪やらが生えており、このままでは石が中程度に細かくなった後に、うまく当たらなくなりそうだ。
でも、よく考えてみると古の武器に対して「ダンベル」などと言っても通じるはずがなかった。
「ダンベルは分かり辛いかな。えーと、何て言ったなら伝わるんだろう??」
アレコレと候補を考え始めたステラだったが、全くの
金剛杵の両端から刃物やかぎ爪が消えて無くなり、つるりと滑らかな球状になったくれたのだ。
「ナイスなんです! これなら使いやすそうです」
大喜びで”金剛杵”の柄の部分を握り、持ち上げる。
ゴツイ外観をしているというのに、やはり羽根のように軽い。
ステラはそれをひと思いに黒い石に振り下ろす。
すると、さほど力を入れていないにも関わらず、真ん中からパッカリと割れた。
「真っ二つ! すんごいです!」
あっけなく石が割れ、ステラは歓声をあげる。
硬度の数値がダイアモンドに近かったのに、こうまでスンナリいくと怖いくらいだ。
”金剛杵”の使い勝手の良さに気分が良くなり、黒い石ころをドンドン叩き、細かくしていく。
砂粒ほどのサイズになってから、”黎明の香”を加え、今度はガラス棒で混ぜる。
作業は順調そのもの、後は最終工程を成功させるだけだ。
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