他国への出荷の難しさ
ヴァルドナ帝国からガーラヘル王国へやってきたロカ・レスリムは、向こうの国で移住に必要な手続きをとってきたようなのだが、こちらの国ではまだらしい。
しかしながら、ステラ達が出願する予定の試験は、ガーラヘル王国の王位継承権を持つ王女エルシィの侍女を決めるものなので、外国籍の人間が受けられるかどうかは怪しい。
「とりあえず、ロカさんが参加できるかどうかについては、明日生徒会長さんに聞いてみるとします!」
「お願いします」
ロカが深々と頭を下げた後、何故か相棒もヤル気をみせてきた。
「ステラよ、儂の参加の可否も聞いておいてくれ」
「アジさんもですか??」
「うむ。考えてみよ。先ほどお主が口にした試験科目の中に、お主自身が対応出来る科目が一つでもあったか??」
「全く無いです!」
「そうであろう? ならば、儂が居た方が確実ではないか」
「ふーむ? たしかに」
アジ・ダハーカの言うことはもっともなので、是非彼にも参加してほしい。
それと、彼が協力者1人分とカウントされるか、それともステラと1セットとカウントされるかも聞いてみたほうがいいだろう。
ステラはメモ帳を取り出して、明日生徒会長に聞くことを殴り書きする。
(メモメモ。え~と、あとは……。ロカさんを客室に案内して、不足している物が無いか聞いて~)
頭の中でアレコレ考えながら、ロカの方を向くと、彼女もまたステラを見ていた。
「ロカさん、何か気になることがあるです??」
「あります。ステラさんのアイテム販売についてなのですが、”ヴァルドナ帝国の冒険者ギルドでの販売をどうするか”、考えておられますか?」
「ええ!? あ……あんまり……」
意外と踏み込んだ質問をされ、びっくりする。
ガーラヘル王国に帰って来てから、アレムカとの件への対処や新アイテム作りなど、地味に色んなことをやっていたため、ヴァルドナ帝国で獲得した販売権については全く考えていなかった。
他国で販売出来るということは大きなチャンスなので、真面目に考えるべきなんだろう。しかし、今のステラでは一度に複数のことを考えるのはなかなかに難しい。
「――現在、ヴァルドナ帝国ではステラさんの人気が凄く高まっています。これを一時的なものにしないためにも、ステラさんが作ったアイテムを帝国で販売したほうがいいと思います」
「そんなに人気者になってるですか!」
ステラは微妙に悔しい気分になる。
他所の国で一生に一度あるかどうかのレベルで持ち上げられていそうなのに、この国に居てはまるで実感出来ない……。
「帝国内で販売を拡大したいと考えているなら、今がとても大事な時なんです」
「うーん……。実はアイテムの生産が間に合ってなかったりするです。ほんのちょっとなら帝国でも売れるかもなんですけども……。でも……」
「心配事があるんですか?」
ロカと話しながら、ステラは現状について考えた。
ガーラヘル王国でも複数の店舗でアイテムを販売しているわけだが、クリスへの借金返済があるため、思い切ったことが全く出来なくなっている。
しかも、クリスのアイテム製造機はダンジョン核を動力源としていて、一日に作れるアイテム数が制限されている。
そのような事が重なり、最近はアイテム士でいるのが少々窮屈に感じていた。
自分が抱える悩みをポツポツ話してみると、ロカは力強く頷いた。
「なるほど。たしかに、アイテムの開発だけじゃなく、生産や機材管理、在庫調整、販売計画なんかも全部一人でやるのはかなり大変でしたね!」
「うぅ……。分かってくれるですか??」
「痛いほど。私が一度、ステラさんのアイテムの販売価格について見直してみます。それと、上級生の方への借金はゴンチャロフ皇帝から
「うんうん!」
「あと、ダンジョン核が必要なのでしたら、レイフィールドの元調査団メンバーに声をかけてみます。ステラさんが困っていると知ったら、ちょうど良いのを採って来てくれますよ」
「そ、そんな事までしてくれるですか!? すっごく申しわけないような気がするです!」
「大丈夫です!」
ロカの薄水色の瞳を見ていると、彼女の言葉を信じてしまいそうになる。
だけども、それほどまでに他人に頼るべきではないような気もする。
だんだん冷静に考えられなくなってきたため、アジ・ダハーカやエマの方を見てみると、彼等はしっかりと頷いた。
「ステラよ。ヒトという生き物の多くは、恩を感じれば返さずにいられなくなるものらしいぞ。一度ヴァルドナの者どもの好きにさせてみてはどうか?」
「人の幸せ、色々ある」
長く生きる(記憶を持つ)彼等の言葉だからこその説得力がある。
一度、ロカ達に頼ってみてもいいかもしれない。そのうえで、やっぱり自分が貰い過ぎたと感じたなら、チマチマとお返しをしよう。
ステラは腹を決め、ロカに頼んでみることにした。
「ロカさん、ダンジョン核とか、アイテムの販売金額の見直しとか、色々頼っちゃっていいですか!?」
「任せてください!」
彼女と話したお陰で、ステラはなんとなく地に足が付いた感覚になった。
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