駅前販売を開始

 鉄道会社の物販部部長と打ち合わせてからの二週間は、ステラが最も苦手とする各種書類やら、数量管理やらの連続になった。


 まず”似非エーテル薬”については、魔法省の役人であるエスカードにフォローを頼む形で魔法省に成分検査をしてもらい、およそ10日間程で新薬としての承認を得た。特許を取った方がいいのではないかと、エスカードにアドバイスされたものの、こちらは拒否することにした。

 というのも、この”似非エーテル薬”は妖精の国で得たレシピであり、ステラが考案したわけではないからだ。

 そのような事情でも特許はとれるらしいけれど、どうせだったら、自分1人で考えたアイテムを特許申請したい。


 それに、自分1人でこのレシピを独占したいわけでもない。

 出来るだけ多くのアイテム士がこのレシピに改良を加え、ヴァンパイア達がより効き目の高い薬を手に入れられるようにするのが理想的だ。


 クリスが作っていたポーション製作機の方は、試作版が完成し、すでにマクスウェル家に搬入されている。

 材料やら空き瓶やらを所定の位置に入れると、ベルトコンベアから完成品が出て来てくるので、感動的なほどに便利だ。後は床に散らばった製品をアジ・ダハーカと一緒に、一日に二度ほど取りにくればいいのだから効率は段違い。


 しかしながら、この製作機は頻繁にエラーが発生し、気が付くと作業が止まっていたりする。機械音痴なステラは厄介な問題だったけれど、これにはエマが助けになってくれた。

 彼女のスキル【万能修繕】でエラーが解消するのである。

 自分の力が役立つと分かってからは、エマのモチベーションはかなり上がったようだ。警備の為の巡回のついでに製作機のチェックもしてくれるようになり、原因不明に作業が止まる時間が減った。


 そんなこんなで、ポーションの生産量はかなり増え、当初クリスが言っていた一日あたり240本ものポーションを用意できるようになっている。

 品質の方もそれなりキープ出来ている。


 実験の為にマクスウェル家のひまわりの茎を切断して、回復スピードを観察したところ――――


 ステラの手作業によるポーション>(4秒の差)>大量生産ポーション>(10秒差)>以前駅前の売店で売られていたポーション


 ――――くらいの性能差なので、商品にしても問題ないだろうと判断出来た。


◇◇◇


 あれこれ忙しくしているうちに季節が移り変わり、外を歩けば時折肌寒い風が吹くようになっていた。


 出品を開始する当日。

 前の日の夜には、駅に併設された売店への出品準備はほぼほぼ完了したものの、ステラは朝から落ち着かない。

 あれだけ在庫を用意したのに、全く売れなかったらどうしたらよいだろうか??


 場所は物販部部長との話し合いで冒険者ギルド前駅の売店と、西区の駅売店の二か所に絞った。前者には製作機で作ったポーションを、そして後者にはステラが手作業で作った”似非エーテル薬”をそれぞれ搬入している。

 似非エーテル薬の方はフランチェスカやカーラウニに宣伝をお願いしているが、ポーションの方は運に任せるしかない状態だ。


 ステラはいてもたっても居られなくなり、アジ・ダハーカと共に冒険者ギルドの前まで出かけた。

 建物の影に隠れるようにして売店の様子を眺めてみるに、人の流れはいつもの通り。ステラのポーションが置かれている辺りを気にしている者は居ない。

 こんな状態では予定していた200本が売れるとは思えない。


「うぅ……。無念なんです。家に帰ったら、ポーション制作機を一度止めようかな」

「ほう? 何故だ?」

「何故って……。売れてなさそうだからです!」

「そうか? この位置からでは売店内部は全く見えぬが」

「売店で足を止める人達は全員違う物を手に持って離れていきますよ? 私のアイテムはスルーされてるんです!」

「しっかりその目で見てから落ち込むべきだろう!! 行くぞ!!」

「うあっ、アジさん!」


 小さなドラゴンがステラの近くを離れ、売店の方へと飛んで行く。

 売れ行きを確認するのが怖いステラではあるが、相棒に先を越されるのも悔しい。

 なので、仕方がなしに彼の後を追いかける。


 足をもつれさせながら、辿り着いた場所で見たのは、まさかの光景だった。

 ステラが作ったポーションが綺麗サッパリ消えている。


「……ふむ」

「完売なんですっ!! やったぁ」


「おや、来てくれたのか」


 すっかり顔なじみになった、売店のオジサンがステラ達に目を留め、口元を緩めた。


「お疲れ様なんです! 私のポーションは全部売れたんですね?」

「ああ。開店と同時に小さな白髪の女の子と、茶髪の青年が我先にとあんたのポーションを購入してくれてな」

「ほへ?」

「むむ……」

「熱心なファンが居るアイテム士なんだな。感心感心」

「そいつらはマクスウェル家の――モガッ!!」

「アジさん、余計なことを言ったら駄目なんです! ではこれで失礼しますです!」


 ステラはアジ・ダハーカの口を塞ぎ、急いで売店を離れた。

 完売したのは、きっと普通の客が買ってくれたからではない。

 恐らく義兄のジェレミーとエマが朝一で売店に来て、ポーションを買い占めてしまったのだ。


「うぐぐぅ……。家に帰ったら、二人を問い詰めてやるんですっ!!」

 


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