地上の見回り(SIDE コリン)
コリンはクラスメイトのワトと共に魔法学校の陣地を出てから、東側に位置する用水路エリアまで来た。そこで水上にぽっかりと浮かぶエーテルだまりを発見し、やや離れた所から観察している。
仲間たちとの事前の打ち合わせで、扱い方についての説明を聞いてはいるのだが、少々不安だ。
「これをどうやって潰す?」
ワトは彼の
というのも、先ほどの凄まじい爆発音が未だ耳に残っているからだ。魔法学校の陣地の方角で立ち上っていた火柱や煙を思い出すと、微妙に嫌な予感を覚えずにいられない。
「さっきの爆発さ、やっぱり……エーテルだまりが関係してそうだよね」
「そんな気がする。王女殿下とレイチェルが無事だといいが」
「本当にね。……ていうかさ、僕達も他人事じゃないよ」
「言いたい事があるなら、変な前置きをしないで、さっさと言ってくれ」
「うん。エーテルだまりは君の回復魔法で潰してくれないか? 打ち合わせで決めたように、僕の攻撃魔法でエーテルを消費した場合、僕達自身の身が危ないような気がする」
「……」
回復魔法を専門とするワトなら、無害な利用法を思いつきそうである。
期待を込めて見つめる先で、彼は思案顔であごを撫でる。
「膨大なMPが必要な魔法となると、なかなか……」
「何か一つくらい有るんじゃないかな?」
「……どうせなら俺達自身にメリットがあった方が良いよな。うーん……。【ダメージペースト】でも使ってみるか?」
「お! 確かその魔法って、肉体に受けたダメージを全て無効にして、近くに居る者に全く同じ攻撃を食らわすんだっけ?」
「ああ。防御力やバリアなども一切無視するから、かなり優れた魔法だな」
「いいね!」
「地味だけど、大魔法の一つなんだよな。初めて使うが、亜空間に術式を描いておいているから、呼び出せばいいだけだ」
「流石ワト。こういう機会でもなければ使えないだろうし、やってみるといいよ」
ワトはコクリと頷いた後、用水路の中にざぶざぶと入り、右手を発光体に
しかし、すんなりとはいかない。
一度球体が強く光ったかと思うと、バチンとスパークする。
手を抑えて、前かがみになるワトにギョッとし、コリンは彼に駆け寄る。
「ワト!」
「くそ痛ぇ……。やっぱスンナリとはいかないか」
「無理そうなら、僕が他の魔法を使うけど」
「不可能な感覚ではない。何回かやっているうちに、発動するだろう」
彼の言葉を裏付けるように、発光体は数回スパークした後、ワトの支配に下った。白い魔方陣がコリンとワトの足元に現れたかと思うと、スッと二人の身体に吸い込まれ、同時に発光体が消失した。
魔法による刺激は何もないが、これで【ダメージペースト】の効果があると考えても良いのだろうか?
「魔法は1時間ほど有効だ。そして1度発動したら効果が無くなる」
「そうなんだね。商業学校の人達と会ったら、僕と君、離れておくべきじゃない?」
「後方に居るぞ。俺は回復専門だからな」
「それでいいよ。この日の為に攻撃魔法を磨いてきたんだ。僕の実力に君は驚くはずさ」
「俺の支援とステラちゃんのアイテムがあるからと、無茶しすぎるなよ」
「勿論! さて、次は北側に向かおうか。エーテルだまりを潰すのも大事だけど、王女殿下達に何かあった時の為に、カーラウニを狩るチャンスを伺わないと」
「了解だ」
用水路から離れた二人は、地図に示されているエーテルだまりのポイントを巡りつつ、北側を目指す。
しかし、辿り着いた敵陣はもぬけの殻になっており、カーラウニの姿はどこにも見当たらなかった。
コリン達が担当している東側についてはもうだいたい見て回ったが、友人三人で構成されるもう片方の班の様子が少々気になる。コリンやワトに比べてやや戦闘力に劣る面々なので、相手が悪ければ普通に負けるだろう。
二人で話し合った結果西側も見て回る事になり、再び遺跡の建物の間を歩き出した。そして、10分ほど後に頭を抱えることになってしまった。
ナラの木の根元に友人三人が倒れているのを見つけたのだ。
「うわぁ、やられてるよ!」
「息があるし、目立った外傷がないな……」
「でも苦しそうに見える。内側から蝕まれているんじゃないかな?」
「あり得る」
「君、分析魔法は出来る?」
「俺はステラちゃんと違って分析魔法が得意じゃない。しかし状態異常のみは予想出来る」
「やってみて!」
「ああ。【シック・プロスペクト】」
ワトは赤ら顔の友人の胸に手をかざし、体の状態を分析する。
空中に表示されたデータに唖然とした。
「は……? 急性アルコール中毒?」
「だな」
まさかサボって酒でも飲んでいたんだろうか?
ステラの為に戦うという目的の下、強く結束していたはずなのに、この体たらくは許しがたい。
「こいつらには失望したな。絶交だ!」
「ちょっと待て……。何かおかしくはないか? カーラウニはクラフトビールを作ってるんだよな? 偶然にしては出来過ぎというか。うまく言えないが……」
「……」
「はぁ、とにかく毒素を抜くぞ」
「……勝手にしなよ」
ガチムキながらも心優しいワトが回復魔法を使用するのを眺めつつ、コリンは周囲を観察する。確かにクラスメイト達の周囲に酒瓶等は見当たらない。
魔法で消し去ったんだろうか?
(ワトの言う通り、コイツ等がサボるなんてあり得ないような気もする……。良く分からないな。なにはともあれ、この状態だと、西側のエーテルだまりのポイントを全て回った方がいいかな。えーと向こうの地形は……)
キョロキョロと辺りを見回すコリンだったが、路地の奥を見て身構えた。1人、2人、3人……、もっと居る。
商業学校の制服を着崩した少女達が、下卑た笑みを浮かべながらこちらに向かって来るのだ。
「ワト……。商業学校の奴等が来た」
「……罠だったか」
未だに倒れる少年たちは、スッカリ顔色が良くなっており、危ない状況からは脱したようだ。彼等がコリン達を裏切ったかどうかは分からないが、どちらにしても守らなければならないだろう。
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